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缶詰と騎士と天才魔女

 とんとん、と私の部屋の扉がノックされる。

 ようやくできたか。


「あのー、エルカ様、お料理ができました」


 寮の夕食の後に料理人に仕事を頼んだところ、材料を買い過ぎて余らせるところだったようで快諾してくれた。とはいえ急な仕事であるため、報酬も相場より多めに用意しておいた。


「わかったわ、今調理場に行くわ」


「で、本当に器に盛り付けなくて良いんで?」


「ええ、そのままにしておいて」


「はぁ……」


「それとあなた、この荷物を調理場に運ぶの手伝いなさい」


「あ、はい」


 わたしは料理人に荷物をもたせた。開拓者の杖がブリキを切り裂いて作った容器だ。

 初め、ブリキの板をどうするのかと思ったら、杖自身がそれを使って工作したのだ。杖がまっすぐな青い光を放つと触れた部分が鋭利に寸断される。そして四角に切られた材料を私が筒状にして、底の部分に丸く切ったブリキの板を合わせる。そして次に杖が、合わせた部分を緑色の光で照らす。すると、ただ合わせただけの部分がぴったりとくっついた。水を入れても漏れなさそうな容器のできあがりだった。

 ……大仰なことをした割には何の変哲もない、ただの容器だ。何故これを自慢気に作ったのかわからなかったが、杖は「いいから任せろ」としか言わない。大して金もかかってないことだし興味もあるので、任せることにした。失敗しても大して害にはなるまい。


「なんですかこれ? ブリキ?」


 料理人は不思議そうな様子だった。気持ちはわかる。


「気にしないで」


「はあ……わかりました」


 寮の調理場に向かうと、皿に盛りつける前のスープが鍋で煮えていた。


「内容は?」


「トマトベースのスープで、具は腸詰めと香味野菜でございます」


「よし、助かったわ」


「して、次はどうすれば良いんで……? こちらで召し上がるのは避けて頂けると……」


「この缶を丁寧に洗うのよ。それが終わったら少し席を外しなさい。そりゃもちろんここで食べたりしないけど、口止め料込みの報酬のはずよ」


「はぁ……わかりました」


 料理人は手慣れた様子で缶を洗い、わたしが確認する。


「よし、良いわ」


 料理人は不思議そうな様子で、料理人のための休憩室へと戻っていった。

 出て行ったのを確認してから杖に声をかける。


「さて……これで良いのね?」


『おう、煮えてるな。問題ない。これをブリキの缶に入れていくんだ』


「ったく、わたしがなんでこんな仕事を……本当に大事なことなんでしょうね?」


 わたしはおたまを使って缶に具とスープを入れていく。


『ああ、これが実現したら色々と世の中変わるぜ。もしかしたら外国の上手い果物なんかも簡単に手に入るようになるかもしれん』


「もしかして、魚料理も?」


『おうともよ。むしろ魚介の方が合うかもな』


「良いわねそれ! こっちは内陸だから、舌がヒリヒリするような塩漬けしか無いのよ、それも馬鹿みたいに高いし!」


『へぇ、お前は魚が好きなのか』


「地元が海沿いだからね……よし、と。缶に入れたわよ。零れそうなくらいひたひたにしたけど、本当にこれで良いの?」


 わたしは会話しながらも缶に料理を詰め終える。


『で、ここからまた火を通しつつ蓋を密閉する。そこにブリキの蓋を乗せてくれ。底を塞いだのと同じく蓋も塞いでいくから俺を持って構えてくれ』


「わかったわ」


 杖が紅い光を照らすとそこからまた暖められた。

 そして沸騰したところで同時に蓋を先ほどと同じ緑色の光で塞いでいく。

 作業は簡単に終わった。

 しかし金属を簡単に切り貼りするのだから、この杖も相当なのだろうな。

 あまりひけらかさない方が良いのかもしれない。




★☆★




 料理人を戻らせ、今度はわたしの部屋までスープの入った缶を運ばせる。

 料理人には口止めも忘れなかった。わたしが寮を壊したことなど色々と逸話は知っていたようで、十分に脅しになったようだ。クリュセイス家の人間は万事詰めを怠るべからずである。わたしが今考えた家訓だ。後継者にも伝えていこう。ま、銀貨で報酬を与えてやったのだからこのくらいの脅しは罪に入るまい。


