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340 強奪
「ねえ椅子貸して! 代わりに雪ちゃんのお弁当のおかずあげるから!」
瑞葉が隣の席に座っていた子に声を掛ける。
「勝手にわたしの弁当を交換対象にすなっ!」
咄嗟に美雪が抗議した。
「ん……」
隣の子は黙って首を横に振る。前髪が長くその表情は見えなかった。
「かー、やっぱ冷凍食品じゃダメかあ―」
「お母さんの手作りだよ、失礼なっ」
瑞葉の脇腹に美雪の手刀が命中する。
「ん!」
瑞葉が悶ていると、隣の子は立ち上がって椅子を差し出してくれた。
「ん!? いいの!?」
「ん」
首を縦に振った。
「もしかしてさっき断ったのって、“雪ちゃんのお弁当はいらない”って意味だった?」
「ん」
もう一度、首を縦に振って頷いてみせた。