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国王との話し合い

 図書館で勉強を終えた夏姫は、絶賛執務中の国王以下大臣達を呼び寄せた

 そして今、ウィストリア王国の応接室で、夏姫と国王及び大臣達が向かい合って座っている。


「さて、わざわざお仕事を中断させてまで集まって頂いてすみません」

「いえ。それで、重要な話とは一体何ですかな?」

「これからについてお話ししたいことがありまして」

「ほう。これから、ということは魔王討伐についてですな」

「まあそうですね。ただ目標内容を少々変更します」

「変更……といいますと?」

「魔王討伐ではなく、人魔共存・和平の方向で行動します。それをお伝えしようと思いまして」

「なっ、魔族と共存だと!?何を世迷言を!!」


 国王の後ろに控えてた爺さんズの一人が怒鳴る。この白髪交じりの茶髪は確か……国防大臣だったかな。

 でもこの変更は決定事項だ。覆すつもりは一切ない。

 当然彼らが抗議してくるのは予想の範囲内である。 


「言葉足らずだったかもしれません。正しく言えば人魔間で不可侵条約を結んで頂くんです。まあ手を取り合って頂いても構いませんけどね」

「愚かな。魔族は悪しき存在。我等人類の敵ですぞ。その魔族と手を取り合うなど、できるはずがない」

「その結論。そこまでハッキリ言うという事は、あなた方はキッチリと確認した上で下したものですよね?」

「どういう意味ですかな?」

「キッチリ現地に赴いて、実際に自分の眼で見て聞いて判断を下したわけですよね?相手を研究して知ることは、戦闘においても政治においても大事な事ですよ」

「それには同意しましょう。だが国防大臣も言った通り、魔族は悪しき存在であり我らの敵です。略奪しか能のない獣と手を取り合うなど出来るはずがない」


 国王が苛立ちを孕んだ声で会話に割り込んだ。


「魔族とて生き物。全員が全員脳筋や中身スッカラカンならあなた方人類はとっくに滅んでるかここまでの事態に陥っていないはずだ。相手は組織的に行動する。つまり指揮できるインテリ魔族も存在します。そもそも魔王がいる時点で魔族にも知性のある奴がいるのは明白。魔族と交渉できるか否かは私が判断しますので、あなた方は可能な場合に魔族と手を取り合っていただければ結構」

「馬鹿なことをおっしゃらないで頂きたい。人類の存亡に関わる大事を勇者殿一人に判断させるわけにはいかん」

「そうですか。なら私達は元の世界に帰りますので、自滅でもなんでもすればよろしい。するだけ無駄な行為に命を張るつもりはない」


 どちらにせよ、今までと同じ方法では何も変わりはしない。あちら側も分かっているはずだ。

 これは解決ではなく停滞だと。

 気付いてはいるのに囚われたループから抜け出そうとしない。 


「なんだと!?たとえ勇者と言えど無礼がすぎるぞ!」


 堪忍袋の緒が切れたっぽい国防大臣が叫ぶ。

 いちいちうるさいなと夏姫は心で毒づく。


 このままじゃ交渉にもならないな……。


 そう考えた夏姫は、ふぅ…とため息をつく。

 元々、普通に交渉しての成立など毛ほども期待していない。ここからが本当の交渉なのだ。

 この為に、現在まで持ちうる手札を殆ど切らずにおいたのだ。

 夏姫は目を閉じて深く深呼吸する。そして瞼を薄く開き、国防大臣を睨みつけた。

 

「っ!?」


 とても子供とは思えぬ雰囲気と鋭い眼光は、それまで夏姫をあなどる国防大臣を恐怖させる。


「無礼?はっはっは、貴方無礼って言葉の意味分かってます?私からしたらアンタ方の方がよっぽど無礼だろうが」

「我らが無礼だと!? 無礼をはたらいたのは貴殿のほうだろう!」

「其方の勝手な都合で呼び出した揚句、国家レベルの問題を押し付けるという所業が無礼ではない……と?だとしたら驚きだなぁ。これが無礼でないのなら何が無礼だろうね。あなたそんな事されたらどうなわけ?いきなり異世界に呼び出されて魔王倒して来いって言われて、はいわかりましたって頷ける?」