「で、大丈夫なんでしょうね?」


『お前も疑り深いやつだなぁ』


「だってあんな安物扱ってる道具屋で買った材料の容器なんて、不安にもなるわよ」


『成分分析はしてる。健康被害はまず出ねえ。……ちなみにブリキってのは錫でメッキした鉄板のことだ。わかるか?』


「どうやって作ってるかは知らないけど、安物の灰皿とかおもちゃとか、そういうのに使われるんじゃないの?」


『そうだな。で、なんでそんな風に使われるかわかるか?』


「知らなーい」


『ちったぁ考えろよ学生だろぉ?』


「だって別にブリキの恩恵に預かってるわけじゃないし。おもちゃなんて木で良いのよ。何処にでもあるし削るのだって簡単だわ」


『この脳筋め……。ともかく、これは腐食に強いんだ』


「さびないってことね」


『まあ錆だけじゃねぇんだが、平たく言やあそういうこった』


「……で、食べ物の容器に使うってのはわかったけど、これで本当に何ヶ月も持つわけ?」


 そう、そこである。この缶詰は開けない限りは数ヶ月、あるいは数年持つという話だった。塩くて堅い干し肉を齧って旅したこともあるわたしにとっては確かに素晴らし過ぎるものだが、こんな簡単に実現できるというのは流石に眉唾と思わざるをえない。


『ジャムやビールの粕の瓶詰めと同じで、加熱と密閉をちゃんとやってりゃ問題ない。今回はズルして俺が密閉したが、現状の技術でも十分に作れるはずだ。カシメで蓋を閉じるなんてそう難しくはねぇしな』


「カシメ?」


『乱暴に言うと、鉄をぶっ叩いてくっつけたり、ハメ殺しにしたりするやり方さ。リベットとか鋲とか聞いたことねぇか? 金属鎧の部品を繋げてるボタンみたいな見た目の奴だ』


 そう言われれば見たことはある。


「……あー、なんかそんなのあったかも」


『ま、とりあえずちゃんと缶を洗って、缶ごと料理にキッチリ火を通して、空気が入らないよう密閉する。それで問題ねえ。逆に言えば、空気に触れているものは悪くなる。火がきっちり通ってねえ料理は腹を壊す。それなら話はわかるだろ?』


「……」


『ま、心配すんなって。どうしようが結果はちゃんと出る』


 青い宝玉が、どこか満足気に光っている。

 そこまで言うならば、できあがった物の心配はしない。

 でも、心配しないほどの物を作れるからこその疑問が出てくる。


「…………あんた、本当に何者なの?」


『名乗ったじゃねえかよ』


「そういうことじゃなくて! なんでそんなこと知ってるのよ! 長生きして魔法に詳しいってのはまだ納得行くけど、見たこともないような物作れるってのは絶対おかしいわよ!」


『……ほほーう、お前にしちゃ悪くない着眼点だ。そういう疑問が出るのは良いぞ』


「もしかして、破滅をもたらすって、本気なわけ?」


『……難しいところだな』


 弱々しく青い宝玉が明滅する。なんとなく光のパターンがわかってきた。これは困っているニュアンスだ。


『信じてもらう他ないが、俺は異世界からやってきた』


「イセカイ? どこそこ? わたしの地元、馬で10日くらいだけどそれより遠い?」


『……あー、うん、それよりめっちゃ遠い。超すげー遠い』


「……なんか説明が投げやりになってない?」


『なってねえよ。それはともかく、俺の世界は相当発達しててけっこう暇人が多くてな。『自分達の歴史や文化を発信して、何処かにいるかもしれない誰かに届きますように』ってことで、色んな記録を詰め込んだ物をぶっ放したのさ。ボトルメールみたいにな』


