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とりとめもない内緒話

いかにも話したくないという顔に王はいささか気分を害した。

 仮にも夫に対してとる態度だろうか。

 そして、なんとなく自分の妻という自覚が美蘭にはないのだろうかという疑惑にのめりそうな気分になる。

「ええと」

 美蘭は言いよどむ。

 どう考えてもある程度話を聞かないと納得してくれそうにない。

「実は、顔見知りにあったかもしれないのです」

「顔見知りにあったかもしれないとはどういう状況だ?」

「神殿に奉納に行くとき、羅を被っていたのですが、ちょっとした間違いでそれが外れてしまいまして」

 実際、あの連中は何が楽しかったのだろう。

 美蘭の顔は、羅の向こうで判別できなくなっているのに、なんであんなに一生懸命覗いたりしたのだろう。

「その時に、声をかけられました」

「顔は確認したのか?」

「いえ、すぐに駆けつけてきた女官達に羅をかぶせられてしまいましたし、たぶん官吏の一人だと思うのですが」

 実際話していると、本当にとりとめもない話だ。

 そして美蘭は声の主の名前すら覚えていないのだ。

 本当に生きず里以上の関係ではない。共通で見たものがあまりに衝撃的ではあったが、それぞれが名乗りあうこともなかった。

 そういえば、真影が、寧州に行っていて本当に良かったと思い出す。

 真影としても思い出したくないことだったろう。

「それで、どういう知り合いだ?」

「一度会っただけです、それも数年前のことで」

「お前は数年前、一度会っただけの人間の顔をいちいち覚えているのか?」

 問い詰められると、話さずを得なくなる。

「あの、ちょっとえげつない話なんですが」

 美蘭は目を閉じた。

「強盗殺人の現場に居合わせたんです、それで、父親が殺されるって騒ぎそうになった子供を取り押さえました。見つかれば私達まで殺されるって思って」

「賢明な判断だが」

「子供といっても私より年長でしたが、お前たちのせいで父親が死んだとそれはそれは恨まれまして」

「殺したのは強盗だろう」

 王の言葉に美蘭は苦笑する。

「たぶん、当たりやすいところにいたのが私だったんでしょう」

「それで」

「生き延びた甲斐があったな、その言葉だけが聞こえました」

 王はしばらく考え込んでいたが、そのまま美蘭の頭をたたいた。

「お前は悪くない」

 美蘭は何とも言えないような顔で王を見た。

「何か、悪いものでも食べましたか?」

「どういう意味だお前は」

 雰囲気をぶち壊しにされてしばらく王の機嫌は悪かった。


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