2 相葉瑞葉(アイバミズハ)
これを見たら二人はどんな反応するかな?
春休みの間に染めて少し明るくなった髪の毛を指先でくるくると弄る。染める前にかなりばっさりと髪の毛を切ったので、自分の目では確認できなくてちょっと残念。
雪ちゃんは怒るかも。海彩ちゃんは大爆笑すること間違いなし!
高校生バージョン雪ちゃんの初怒りを拝むためにももっと色々と仕込まなければならない。
スカート短くしてー、ネクタイはちょうちょ結びにしてー、してー……。あれ? ちょうちょ結びってどうやるんだっけ? 何回やってもちょうちょの羽の部分が縦に傾いて格好悪くなってしまう。
時間が気になって時計を見るとそろそろ家を出なければいけない時間になっていた。ふと、遅刻すれば雪ちゃんに怒ってもらえるかな? なんて考えが頭をよぎる。いやいや、それはダメだとあたしは頭を振った。きっと雪ちゃんと海彩ちゃんはあたしが遅れても待ち合わせ場所でずっと待っていてくれる。あたしのせいで二人が遅刻して怒られるのは、どうしても嫌だった。
まあでもあたしは雪ちゃんを怒らすんですけどね。
雪ちゃんに迷惑をかけない程度に雪ちゃんに迷惑をかけたい! っていう矛盾しまくりなあたしの……趣味? じゃないな。……性格? でもないし。……人生? そう、人生! 雪ちゃんはあたしにとって人生! なんてね。
「おかあさん! ネクタイちょうちょ結びにして!! 雪ちゃんに構って欲しいから!!」
あたしはおかあさんがいる台所に駆け込んだ。
洗い物をしていたおかあさんは、蛇口から流れる水で手に付いている洗剤の泡を落とす。
「入学早々、雪ちゃんに迷惑かけちゃ駄目よ?」
そう言ってタオルで手を拭くとあたしの汚いちょうちょ結びをほどいた。そのままネクタイに結び直されるかと思いきや、その手はちょうちょを結んでくれている。
おかあさんへ感謝の気持ちと、同時に疑問も生まれる。
「ありがとうおかあさん。でも言葉と行動が一致してないよ」
「雪ちゃんにしっかり怒ってもらいなさい」
おかあさんはにこにこしながら言った。
「おかあさんは怒らないの?」
「友達に怒ってもらった方が身に入るのよ」
「そーかな?」
でもたしかに、年上の人から頭ごなしに怒られるよりも同い年の子から同じ目線で怒られた方が心に効きそうな気もする。
「それにお母さんが怒るとしわが増えちゃうし」
「そっちが本音か!」
さっきの言葉は出任せだったらしい。
「ほら、できたわ。これでどう?」
おかあさんは携帯電話であたしの写真を撮るとその画面を見せてくれた。
「わっ、ありがとう! おかあさんこれ待受にする?」
「気分しだいね。とりあえずお父さんのケータイに送っておくわ。さあ、行ってらっしゃい」
「うん! 行ってきます!」