「ふぅん……」


『で、俺が何の因果かこの世界に辿り着いたってわけよ。俺の本職は元の世界の知識を広めること……つまり缶詰作ったり学校作ったりする方だ。魔法の知識については実はこっちで勉強した後付の知識なのさ』


「……にしてはずいぶん詳しかったけど」


 学校の教師がわからないことをピタリと言い当てたのだから生半可な知識ではないはずだ。


『そりゃ人間とは生きた時間が違ぇからな。俺は人間が魔法を創りだした頃から居たんだぜ』


「……全部覚えてるの? 前の所有者とか、前の前の所有者とか」


『……やけに聞きにくいこと聞くじゃねえか』


「良いじゃない。あんたのこと何も知らないんだし。わたしのことばっか喋ってて不公平でしょ」


『ま、ぶっちゃけ気に入らん奴には手を貸さなかったってのもあるが、俺の所有者は良い奴だったよ。だがケンカ別れもしたことはあるし、俺が手を貸したことで破滅しちまった奴も居る。俺の所有者の死因ナンバーワンが何か知ってるか?』


「な、なによ……」


 いつになく暗い声で、杖は答えた。わたしは不覚にもうろたえてしまった。


『…………生活習慣病だ』


「はぁ?」


『糖尿病とか高脂血症から来る脳卒中とか……あと生活習慣病とは違うが、痛風とか……。ものすごく乱暴に言うと、脂っこいものや酒を飲み食いして死ぬっつー贅沢な死に方だ』


「……破滅って言うのかしら、自業自得の堕落じゃない?」


『そうかもしれんが、俺が助けすぎちまったことが原因の一つであることは確かだ……人生半ばで満足して、酒池肉林の生活を送った奴もいる。そいつには悪いことをした。ただ道具としての本能で、どうしても助けちまう』


「意外と悩みが多いのね。なんでもできそうな癖に」


『知恵や知識とか、あるいは腕っ節、あるいは権力……。何かしら力があれば、人を助けるってのは簡単さ。だが、救うってのは本当に難しい。長いこと生きてきて未だに結論が出ねえ』


 杖の青い宝玉が、ぼんやりと灯っている。

 わたしも、剣の腕で人を助けたことはそれなりに多い。

 でも真に人を救ったことがあるかと問われると、わからない。


『まあでもお前なら安心だな、俺が何をどうしようがトラブルが舞い込んできて平穏には生きられなさそうだし』


「うるさいわね」




★☆★




 次の日、騎士団からの使いの者が来た。

 今日はきっちりと朝から起きて身だしなみを整えておいた。ローブを羽織る横着はせず、ちゃんと外歩き用のスカートにお気に入りのワインレッドのマント。缶詰もできた。準備万端だ。

 なのに、なんでビビってんのあんた達。


「はっ、お荷物はお持ちいたします……!」


「馬車もご用意させて頂きました! ささ、どうぞこちらへ!」


「あ、あのー、騎士様、普通に話してくださって構いませんが」


 一応、職務中の騎士はそれなりの権利が与えられるから、こんなにへりくださなくても良いはずなんだけど……大体わたし、今現在はご令嬢なんて身分でもないし。


「そんな、恐れ多い!」


「かの『宵闇の女神』に対等に口をきくなど!」


「…………なにそれ?」


 初めて聞くあだ名だ。


「テスカトリポカを退治した冒険者が誰なのか、これまでは箝口令が敷かれていたのですよ。当時現場に居なかった者には情報がほとんど入らなくて……。冒険者仲間どうしでは情報は行き交ってるらしいのですが、我々と冒険者どもでは情報のやりとりも難しく……。今回のモンスター討伐でご一緒できるとあって、ようやくご尊顔を拝謁する機会に恵まれました」


