廊下の向こう
真影はぽかんとして周囲を見ていた。
豪華絢爛。言葉にすればそれしかない。
王宮の中でも真影がいた辺りは結構地味なつくりになっている。
床を見れば色合いの違う木を組み合わせ、精緻な模様を作り上げている、その床が果てしなく長く続いている。
壁を見れば真っ白だが、何か壁に塗ったものに混ぜてあるのかきらきらと光を受けて輝いている。
横木には精緻な彫刻が刻み込まれ、それも延々と廊下が続く限り施されている。
一つ身分が上がれば、こんな世界があるのかと真影は驚いた。
「おい、そこの新入り、何呆けている」
お目付け役の叱責が飛ぶ。真影は慌てて、書類を抱えなおした。
黒い官服を着た若い男が真影から書類を受け取る。
「用が済んだらさっさと帰れ」
犬でも追い払うように言い捨てるとそのまま踵を返す。
多分、いいところの、おそらく上級貴族の坊ちゃま上がりだろう。
端正な顔立ちに権高の物腰からそう判断した。そう間違ってはいないだろう。
黒はかなり上級にいかないと着れないはずだ。それを考えれば、おそらく真影と同じかもっと年下の時に合格し、そのまま出世コースを進んだのだろう。
文字通り雲の上の人だったな。
そう思いつつ真影は元来た道を戻ろうとした。
どこを見てもきらきらしく美しい。お目付け役がいなかったら絶対迷子になるなと真影はそんなことを考えながら廊下を進む。
いきなりお目付け役が廊下の隅に寄り、膝をつく。
慌てて真影もそれに倣った。
そよそよと衣擦れの音がする。
袖を顔の前に翳して顔を隠す。それが貴人にあったときの礼儀だと最初に教えられた。
狭い真影の視界に最初に入ったのは薄い桃色の絹だった。
どうやら上流階級の女性らしい。
団扇で顔の半分を隠し、しずしずと進んでいく。その背後を女官が一人付き従って進む。
女性の後ろ姿が完全に見えなくなるまで、真影は膝をついたまま動かなかった。
お目付け役がゆっくりと立ち上がる。
「あれ、吾亦紅殿だよな、こんなところで何をしていたんだ」
王に通われることもなく、ひっそりと後宮に暮らしている妃がこんな場所で何をしているのかと不思議そうだ。
真影は忘れられている妃の割にいいものを着ているなと的外れなことを考えていた。
団扇で顔を半ば隠していたし、不自然な態勢と狭い視界なので吾亦紅の妃の顔は全く覚えていない。
「美人、だったんでしょうか」
「でなけりゃ、後宮に進めないと思うが」
ほんの一つ廊下を外れただけなのに、一気に周囲がみすぼらしくなった。
いやみすぼらしいのではなくこれが普通だと真影は思いなおす。
壁一つ隔てた世界は全くの別世界で地続きなのが信じられない気がしたが。
「いつか、あっちに行けるかな」
たとえ研修が終わっても二つ三つ昇進しなければあちら側には行けない。
その数年後を真影は思った。




