異世界の武器は、100本中20本が何か宿ってる
こんにちは。
名瀬ナオです。
今話は武器選びです
柊 冬樹という超高校級バカのせいでわけの分からん場所に連れてかれた私。
詳細を知るため、神殿っぽい場所から謁見の間に移動し、話を聞いた。
曰く、ここはエグリスという異世界。
アグリア大陸の西部に位置する王国ウィストリアで、少女はウィストリア王国第一王女だとか。
今人間界は混乱しており、活発化した魔物の活動から魔王復活を懸念。
協議の結果満場一致で勇者召喚を実行したと言う。
「というわけで勇者殿。そなた達に魔王を討伐して欲しい」
いきなり無理難題を押し付けるウィストリア王。
バカかこの人、いやバカだろう。誰が無償でそんな危険な事すると言うんだ。凄いな、バカでも国王なれるんだ。
年齢60歳後半で白髪交じりの赤毛オールバック、同色の瞳。温和な顔つきだ。
娘のレナさんは私達と同い年らしく、王様と同じ赤髪赤眼。髪を肩まで伸ばし、頭にはティアラをつけている。整った顔立ちで美少女と言えるだろう。
うん。まあ、とりあえずこの無理難題は断ろう。
勝手な事情で異世界から引っ張り込んだ挙句そっちの問題を丸投げするような輩の頼みなど受ける気はない。
しかもその頼みごとに死の危険があるのなら尚のことだ。
「申し訳ありませんが「分かりました。謹んでお受けいたします」オォイ!?」
「ん?どうした?」
丁重に断ろうとする私の言葉を遮って勝手に了承する冬樹。
いやどうしたじゃなくない?
「いやいやいやどうしたもこうしたも、アンタ話の内容分かってる!?」
「ああ、魔王とやらが人間界を脅かしてるから倒してくれってことだろう?」
「そっか、ちゃんと分かってんだね。じゃあなんで引き受けたの?へたすりゃ命の危険があるんだよ?」
「だろうな。でも人々が困ってるんだ、見過ごせないだろ」
「そうか、では頼んだぞ勇敢な勇者達よ。武運を祈っておる」
さっさと話を進める国王。ちょっと待てや。
私は一度も首を縦に振ってませんよ?
「ちょっと勝手に話進めないで貰えます!?つか何で私も入ってんの!?」
「ではレナ。勇者殿を宝物庫へお連れせよ」
このジジイ、シカトして話終わらせやがった。
「分かりました。では勇者様、こちらへ」
「え?ちょっと、あの?」
私の問いかけをシカトしてさっさと移動を開始した。
もうこれ以上何言ってもダメだ。諦めよう。
そして魔王討伐は冬樹に任せてバックレよう。
元々私は了承したつもりないし。
「ところで、宝物庫には何があるんですか?」
ウィストリア王宮の廊下を移動中、私は冬樹と楽しそうに談笑しているレナさんに質問を投げかけた。
いや普通真っ先に宝物庫とか連れてかないでしょ? 勇者なんだし、武器庫とか賓客用の部屋へ案内するでしょ。
「宝物庫には、ウィストリアの歴史に名を残した方々の遺物や名匠達が作った最高傑作等がございます。中には強力な魔法剣や防具、意思を持つ武器等も存在します」
振りかえって答えるレナさん。なんか不機嫌そうだな……私なんかしたっけか?
それから歩くこと5分。レナさんは大きな扉の前で止まった。
「ここが宝物庫にございます」
派手な装飾の大扉の前には衛兵っぽい人がたった二人。
セキュリティ低っ。
不意に、レナさんが大扉の小さなくぼみに指輪の宝石をはめ込みブツブツと呟く。
カチャリ、と音がした。
え? 開いたの? 今何した?