「あのテスカトリポカが創りだした悪魔の太陽が真っ二つに割れたところだけは遠目に見れたので……夜を取り戻した宵闇の女神だと噂をしあっていたものです」


「はぁ……まあ何でも良いですけど、ともかく、よろしくおねがいします」


「「はいっ」」


 ちょっと、いや、相当恥ずかしい……寮の生徒からも何事だろうと囁かれてしまった。だがこんなお姫様扱いされるなど、この街に来て今まであっただろうか。

 馬車で午前中から出かけるなんて、目立って嫌なのよね……と普段ならば思うのだが、馬車が大通りを我が物顔で走ることに、わたしは爽快感すら覚えた。


 ……えへへ……たまにはこういうのもいいわね……。


『お前ちょっとキモい』


「うっさいわね」




★☆★




 バロル白翼騎士団の詰め所は、冒険者ギルドの近辺だった。


 詰め所に入った瞬間、真新しい建物特有の匂いがする。人の手垢に汚れて消される前の、石や木屑の放つ瑞々しい香りだ。だがそれよりも気になるのはわたしを見る目だ。畏怖の目もあれば好奇の目もある。こういうところは冒険者ギルドと変りないんだなと思うと残念だ。しかし、何というか、迎えに来てくれた騎士達の敬慕の視線とでも言うべきものは新鮮で、いつになくうろたえてしまいそうだ。


 ふふん、宵闇の女神様のお通りでしてよ。


「来て頂けましたか。ありがとうございます。学校の方は大丈夫ですか?」


 ゲイルが丁寧に迎えてくれた。


「ええ、大丈夫です……建物、綺麗ですね。武具も新しいですし……」


「お褒め頂けるのは嬉しいのですが、まだ本来の仕事を本格的にできていない証拠でもあるので自慢できないのが辛いところです」


「いいことじゃないですか」


「ありがとうございます。ところで、そのお荷物は?」


『缶詰だ』


 あ、勝手にしゃべるなバカ。


「あ、えーと、新しく作った保存食です。探索に便利ということで……」


「保存食ですか? ふむ……面白そうですね。探索には必須ですし」


「後で詳しく説明します。で、えーと、探索の打合せってことですよね……?」


「そうなのですが……その前に、ちょっと私の執務室に来て頂けますでしょうか」


「ええ、構いませんが」


 ゲイルに案内されて上階へと行く。

 通された部屋は、几帳面に書類や本が整理された、学者然とした部屋だった。いや、下手な魔法学園の教師よりも整理されてる。部屋は性格が出るとは聞くがゲイルもその典型だろう。騎士団長補佐ともなればそれなりの給金も出ているだろうが、本代に消えてそうだなと思った。


「……で、会議をする前に2つだけ、はいかいいえで答えて頂きたい」


「良いですけど……」


 ゲイルの声はひたすら真面目だった。

 遊びで冗談めかせる雰囲気でもなさそうだ。


「あなたがテスカトリポカ事件を起こした原因の一人である、そうですね?」


「はい」


「あなたは事件終了後、誓約書を書いた。そこに偽りは無い。そうですね?」


「……はい」


「ならば問題ありません。大変不躾な質問をして本当に申し訳ない」


 ……あれ? そんだけ? もっと聞かれると思ったのだけど。


「えーと……わたしが言うのも何ですが、良いのですか? わたしが具体的に何をしたのかーとか、なんで冒険者ギルドに恨まれてるのかーとか……」


「私が書類を読んだ上での認識は、あなたは巻き込まれた被害者側です。ただ、あなたの力が強すぎた故にとやかく言う人は居ますがそれは個人的な感情の域を出ません。もっと言えば、あなたではなく騎士団とギルドがモンスターに対処できていれば何の問題もなかった」


「まあ、そうかもしれませんけど……」


「あなたの戦闘が凄まじく怪我人や家屋の被害が相当に出たというのは事実ですが、それをあなたに原因を求めるのは責任転嫁という者です。もっと言えば、災害級といえど対処できなかった騎士団と冒険者ギルドが悪い」