「そ、それは……」

 言い淀む大臣に夏姫はため息をつく。


「今頃気付いたんですか? こっちの立場になって考えたら分かる事でしょうに」

「し、しかし貴殿らは同意したはずだ」

「同意したのはあのバカです。私はハイと言った覚えがなければ頷いた覚えもありません。あなた方とこんな話をしているのは武器を貰った恩があるからです。それがなきゃさっさとこの国を出てってます」


 誰がハイリスクノーリターンの頼みを引き受けるんだっての。

 手札の内1つだけでこれだ。加えてガチモードも効いているだろう。

 若いというのはそれだけで大きな武器となる。

 闘いの場において、若ければ若いほど相手は侮り油断する。

 それは交渉においても同じ事だ。交渉人が若者であれば、敏腕でないかぎりは少なからず油断する。故に若年の交渉人はそこを利用する。

 相手が上手い具合に動揺すれば、そこが勝負の決め手だ。


「魔王を倒して円満解決するなら、この『人魔戦争』とやらは既に終わっているはずです。現に過去3回も勇者召喚して魔王を倒したのに、まだ戦争は続いてます。つまり、ただ魔王を倒すだけでは意味がないんです。それに、どうせ魔族の脅威が去ったら今度は人類同士で争うでしょう?ついこないだまで隣国と戦争してらっしゃいましたもんね」

「な、何故それを……」


 予想以上の動揺を見せる白髪ジジイ。だが白髪ジジイを動揺させても意味はない。


「人類大陸諸王国が手と手を取り合ってつかみ取った平和なのに、それを数年後にはポイして戦争。何のために平和を勝ち取ったんですかお宅らは。大臣殿は黙っててください。まあ近隣諸国との戦争はこちらとしてはどうでもいいです。争うなら勝手に争えばいい。私を巻き込まなければね。あなた方が私達を呼び出した理由は魔族の脅威から救ってほしいから。同族争いに加担する気はありません」


 大方、王国側は魔王の脅威が過ぎ去ったらそのまま何かと理由をつけて夏姫達を囲い込むつもりだろうと夏姫は考えていた。

 勇者の力は初見で見ても強大だとわかる。歩く兵器とも言えるかもしれない。

 そんなものをみすみす手放すはずがないのだ。


「国王殿。歴史書を拝見する限り、魔王は滅ぼされても復活していますよね」

「……その通りです」

「基本魔王は復活しません」

「魔王が、復活しない?」

「はい。剣の精霊から聞いた話によると、復活するのではなく、魔王たる器をもった魔人が次の魔王となるそうです」


 魔王が倒されると、そこから50年は魔界が無法地帯と化す。

 そして、魔族の中に魔王の器を持つ魔人が現れ、魔界を治める新魔王となるそうだ。

 この世界において、魔族や魔物は人間とは根本的に違う。

 魔族には『進化』というものがあり、例えば魔界最弱のゴブリンなどが顕著だ。

 魔族はある特定の条件を満たすと上位種へと進化を遂げる。

 条件は様々だが、一番多い条件は格上の相手を喰い殺す事。

 強者の血肉を糧にして更なる高みを目指す。まさに弱肉強食だ。

 そしてその弱肉強食の頂点に君臨するのが魔王なのだ。


「つまり、精霊の話しによれば何でもかんでも力で支配しようとする脳筋バカもいれば知性を持った話のできる魔王もいるってことですね。魔王が復活するたび、魔族の戦術も変わっているはずですが?」


 この事実にざわめきだす大臣達。


「ま、とにかく私は私のやり方でやらせて頂きます。どちらにせよ、この『人魔戦争』は魔族と手を取らない限り永遠に続きます。私達に任せてあなた方は安全地帯で待っててください」

