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僕は華に囚われる  作者: 松屋
1/3

prologue

黒色のセミロング、ぱっちりとした茶色を帯びた目は"女の子"の様。

紺色のワンピースの上に黒のジャケット、クリーム色のスカーフがトレードーマークというまさに「お嬢様」な制服を身にまとう

これが僕、これが私『桐村翠』


                        ▼


私には妹がいた

双子の可愛い可愛い妹。

喧嘩もしたけど可愛くて大切な妹であることはかわりがなかった

毎日は春の日差しのように私たちへ暖かく優しかった

母のつくったパンケーキを毎日食べて夕暮れの鐘がなるまで二人で遊んだ

ふたりの間には何もいらなかったし誰もはいらせなかった

父はそんな私たちのことを温かく見守り母は心配をしながらも笑みを浮かべる。

そんな日々

そんな毎日


だけど、春は永遠ではなかった

それはある冬の日。

その日は何年かぶりに雪が降ってきて大人は困っていたけれど子供の私たちにとっては関係なかった、不格好な雪だるまを作り真っ白な世界に足跡を残しかじかんだ手でジュースを飲んで笑い合う

父はぼやきながら車に乗って仕事へ向かった。母は私たちを暑いぐらい服を着せて幼稚園へと連れて行った

私たちは幼稚園なんて気に入らない場所に行きたくなかったけれど家にはないおもちゃがあることでしょうがなく行ってあげてた、そんな子供の傲慢さ。

そしてその時は来てしまった

白い世界で遊び続けていたけれど父も母も私を迎えには来てくれなかった

幼稚園の先生は日が暮れるにつれ険しい顔をしていた

電話の音と大きな足音

強く残ってるそれだけの場面シーン


父と母は死んでしまった


父は他の車のスリップ事故に巻き込まれ打ちどころ悪く即死

母は買い物中にひかれかけた子供を庇って死んだ


なんて冗談だろう

二人は他人のせいで仲良く死んでしまった


最初は実感なんてわかなかったし『死』すらわかってなかったけど両親が戻ってこないということは時の流れで知ってしまった

柩に入れられた二人をみて私たちは泣けなかった

ただなぜあんな狭いところに父と母は寝ているのかわからないまま


残された二人は当然誰が引き取るかという話になった

私は叔母夫婦のところへ

妹は母方の祖父母へと


離ればなれになってしまっても妹と私はいっしょだと誓い合う、それがただ子供にできるままごとだった


                        ▼


私と妹は12歳になっていた

離れてから数度しか会えていない妹

それでも大切で可愛い妹

辛いことも多かったけれど私は妹に情けない姿なんて見せたくなくていつでも威勢を張っていた

叔母夫婦は私のせいで離婚した

私なんかがいると新婚の夫婦というのはうまくいかないらしい

叔母である母(仮)は「あなたのせいではないの、あんな人だと分からなかった私が悪いの」と言ってくれたが確実に私のせいだった。

でもそんな叔母の気遣いを無駄にしてはいけないとなんとなくにわかっていて冷めた気持ちを隠しながら頷いたけれど今思えば叔母には見透かされていた気がする


私は無神経な子供だった

なんとなく人の気持ちをわかってしまうし妹としか深く接してこなかった私は人付き合いというのが下手だった。上手くこの能力を使えればよかったのだがそんな繊細なことは私には無理だとすぐにわかってしまった。

だから必然的に気づいても何も言わないという簡単なコトをするようになった

怒っていても悲しんでても愛しまれても何も言わず黙って頷いた

それだけで私の世界はうまく回るようになった


そんな生活になれてしまっていた


春は長くなくいつか冬が来ると経験していたはずなのに迂闊だった。


妹が死んだ

はじめは意味がわからなかった数年あってない妹

手紙を交換していたのも最初の数年間でいつか帰ってこなくなった手紙

知らせが来ないのもあっちで楽しくやっているだろうと思い少し寂しさを抱えながら手紙を送らなくなった妹

可愛い可愛い大切な妹

死んでしまった妹


真っ黒で灰色な時間はただただ流れて会えたのはいつかの両親のように柩に収められた小さな体

妹は自分にそっくりで眠っていた

ただ泣けず見つめ合っている

君はどんな時を過ごしなぜ死んでしまったのだろう

灰の時間はただ過ぎる



                       ▼


何も身に入らない私を叔母はなにもいわず学校へ風邪をひいたのだと連絡した

あまりに引きこもってる私を心配した叔母は私を公園へと幼子のように連れて行った

そこは地元で有名な大きな公園で小さな子供だちが母親と父親と一緒に遊んでいる

飲み物を買ってくると離れていった叔母はまだ帰ってこない

ボーと空を見ながらただ座っている


「君は何をすべきなのかな?」


黒い男は来た

灰色のコートに黒いマフラーと黒い靴の黒髪の男

金色の目は彼が何者かわからなくさせている

だけどそんなことどうでもいいことだ


「妹さんがなくなったんだってね」


こんな知り合いはいない


「なぜ死んでしまったのか?」


通り魔に刺された


「なら可愛い妹のためにするべきことはわかってるじゃないか」


・・・


「さあ君の悲しみも怒りも虚無もすべてを昇華してくれる楽園へ行こう」


「君も今日から『桐村翠』だ」


遠くなくしてしまった名前に涙がこぼれる

流せる涙なんてあったんだ

ただ悲しくて怒りがわいて空っぽで、そんな私でも泣けたんだ


「君は美しい、美しい器には美しいモノが似合う」


そうして私は『桐村翠』になった。




                           

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