夢路
これは夢だとわかる夢がある。
美蘭は路地裏を歩いていた。
学問所の帰り、近所に住むほかの少女たちと連れだっていた美蘭はなぜか、路地に椅子と机を置いて座っている男に呼び止められた。
机には易と書かれた紙が貼りつけてあり、筮竹と呼ばれる占いの道具が置かれていた。
「お嬢ちゃん、寄ってかないか」
占いが何か美蘭はその時知らなかった。しかしその時の状況を考えると、なんで占いで食えると思ったのかが謎だ。
食べる物にも事欠く人間がいくらでもいたというのに。占いなんぞに金を落とす人間がいると思っていたのだろうか。
「お金ないよ」
美蘭はそれだけ言うと足早に立ち去ろうとした。
その襟首をつかんで別の少女がそのままその男のところに美蘭を引きずっていった。
「お金ないんでしょう」
じたばたと暴れる美蘭を少女たちは笑って引きずっていく。
「何を知りたい?」
男が笑うと、目が糸のように細くなる。
「お嫁に行けるかな」
ある意味切実な望みを少女は尋ねる。
「そうだな」
男は筮竹をざらざら音を立ててそれから並べた。
「お前さんとお前さん、それなりの嫁入りができるだろうね」
二人の少女がぱあっと明るくなる。
そして美蘭を含む二人を差して言う。
「可哀そうだからお代はいらないよ、二人とも、まともな嫁入り先はないよ」
言われて、信じていなかったけれど、岩石で頭を殴られたような衝撃を受けた。
帳から差し込む光に美蘭は目を開く。
横で寝ている男が微かに唸る、どうやら今日は寝起きが悪いようだ。
美蘭は身体を起こすと、身支度を始めた。
美蘭の身じろぐかすかな音を聞きつけたのか、女官が入って、美蘭のみ自宅を手伝い始めた。
男はゆるゆると体を起こして大きく伸びをする。
女官の一人が、飲み物を手に寝台に向かう。
「なんで、いまさら」
美蘭はつい口走った言葉に思わず口を押える。
「何が」
同じく女官に身づくろいをしてもらっている男が美蘭の言葉を小耳にはさんだのか怪訝そうな顔をする。
「なんでも」
女官に引っ張られて朝化粧をするために浴室に連れていかれる。
これが終わったら食事の支度をしなければ。
別に女官に手伝ってもらわなくても身支度ぐらいはできるのだが、これがここのしきたりだと言われればどうしようもない。
髪をくしけずられながら、夢を思い出す。
占いは結果的に当たった。
嫁入り先があると言われた少女たちは、それぞれ、役人と商人に縁談があった、今頃は嫁いでいるだろう。
そしてまともな嫁入りがないと言われた一人は、独身のまま死んだ。そしてもう一人の美蘭は、一応嫁いだが。
後宮に嫁ぐのが、まともの範疇にはないだろう。少なくともあの頃の自分にとってまともという基準内になかった。