「良いんですか、そんなこと言って」


 けっこう過激なことを言う人だな。意外。


「……というのが私見ですが、秘密にしておいてください」


「は、はぁ……」


「私も口が滑ることもあります」


 仏頂面のまま照れている。意外とお茶目な人だった。




★☆★




 さて、予め言っておこう。


 今回の件については、わたしが悪かった。


 ちょっとだけ、ほんのちょっと、調子に乗ってしまったのだ。


 珍しくお姫様扱いされて、珍しく骨のありそうな男に出会って。


 ゲイルも、あとから聞いてみればまだ26歳で、騎士団長補佐としては相当若い年齢だった。成人したての血気盛んなひよっこ騎士達を押しとどめるには、まだ少し重みが足りなかったのかもしれない。


 ゲイルとの面談を終えた後は、詰め所の会議室での会議に招かれた。50人ほどは居ただろうか。そこで騎士団員を交えての『眠らずの森』と『厳氷穴』を探索するときの注意やモンスターの特徴についての講義をすることになった。やっべ、モンスターの名前とか忘れちゃった、なんとなくのフィーリングでしか覚えてないわ……と思ったが、騎士団員の方で既に名前や特徴、おおまかな外見が描かれた資料が用意されていた。会議はゲイルが資料を読み上げ、そこにわたしが補足をつけたり質疑に応答するという流れになった。


「……というわけで、なぜ眠らずの森という名前かというと、暗闇に乗じる夜行性の熊型モンスターに襲われること、そして様々な状態異常を引き起こす虫型モンスターによって興奮状態や幻惑状態にされて夜に眠ることも出来ないことから名付けられた。……特に森での行動は注意することはあるだろうか?」


「あ、そうですね……岩鎧熊は生命力が高いので首をはねるのが一番ですが、無理ならば捕縛を狙い、後ろ足の膝裏を狙って下さい、そこが一番脆いので」


「ちょーっと良いかい?」


 目つきの鋭い、黒髪の角刈りの若者が挙手した。


「あ、はい、なんでしょう?」


「……俺はどーにも、あんたが眠らずの森と厳氷穴のレコードホルダーとは思えんのだよね」


「マーカス、控えろ」


「しかしゲイル殿、これでは士気が保てないのでは? 幾らなんでも騎士たる我々が、か弱い女子に監督して貰うなど……ましてやモンスターとの戦いなど土台無理な話でございましょう?」


「私は控えろ、と言ったのだ」


 一瞬しんと会議室は静まり返る。

 だが、叱られたマーカスという若者は何処か不満そうだった。


「……マーカスと同じ意見の者は居るか」


 またどよめきがあり、一人、また一人と手を挙げる。

 ひのふの……7人ってところね。


「お前ら、宵闇の女神を侮辱する気か!」


「ホラならもっとマシな話をしろよ!」


「なんだと!」


「…………やめろ! 意見の相違があるのはわからんでもない。だがそれを客人の前で見せるのは騎士のすることか! 恥を知れ!」


 騎士達が言い争いになったところで、ばん! とゲイルが机を叩く。

 客に見せるなといっても、客であるわたしは別に気分を害してはいないんだけどな、少なくとも仕事に対してみんなやる気はありそう。わたしはこういう血気盛んな連中は嫌いじゃないのだ。バロルの冒険者連中は無頼を気取って礼儀もなってない癖にあんまり冒険しないからダメ。特にエイナスがダメ。あいつら意外と安全志向だもん。

 ……でも、血気盛んな若者を押し留めて纏めなきゃいけない騎士団長補佐って本当に大変そう。よし、何かと手助けして貰っている身だ。ここはひとつ、宵闇の女神様のお慈悲をあげちゃおうじゃないの。


「……えっと、マーカス様、だったかしら」


「あ、ああ。なんだ」


「か弱い女子に監督されるのは嫌だということは……腕に覚えがおありで?」


「おうともよ」


「あら、それはそれは……とても頼もしいですわ」


 嬉しくて、嬉しくて、つい笑顔になってしまう。


「その頼もしさを、わたしに一つ、ご教授くださいませんこと?」


 だから、ほんの出来心だったのだ。


 その日を境に、『宵闇の女神』とわたしを呼ぶものはいなくなった。


 そして新たに、『新月の羅刹』という名が、わたしに与えられた。






 …………こんなはずじゃなかったのに。くすん。


多分次は日曜あたりに。

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