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準備を整えいざ出発!装備品が豪華?細かい事は気にすんな☆

 冬樹の部屋から出た夏姫は、自室へと向かい飛翔していた。

 この飛翔の原理は簡単。地形と重力を司る地魔法『無重力ゼロ・グラビド』で体に掛かる重力を消し、その体を風魔法『操風ウィンド』で運ぶ。

 何故『飛翔フライ』で飛ばないのか。もちろんちゃんとした理由がある。

 まず一つ目。この世界に『飛翔フライ』等という魔法はなく、風魔法の初歩たる『操風ウィンド』のみで飛ぶのはかなり燃費が悪い。

 平凡な少年が異世界で戦闘機やルーンの力で活躍する某アニメのように、風を使って飛ぶとなると、体を浮かすだけでも台風や竜巻レベルの風力が不可欠なのだ。加えて飛ぶ個人の自重やその身に掛かる重力も計算に入れなくてはならない。

 二つ目。周りへの被害がバカにならない。

 飛ぶたびに竜巻の如き風を起こさねばならないため、ヘタに風魔法のみで飛翔しようものならその風が周りの家屋や人や家畜等々を吹き飛ばし、目的地までの道を風で荒らす。さらに規模が規模なだけに魔力消費が激しい為、大した距離は飛べない。まさに百害あって一利なしなのだ。

 故にリアルファンタジーなこの世界では、地魔法で己に掛かる重力を無くすか半減させ、軽くなった身を風に乗せた方が魔力効率がいいのだ。言わば、『無重力ゼロ・グラビド』と『操風ウィンド』を合わせた魔法が『飛翔フライ』と言えるだろう。

 


 Q;いつ学んだの?

 

 A;この世界に召喚されたその日、つまり一昨日です。

 異世界だよ? ファンタジーだよ? そりゃ魔法が使えるなら使いたいでしょう。

 

 この世界には魔法が属性ごとに色で仕分けされている。

 赤、黄、青、茶、緑、白、紫の七色。

 赤は火炎、黄は雷光、青は水氷すいひょう、茶は地重ちじゅう、緑は旋風、白は神聖、紫は生命を司る。ただ、人には適性があり、常人に扱えるのは二属性が限度らしい。さらに、適性があったからとてすぐに使えるわけでもなく、その属性のことわりを理解して初めて魔法は使用可能となる。

 幸い、私は白を除く六色全てに適性があった。六色全ての理を学ばなければいけなかったため、知恵熱を出してしまったが……。


 唯一使えない聖魔法。これは人間と亜人にのみ使える代物で、魔人たる私には使う事ができない。


「……んー?」


『どうしたんだナツキ?』


 帰路の途中、城の一点をジーッと見る。

 刀から発するアルサクスの声をシカトして、見つめている城壁に近づきペタペタと触りだす。


 「んー、ここ……かなぁ」


 やがてまさぐる手は一か所でピタッと止まり、てのひらを起点に黒いナニカが広がってゆく。

 魔力だ。掌から黒いナニカが放出され、円形に広がり、城壁を覆う。

 やがて城壁を覆う魔力が静かに消え、覆われていた城壁が跡形もなく消失した。


「わお、綺麗さっぱり無くなってる。便利だよねぇ、闇魔法って」


 闇魔法。

 理不尽な転成の代償に聖魔法を失った哀れな魔人(夏姫)が得た、新たなる魔法。人界には存在しない、魔族だけの魔法だ。

 闇はあらゆる物質・物体を消すことが出来る。高い魔力があれば生命の消滅すら可能らしい。

しかも空間と空間を繋ぐ事も可能なんだとか。

………滅茶苦茶チートだな。


 しかし、魔法であるが故に魔族といえど才の無いものには扱えない上、強力な神聖魔法を使われれば破られるらしい。


 消えた城壁を潜った先は、かなり淀んだ雰囲気の部屋だった。

 消えた城壁跡から差し込む日差しで、そこに何かがある程度しか見えない。


「『光珠ライトオーブ』………うわぁ」


 部屋の中は異様の一言。雰囲気はどんより重暗く、黄魔法で大きめの『光珠』で照らしているにも関わらず薄暗く感じる。

 もう封印された部屋だとしか思えない上、部屋に収納されている武器や防具や装飾品、書物に至るまでもれなく邪悪オーラを垂れ流している。

 

