1 藤美雪(フジミユキ)
「入学式って何かいるものあったっけ……」
誰に向けるでもなく、自分の部屋でわたしはそう呟いた。
教科書やプリントなんかは説明会の日に貰っているから今日は鞄はいらないだろう。
「筆記用具があればいっかな」
筆箱からシャープペンシルと消しゴムとボールペンを取り出し、制服であるブレザーの胸ポケットに入れる、入れたところで瑞葉と海彩の顔が思い浮かんだ。
「瑞葉はあほだし、海彩は何も考えてないからなあ……」
二人とも手ぶらでやってくるかもしれない。
もうニセット分の筆記用具を用意しておいた方が良いだろうな。
筆箱から瑞葉と海彩の分の筆記用具を取り出して胸ポケットに収める。
「美雪ー。早くしないと学校遅れるよー?」
部屋の外、階下から姉が声が掛けてきた。この声の大きさだときっと、お隣さんにも聞こえてしまっているに違いない。まったく、恥ずかしい。
わたしは「いま行くー」と少し大きめに、しかし姉よりも小さな声で返事をした。
部屋を出る前に、自分の格好におかしなところがないか姿見で確認しておく。
校則に則った染めてない黒髪、肩にかからないよう結んだポニーテールもどき、まっすぐなネクタイ、しわのない制服、スカートの丈はちょい膝上、太ももまで覆う長い靴下。
よしっ。完璧な女子高生の姿がそこには映っている。
……ただひとつ、気になる点を挙げるとすれば胸だろうか。
別にわたしの胸が小さいとか大きいとかではない。胸ポケットが若干弛んでいるのだ。三セット分の筆記用具のせいで。
「筆箱に入れてくか……」
歩く度に片胸に妙な重量感を感じるのも気持ち悪いので胸ポケットに入っている筆記用具を全て、机の上に置きっ放しにしていた筆箱に戻す。
しかし筆箱だけ持ち歩いて登校するというのもどうだろうか。
「鞄に入れてくか……」
瑞葉と海彩とお揃いで買った通学鞄に筆箱を突っ込む。ついでに後日提出するプリント類も忘れない内に鞄に入れておこう。
「美雪ー!」
再び姉に呼ばれ時計を見ると予定より少し遅れていたことに気が付いた。
「ごめん、いま行くー!」
わたしは慌てて鞄を背負い、自分の部屋を後にした。