刀に宿りし者
後書きにてステータス全般書きます。
「…………ここどこ?」
刀の柄を握った瞬間、目の前が真っ暗になったと思ったら、真っ暗な空間に寝ていた。
えーと、落ち着け落ち着け。
とりあえず何処だここ?私は宝物庫にいたはず……。
「ようこそ、我が空間へ。歓迎するよ」
「え、まさか数少ない確率を引き当てた?マジで?」
「おーい?」
「うっわぁ……どうしよう。冬樹の話が本当なら人やめなきゃなんないよね。どうにかできないかなぁ……」
「どうにもできないよ。今ある現実を認めるしかないんじゃないか?それに、精霊が必ずしも人外の存在にするとは限らないだろう?」
「え?マジで?人外にならずに済むの?」
無視ってた声が言った言葉に思わず反応した。
声の主は柔らかな笑みを浮かべていた。
肩にかからない長さの白銀の髪、同じく白銀の眉、紅の吊り目。形のいい鼻と唇がバランスよく並ぶ。冬樹と同じ位の身長の青年であった。
一目で上等なものと分かる真黒な洋服に同じく真黒なマントには所々に金銀の装飾が施されている。
青年の身体は真っ暗な空間で発光していた。
「そうだね。僕の質問に対する君の回答次第かな」
「えぇー、マジで? で、どうしたらここから出してくれんの?」
新しい力をくれると言うのなら、ぶっちゃけ欲しい所だ。
幼馴染のせいでいくらか護身術を身につけているとはいえ、所詮護身術は護身術。
それだけで生きていける程この世界は甘くないと思う。
かといって人外のパワーなんていらない。てか人間やめるくらいなら力は求めない。
「ん、その前に自己紹介しておこうかな。初めましてナツキ。僕はアルサクス・ルべリオン、かつて魔界を支配していた元20代目魔王だ。気軽にアルとでも呼んでくれ」
「……………………は?」
「おや、聞こえなかったかな?僕はアルサクス・ルべリオン、大昔に20代目魔王として魔界を支配していた元魔王だ。今は魂だけの存在だよ、全盛期の半分くらい魔力は持ってるけどね」
一瞬テンパりかけた思考を何とか冷静に保つ。そしてこの黒男の言った言葉を復唱する。
「…………面白い冗談言うじゃん。いやぁマジ面白い」
元魔王……ね。はっはっは、もはや精霊でも何でもないな。
…………はぁ、もう最悪。いっそ死のうかな………。
「その割には引きつった上に微妙な笑顔だね。魔王と知って驚かない人間は君で二人目だよ………何か悟った顔してるけど大丈夫かい?」
え?あぁ、うん。驚いたよ?いやマジで。
ただ驚くよりもまずヤバそうなアイテムの中でも一番ヤバい奴を見事に引き当てた己の素晴らしいアンラッキーを心底呪いたくなった。
よりにもよって魔王って……呪われた武器の方がまだマシだったよ。
「だいじょばないに決まってんでしょ。それで、元魔王が何の用ですか?私の身体をよこせってんならお断りだけど?」
因みにこの呪いとも言うべき重度のアンラッキーとトラブル吸引体質を消してくれるってんなら大歓迎です。
あの時の冬樹の状態からして、ここは恐らく精神世界とでも言うべきだろう。
ならば今の私はいわゆる霊体と言うやつだ。
考えられるのは、前勇者に倒された前魔王が復活するために魂を剣に宿し、霊体である私は殺されるだろう。
霊体とはすなわち魂。ならばその魂を壊し、空っぽになった私の身体を乗っ取る。つまりは魔王の復活。
「へぇ、この世界に来たばかりなのに、エグリスにおける肉体と霊体の定義を理解しているなんてね。安心していい。別に今さら復活して人類を滅ぼそうとも考えちゃいない。僕は君に質問する。君はそれに答える。それだけさ」
