驚愕
美蘭は自室で舞を舞っていた。
イライラするときは身体を動かすのが一番、そう言う自説を持っていたが、今美蘭に許された運動はこれくらいだ。
曲を口ずさみながら足を上げ、腕をゆったりと動かす。
着ている衣装がずっしりと重いので、意外にいい運動になる。
女官というものは常に傍に控えているのが普通だが、美蘭は自室にいるときは人払いしている。
元々常に傅かれていた立場ではないので、落ち着かないのだ。
一通り待ったら一息つく。
あらかじめ淹れておいた冷めたお茶を一気に飲み干す。
「うん、美味し」
安い茶は冷めたら飲めたものではないが、さすがの高級品、冷めてもそれほど味が落ちない。もっともお茶を作った職人や業者はこんな飲み方をされたら傷心の涙の一つもこぼすかもしれないが。
美蘭のいる部屋は、外に面した窓がない、明り取りと換気には中庭の身という風通しの悪い設計だ。さらに、扉は常に施錠されて、門番が詰めている美蘭すら事由に出入りが難しい。
だが、それゆえ、余人が入り込むことはできない、そのはずだ。
なのに物音がした。
「誰?」
結構大きな音だ、鼠のような小動物の立てる音ではない。
美蘭は武器になるものを探した。そして、一部屋一部屋に用意されている外に連絡するための鐘につながる紐。
まず、髪に差された笄を引き抜く。
そして、上着を止めていた帯を緩める。いざという時すぐに滑り降ろすためだ。
そして、髪を束ねていた組紐をほどき戦闘用の持ち方にした。
これも、また芯に細い針金が仕込んである。
後宮に来てから、ひそかに武器になるものを隠し持つのが習慣になってしまった。
そして、足を軽く開き、臨機応変に動ける姿勢を取る。
この部屋は人の侵入を防ぐ役割もあるが、中にいるものを逃がさない役割もある。
もし相対したら、場合によっては逃げきれない場合もある。
となれば早期に決着をつけるのがいいだろう。
今まで直接人を殺したことはない。しかし、間接的なら、かなりの数殺しているはずだ。
それに、生きた鳥くらいは捌いたこともある。
美蘭は呼吸を落ち着け、時を待った。
相手は、優雅に舞など踊っている。
一部垂らした髪がわずかな身じろぎとともにさらさらと音を立てる。
なめらかな指先が優雅な弧を描く。
不意に、相手の動きが止まった。
何度か、頭に手をやるのが見えたが、それ以降動かなくなる。
「なんだ?」
気づかれて、様子をうかがっているのかといっっ春緊張したが、ここまで来たらやるべきことをやるだけだ。
扉を押し開け、中に入る。
手にした短刀で、目の前の女を差せば、すべてが終わる。
女が手にしたものが片目に当たって思わずたたらを踏む。
そして上空から予期せぬ衝撃を受けた。
いきなり侵入してきた見知らぬ相手をこれまた天井から降ってきた見知らぬ相手が押しつぶしたのを、女は目を丸くして見つめていた。