「待たれよ」


 話を終わらせて部屋を出て行こうとする私を国王が止める。


「何か?」

「もし現魔王が話のできない愚か者だったなら、いかがするつもりか?」

「そうですね……。その時はその魔王を殺して、私が人類に友好的なやつを魔王に挿げ替えるか、私が魔王になりますかね」



☆   ☆   ☆



「あは、あははははははっあっはははっ!!」

「………」


 国王達との話し合いを終えて自室に戻ると、図書館でパクった本を読んでいたはずのアルサクスが腹を抱えて笑っていた。

 腹を抱えて笑うアルサクスを睨みつけ、ベッドに腰掛ける。

 何故こんなに笑っている。あのバカ共との会話がそんなにおもしろかっただろうか。


「あ、ああ…すまない。しかし…くくっははは! 見事な啖呵を切ったものだ。これだから異世界人は面白い!」

「とりあえず、アンタと私は早ければ明日遅くても二日後にはこの国を出るから」


 あんな啖呵切ったらこの国にはいられないし……何より居心地が悪すぎる。

 

 ちなみに、何故アルサクスがバカ共との会話の内容を知っているかの種明かしをしよう。

 答えは簡単。夏姫とアルサクスが感覚をリンクしているからだ。

 夏姫が魔人化する際、アルサクスは刀に込めた魔力と一緒に自分の魔力に細工を施して流し込んだらしい。

 魔力は夏姫の魔人化の過程で夏姫の魔力として変換されるが、細工された魔力は別物としては変換されず、夏姫の魔力と共に体を循環する。

 夏姫の体を操ることこそ出来ないが、夏姫が許可すれば五感共有は可能となる。

 

「ああ勿論さ。君とのこれからを考えるだけでワクワクするよ! それで、これからどうするつもりだい?」

「とりあえず魔界に行くかな。現魔王と接触するよ」

「なるほど、まあ先ほどの会話でも現魔王と話し合いすると言っていたしね。いっそのこと君が魔王になったらいいんじゃないか? 彼らにもそんなようなことを言っていたんだし」

「は? ならないよ魔王になんて」

「おや、彼らも君が魔王になる事を望んでいるよ? 今は魔王になった時は君を言いくるめて魔族を奴隷にしようなどと企んでいる始末だ。まったく腐った連中だ」


 それを聞いた夏姫は深い、実に深いため息を漏らしながら「マジか……」と呟いた。


「さてと、とりあえず冬樹に事情話して防具とか軽く拝借してさっさとこの国を出ようか。元の世界に帰る方法も考えないといけないし。ほれ行くぞ下僕あいぼう

「何か引っかかる言い方だが、まあいい。お供するよお姫様」

「良い心構えだ」



   ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆


「やっほー、私は単独で旅するからあとヨロシク」

「いきなり窓から侵入したかと思えばそれか」


 自室の窓から風魔法で飛行し、冬樹の部屋の窓に侵入した私はスパッと言った。

 呆れたようにため息をつく冬樹。

 何故呆れられなければならないのかはなはだ疑問である。

 元々原因お前じゃんか。

 私被害者、お前加害者。丸投げして何が悪い。


「色々事情があるの。私は私事で単独行動するから、適当に勇者としての務めを果たしながら異世界観光してなさいな」

「事情ってなんだ?」


「冬樹に言ってもしょうがないよ。猪突猛進バカは本能の赴くままに動いてなさいな。元々魔王退治引き受けたのは冬樹であって、私は頷いてすらないから。ピンチの時は出来るだけ力貸すから」


 まあこいつがピンチになることなどないだろうけど。

 猪突猛進なだけのほぼ超人だし、ヤバい状況下でも勇者補正とかでなんとかなるだろう……………多分。


「分かった。唯一無二の相棒にして参謀のお前のことだ。きっと俺には理解できないことなんだろう。こっちは任せて頑張れ」


 頼もしそうな顔で言う冬樹。

 ああそうだよ。どうせ言っても脳味噌の半分筋肉バカなお前に言っても仕方ない。


「じゃ、明日にはここ出るから。バイバイ」


爽やかな、実に爽やかな笑顔で手を振って、私は窓から飛び立った。

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