「勝手に思考読むのやめて貰えます?で、質問ってのは?」
「何、簡単な質問だ。君は力を欲するか?」
「欲しいっちゃ欲しいけど、反則級の力はいらない。魔王の力とかなおいらない」
「………興味深い解答だ。力は欲しい。しかし強大な力はいらないと言う。一体何故?」
「力っていうのは使いこなせなきゃ意味がないから。魔王の力とか使いこなせる訳ないしね。こう言ったら元も子もないけど、そもそも力ってのは相応の努力をして身につけるもんだし」
過ぎた力を振るえば、その力は己を傷つける。
その力を守るために使えば、守るべき存在を傷つける。
実戦経験のある平民と訓練しかしてない貴族じゃ平民の方が強い。
「……100点満点だよナツキ。その通り、己に扱えない力など宝の持ち腐れというものだ。無理に扱おうとすれば自滅を招く。それが分からぬようでは愚か者だ」
「はあ、それはどうも。それで?ここから出してくれるの?そんで力もくれんの?」
「勿論だ。君なら十分使いこなせる様な力だ。あっちに戻っても、僕が良いと言うまで剣から手を離してはいけないよ。それじゃ、頑張れ」
元魔王が私の額を人差し指でトンと突くと、意識がブラックアウトした。
「………はあっ」
荒い一息で目を覚ます。
刀を掴んでいることと沢山の武器防具が陳列している光景を見て、精神世界から帰還したことを理解する。
凄い妙な感覚だった。見えない糸に引っ張られて何かの中に入る感覚。
「おい、大丈夫か夏姫?」
「ん。ああ、ダイジョブ」
隣で声をかける金髪金眼に変わった冬樹を見て、自分の身体をまさぐる。
身体的変化はないようで一安心。
よかった、少なくとも人外になる心配はなさそうだ。
あの元魔王も話分かるもんだなぁ、後は刀を握ってるだけでパワーアップだ。
『そんな訳ないだろう』
「え……うっ!?」
元魔王の声が頭に響いた途端、身体に異変が現れた。
身体が……焼けるように熱い!?それに、この刀から何かが流れ込む感じはなんだ!?
たまらず膝をつく。しかし刀を掴む左手は固定されたように離れない。
『そこの幼馴染み君は、精霊が精神世界に彼がいる間に彼の身体を作り変えたようだから、痛みなく人間からランクアップしたようだが……僕は違う。君には剣の込めた魔力と僕が所持する魔力の半分を流し込んでいる。身体を作り変えている訳だから相応の痛みを伴うのは当然だ』
「なに…を、うあ……あああっ!?」
「おい、どうした夏姫!?大丈夫か!?」
冬樹が不安そうな声で私の肩を掴む。
しかし、熱さで冬樹に応える余裕すらない。
身体を襲う焼ける様な熱は、やがて痛みを伴った。
『く……そ、なら力なんていらないから今すぐ魔力とやらの供給を止めろ! そもそも、身体を作り変えてまで力が欲しいなんて言ってないだろ!!』
『無理。この剣に宿る魔力は全て君に注ぎ込まれる。そう設定してあるから諦めることだ。新たな力にリスクや代償はつきものだ。その痛みは試練と思い給え。剣は魔力を全部注ぎ込んだら手が離せるようになってるからね』
刀からの魔力の供給が終わり、魔力が身体中を濁流の如く駆け廻る。
「あ…ぐ、あああああっ!」
「夏姫!おい夏姫!?」
身体を襲う熱と痛みは増し、痛みのあまり身体を抱えて床に倒れる。
痛みと熱に悶えること5分程度。
体感的には三倍くらいあった。痛みと熱は、眼を残して治まっていく。
「う…ふあ、はぁ……」
ようやく全ての異変が消え、上体を起こす。あれ、何か身体が軽いぞ?
ん?あれ?な……何だこれ!?