「ほう……これはこれは。」


 勝手に刀から出た霊体アルサクスは興味深そうに目を細めながら物品を見回し、うんうんと頷く。


「なんか暗いオーラがハンパないんだけど。これ呪われてんじゃないの?」

「まあ半分はそうだろうね。ここにある物品のもう半分は魔界の産物のようだね」

「え、じゃあもう半分は呪われてんの?」

「呪われているというほどのものではないだろうが、それに近いものだ。大方、製作者か使用者の執着心ともいえる思念が宿っているのだろう。大したことはない」

「それをこっちのじゃ呪いの品って言うんだよ。大したことあるじゃん。これ思念ってより怨念じゃん。どの辺が大したことないのさ」

「全てが怨念であるとは限らないさ。対話で解決できる思念もいる。怨念には力の差を見せつけてやればいい」


 アルサクスの提案をガチで実行しようかと悩んでいると、部屋の片隅に置いてある本が光りだす。


「……なにあれ?」

「いや、僕にもよくわからない。敵意や害意はないようだが……」


 本から発する光は、やがて本から分離してうごうごと蠢いたのち、人型を形成する。

『我に呼応せし資格者よ、よく参られた。ここにあるは故エディアノス・ヴァイゼンベルグが造りし最高傑作』

「エディアノス・ヴァイゼンベルグ!? なんと、ここでヴァイゼンベルグの魔具が拝めるとは……」

「え、知ってんの?」


 アルサクスは驚きの顔を崩さず話す。


「勿論だ。エディアノス・ヴァイゼンベルグは魔界で知らぬものはいないほど有名な人物だ。僕の2代前の魔王の時代に活躍した、魔界きっての鍛冶師にして天才魔法師。魔人と人間のハーフで、鍛冶師たる母と秀才の魔法師たる父両方の才に恵まれ、魔界の鍛冶文化に大きな影響を与えた上、たくさんの新魔法を発明した伝説の偉人だ」

「へぇ、そりゃ凄い」


 と、感心していると。エディアノスの思念っぽいのが語りかけてくる。


『汝、我が魔具と知識を欲するか?』

「……魔具はいらんけど知識をくれるなら欲しいとこだね」


 しょうみ今のままで十分だし。


『汝、魔具を欲さぬは何故か?』

「いや、まあ現時点でこいつのおかげでめっちゃパワーアップしてるし、そんな凄い人の最高傑作とか使いきれる自信ないから」

『成程、正しき道理なり。では、知識を欲するは何故か?』

「そりゃあ知識はあっても困らないから」

『………その通りではある。しかしそれは汝の目的ではなかろう、真なる目的は何か?』

「ウーン、隠し通せそうにないか……。隠し通す気もないから別にいいけど。ここの奴ら私と幼馴染みを召喚したは良いけど、元の世界に帰る方法を持ってないっぽいんだよね。だから、エディアノスさんの知識でどうにかなんないかなぁと思ってさ」


 何かを召喚する術が存在するのならば、その理論を応用して元の世界に帰る方法が存在するはずだ。

 いや、存在してもらわねば困る。異世界に召喚されて、帰れないなどという理不尽が許されるハズがない。


『異なる世界からの召喚……か、恐らく我が主の残した魔法理論が元になっているのであろうな。よもや主の理論を薄汚い人間どもに利用されるとは……』

「え? 君ってエディアノス本人じゃないの? ってかエディアノスさんなんでそんな人間嫌ってんの?」

「然り。我は主エディアノスに作られし思念体なり。我は主の命によりこの魔導書に宿り、人間どもからこの遺品を守りつつこれらを手にするに相応しき資格者を待っていた」

 

 思念体曰く。故・ヴァイゼンベルグ氏は、その出生ゆえ人間たちから迫害され魔界に住んでいた。

 幼くして両親から受け継いだ才を発揮した彼は、当時の魔界の多大な発展に貢献したそうな。

 事が起きたのは、彼が20歳の時。異常な魔界の発展を危惧した当時のウィストリア国王は斥候を放った。

 発展の元が氏であると知った国王は、彼の出自を調べた後、高らかに叫んだそうな。


 『エディアノス・ヴァイゼンベルグは、その出自ゆえ人魔界の境界線におり我等人間より早くその才を知った魔族に誘拐された。囚われの身のヴァイゼンベルグを救い出し、その技術を用いて魔族を討ち果たすのだ』


 勝手にもほどがあるな。

 そこからは一方的な殲滅であった。

 もともと彼の暮らしていた地は魔界の端。それも非戦闘種族ばかりの村である。

 対して攻め込んだ人間側は精鋭揃い。結果は火を見るより見るより明らかだった。

 非戦闘魔族は皆殺しにされ、彼は騎士達によって魔界から連れ去られた。

 

「随分勝手な話だねぇ。そのあとどうなったの?」

『………人間どもの目的は我が主の技術と知識。当然知識の提供と武具の製造を命じられた』

「で、それを拒んだと…」

『部分的に了承した』

「了承したの? なんで?」

『主に流れる人間の血への義理立てだそうだ。我には理解できぬがな』


 そして当時の魔界のワンランク下程度の知識と魔具製造法を記した書物と「これが自分に流れる人間の血分の義理立てだ」という書き置きを残し、人口思念体と魔具を造って自害した。


「で、それを私が見つけ出したと」

『然り。主は王国は使えぬ魔具は売り払うと思っていたらしいが、人間どもは何故か残した。そのせいで人間の商人伝いに魔界へ帰る事が叶わずにおったが……汝と相まみえた』

「へぇ~、それはそれは。両方にとって幸運なことだったんだねぇ。でも、商人伝いだったら誰かに買われて使われるんじゃ」

『この品々は今は封印されている。解かねばただの道具、そして解く事が出来るのは我のみ』

「なるほど。ま、運がよかったんだね私は。これだけあればこの世界で生きていけるし、帰る方法も見つかるっしょ」

『うむ。汝異世界から来たと申していたが、我が主の知識を持ってしても帰還する術がなければ、どうするのだ?』

「必ず帰る。この世界と私の知識の全てを用いて見つけ出す。無ければ造りだす」


 夏姫は、強く言い放った。

 帰れないなど、あってたまるか。出口がなければ造るまでよ!と、かの有名な錬金術師も言っていた。

 勝手な都合で異世界に呼び出されておいて帰れないなんて理不尽がまかり通っていいハズがない。最悪、全人類全魔族を巻き込んででも見つけ出してやる。奴らにはそれだけの責任がある。

