50 入学式
「……ました。最後は新入生代表による挨拶です。新入生代表の方はよろしくお願いします」
校長先生の挨拶も終了し、司会の生徒会長が告げる。
新入生代表として壇上に上る瑞葉。美雪の隣に座る海彩はそれを見て、美雪の肩を何度も叩いた。海彩は瑞葉が新入生代表だと知らなかったらしいけれど、当然美雪も知らなかった。
周りの生徒達もざわついている。それは別に瑞葉が有名人なわけではなく、ましてや全員が瑞葉と知り合いなわけでもなく、新入生代表として出てきた生徒が髪を染めていることに驚いているのだ。加えて制服のネクタイはリボン結びになっているし、スカートの丈も短い。
しかし瑞葉はそれを気にせず、衣嚢から折り畳まれた原稿用紙を取り出し挨拶を始める。
きっかり三分後、瑞葉が挨拶を終える頃には、生徒達のざわつきもすっかり収まっていた。
美雪は改めて瑞葉に感心させられていた。
瑞葉は新入生代表の挨拶が書かれた原稿を取り出したものの、一度もそれを開くことなく挨拶を終えたのだ。普通ならば噛まずに読めるよう練習するだけで充分なのに、瑞葉はそれをわざわざ暗記したのだ。根はとても真面目なのだろう。
そしてその光景は、瑞葉の格好に興味を抱く全ての生徒が目撃していた。瑞葉を見ているのだから、当然瑞葉が原稿を開かずに暗唱している所も見ている。
興味もない長文を覚えるなんて、余程面倒くさいことだろう。ましてや遊びたい盛りの中学生最後の春休みにとっては。