身体の顕著な異変を感じてその辺にあった姿見を見る。
日差しを反射し輝く背中までの見事な白銀のセミロングヘア。髪と同色の形のよい眉の下には少々鋭い吊り目の蒼眼。小ぶりな形の良い鼻、桜色の小さな唇。
容姿は母親の遺伝子が強く出ており、父親似の鋭い目つき以外は母親そっくりらしい。
変わった様子はない。強いて言うなら黒曜石を思わせる黒髪と黒目が変色した
「な…な…なんじゃこりゃああああっ!?」
叫んだ。
だってこれ、この変化の仕方は冬樹と同じだし。
それに何か凄い力が湧いてくる、ていうか漲ってくる。
『オイコラクソ魔王!』
『これは……どういう事だ? いやしかし……』
『ちょっと! 聞いてんの!?』
魔王を呼ぶと、頭に魔王の声が響く。
『ん?ああ、すまない。少々予想しなかった結果になったものでね。おお、綺麗じゃないか。似合ってるよ』
『何コレ!?アンタ私に何しやがった!?てか予想外の結果って!?』
『何って、力を与えただけだよ。良いスタイルをしているね、お胸が少々残念だけど』
『お胸が残念で悪かったな!てか何か凄い力が漲ってんだけど!?』
『魔人化して大幅なパワーアップを遂げたからね。だが人間が魔人化してもここまでの存在にはならないはず、ましてや魔力を注いだだけで……一体何故だ……』
そのまま元魔王は思考に没頭したようにブツブツとつぶやき始める。
『ここまでの存在って何?一体私はどうなったの?つうか何勝手に魔人にしてんの?アンタ人外にする気ないって言ってたじゃん!』
『そんな事言ってないよ?そもそも君が剣を手に取った瞬間からこうなる事は決定事項だったから避けられなかった。それより、幼馴染み君が君を呼んでるよ?』
「おい夏姫!?聞こえてるか?」
「ふえっ!?「ぐはっ!?」な、なに?」
ハッとして見れば、正面にドアップで映る冬樹の顔。
驚いて思わずぶん殴っちゃった。
『彼の眼は神眼のようだね、忌々しい。まあ幼馴染である彼なら君が魔人だとは声に出して言わないだろう』
「なにじゃないだろ……いきなりボーっとするし、俺をぶん殴るし。てか、お前……まムグッ!?」
『……言わないだろうと思ったのだがね』
冬樹の口を塞いだ。
まさかガチで口に出して言おうとするとは思わんかったわ。
今正体をバラされたら色々マズイ。私は冬樹の耳元で囁く。
「黙ってろ。後で説明するからとにかく黙ってろ」
冬樹がコクコクと首を振るのを確認すると、レナさんや衛兵の人たちにニコリと微笑む。
「あー、とりあえずなんか力は得られました。もう用は済みましたし、疲れちゃったんで部屋に案内してもらえません?」
過ぎ去るが事追わざるが如し。過ぎてしまったものは仕方がない。
とりあえず部屋で元魔王に人間に戻る方法を聞きだすか。
『おいクソ魔王』
『だからアルって呼んでくれって…。で、なんだい?』
『後で聞きたい事が色々とある。アンタ刀から出て実体化とか出来る?』
もし可能なら実体化させてぶん殴る。
『君が魔力をくれたら可能だけど、手荒な真似はよしてくれよ。後先に言っておくけれど、いったん魔人化したら元に戻る方法はないよ?』
「唯一の可能性ソッコーで潰さないでくんない!?」
「ど、どうした夏姫?」
しまった。思わず声をあげてしまった。
「何でもないよ。とにかく早く部屋行かせて。眠いから」
これ以上追及されたらおかしな人確定だからとっとと話を切る。
とにかく、問題解決は部屋でだ。
柊 冬樹
男
17歳
種族 神に近しき存在
職業 剣の勇者
装備
聖剣セグリット
異世界の服
異世界のズボン
スキル
神眼S
勇者補正SS
光の精霊の加護S+
称号
未熟な勇者
正義漢
榎本 夏姫
女
17歳
種族 転成魔人
職業 魔法剣士
装備
魔刀リべリオン
異世界の服
異世界のスカート
異世界の靴
スキル
魔神の加護S
称号
腹黒魔人