 人類存亡の危機? 知った事ではない。むしろ、そんな大事を異世界の人間に押しつけるという考え自体がおかしいのだ。

 魔族には敵わない? ならば争う以外の解決法を考え出せばいい。他人任せにするなど言語道断だ。

 方法がない? ならば人類はそこまでの運命だということだ。諦めて滅ぶがいい。

 確かに私達の世界に魔族はいなかった。そのかわり、大自然が敵だった。

 そのたびに祖先たちは抗ってきた。例え敵わずとも、未来の子孫達に何かしら残し、子孫達はその遺産と知恵を武器に大自然と共存してきた。

 大きな試練とは、自分たちで突破してこそ意味があるのだ。誰かの力を借りるだけでは停滞しかない。

 

『……よかろう。合格だ、汝を我が主の智と魔具を持つに値する器と認めよう。手にするがよい。汝がそうなった原因の一部はこちらにある。主の知識が汝の助けになる事を祈ろう』


 思念体は『さらばなり』といって本の中に消えた。

 本に思念体が消えると同時に、本が開いた。

 本がパラパラと捲れ、書かれた文字が浮き出て囲むように螺旋を描いて回りだす。

 そして、ページが4分の1捲れたところで、螺旋を描いていた文字が頭に入り込んだ。


「え、ちょっなにこ…れ、う、うああああああああああああああああっ!!」


 それはさながら知識の海。

 膨大な量の知識が濁流の如く頭に入り込む。

 ガクガクと痙攣し、最後の文字が入り切ると同時に崩れ落ちた。





「う、ん……」


 目を覚ましたのは、倒れてから30分後だった。


「どうだった? 魔界最高の知識は?」

「熱っぽいし頭痛いしフラフラする。でも熱出す価値はあったよ。しかもこれで4分の1ってんだから驚くよね。かなりの量だったのにさ」

「全てではないのかい?」

「そうみたいだね。一気に全部流し込んだらパンクするから4回に分けるんだって。気遣いはありがたいけど頭痛いから勘弁だなぁ。今日のところは大事とって寝るよ……『闇のゲート』」


 自室までの空間を闇で繋ぎ、フラフラしながら『闇の扉』を潜ってベッドにダイブする。

ベッドのフカフカに包まれて、瞬く間に夢の世界へ旅立った。


 そして翌日。6時きっかりに目を覚ました。

 まずは上体のみ起こし、身体の調子を確かめて口角を上げる。どうやら万全のようだ。

 かなりの知識が脳内に流れ込んできたにもかかわらず、僅か一日で回復するのは人間から転成魔人にランクアップしたおかげか。


「おはようナツキ。体調は万全のようだね」


 ベッドのそばで椅子に腰かけるアルサクス。

 傍の机には水の張った小さなタライと布、どうやらつきっきりで看病してくれていたらしい。


「看病ありがとう、もう大丈夫だよ。着替えたら行こうか」

「ああ。ほら、君の新しい装備だ」


 ベッドから出て伸びをして、アルサクスから防具を受け取る。


「どーも。そんじゃ着替えるから、アルサクスは部屋から出て行きなさいな」

「承知した」


 アルサクスが部屋から出ると、黒のシャツとズボンを着て、ガントレット ブレストプレート グリーヴ フード付きのコート 顔の上半分隠す黒の鉄仮面を新たに取得した闇魔法『解析アナライズ』で一つ一つ解析しながら装着する。

 ガントレットとグリーヴはそれぞれの金属かと疑う程の軽さでありながらかなりの強度を持つ、胸当ても同じ材質の金属だった。

 いや、うん。それにしても……RPGじゃあり得ない初期装備だわ。

 ハーフマスクには装着者のステータスを隠蔽する付加魔法エンチャントが施されており、ブレストプレートには黄魔法耐性、コートは隠密向上と耐火耐水防刃、グリーヴには速度向上等々。唯一付加なしはガントレットと二振りの白銀のダガーのみ。

 なるほど、これはそう簡単に人には渡せんわな。


「さて…と、じゃあ行きますか。『闇のゲート』」


 転移先は王都の南城下町。

 商業区であり冒険者向けの店が数多く並ぶ城下町で最も人がおおいところだ。その分衛兵もいるが、完全冒険者装備の夏姫ならバレはしない。捜索の手が回っても人ごみを利用して脱出できる。

 榎本 夏姫 異世界に来て四日目の朝、出立す。

 勇者の片割れの不在を聞きつけた王国側はすぐに捜索の手を出したが、行方は掴めなかった。

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