「宝物庫は厳重に施錠を施しています。王家の指輪と魔法でのみ解錠可能です」
前言撤回。セキュリティ超厳重でした。
扉を開き、レナさんが入室を促す。
「「おぉ」」
一言で表すならば、煌びやか。
宝物庫と言うだけはある金や銀の壁や天井。シャンデリアの照明と大理石の床。そして所狭しと並べられた武器や防具の数々。
「では、この中からお好きな物をお選びください」
「え?この中から?」
「はい、あなた方は勇者様ですから。ご遠慮なさらないで下さい。前勇者様もこの宝物庫にあった剣で魔王を打ち倒されました」
前勇者?ということは、過去に同じ様に異世界から召喚された勇者がいる?
そもそもここにきてバカ国王から話聞いて疑問に思っていた。
何故勇者召喚等というハタ迷惑な物が存在してるのか、国王の言っていた魔王復活のシステムは一体何なのか?
「あの、レナさん。いくつか聞きたいことがあるんですk……どうした冬樹?」
早速幾つかの疑問を問おうとした時だった。
冬樹がスタスタと宝物庫に入って行った。
冬樹は私の言葉に反応せずそのまま歩いてゆき、一本の剣の前で立ち止まる。
銀色のロングソードだった。汚れ一つない刀身は銀色に輝き、同じく銀色の柄尻には金色の宝石がはめ込まれている。
冬樹はロングソードの柄を掴むと、ピクッと体を震わせ硬直する。その数秒後、冬樹の髪が金色に染まりだした。
「……はあっはあっ!」
髪が金色に染まりきった瞬間、額に汗を滲ませ息を切らす。
「……冬樹?」
剣を手にとる前の冬樹とは明らかに違う。
何か、人の領域を超えた存在の様な感じだった。
「え?ああ、夏姫か。どうした?」
「いや、どうしたもこうしたも……鏡見てみなよ」
髪色が変わっただけじゃない。
あの黒い瞳が金色に変わってるし、纏う空気も違う。
「あぁ、これか。剣の主に認められちまってな。まあ、若干変わったかな?」
若干どころの話ではないのだけど。
「つまり、その変わり様は剣の主?とやらに選ばれたからなわけ?」
「ああ、具体的には剣に宿る精霊……かな。どうにも宝物庫に入った時からこいつが気になってな。どうにもこいつは神器の部類らしくてな、勇者の資格がある者にのみ扱える代物らしい。この変化はその神器の力によるものなんだそうだ。ちょいと人間の域を超えた存在……『神に近しき存在』なんだとさ」
成程、宝物庫なんだし神器があってもおかしくはないわな。にしてもピンポイントで引き当てるってすご……あれ?
「素晴らしいです!フユキ様!やはり貴方は勇者に相応しきお方でした。その凛々しきお姿、まさに神の加護を受けし勇者様です!」
そういって冬樹の両手を握るレナさん。
しかし、そんなことはどうでもいい。え、それ人間じゃないじゃん。なにそれ怖い。とばっちりくる前に宝物庫を出るべきだ。
「そっかそっか。何かよく分からんけど、晴れて正式に勇者になったわけだね。おめでとう。じゃ、用事も済んだしとっとと宝物庫から出ようか」
「おいおい、なんで出るんだよ?まだお前選んで無いじゃんか」
うっわ言っちゃいかん事を言ったよこのバカ。
「いやいやいや、アンタがいれば十分でしょ?ほら、『神に近しき存在』とやらになったわけだし」
そう。問題はそこだ。
確かに宝物庫に入ってからある物が気になって仕方が無い。
だがしかし、その気になっている物には触れてはいけない。
読者の皆さん。数秒前の会話を思い出してほしい。
『こいつは神器の部類らしくてな、ちょいと人間の域を超えた存在……『最も神に近しき存在』らしい』
この宝物庫には精霊が宿る魔法具も存在する。かもしれない……
つまり、つまりですよ?下手に魔法剣に触れてそれに精霊とやらが宿っていたら……人間やめる事になっちゃう訳ですよ。
誰が進んで人をやめようとするのでしょうか?
「いくらパワーアップしたからって、俺一人で戦えって言うのか?俺達はいつも二人で困難を打ち破って来ただろ」
それは私一人じゃ危ないからだよ。しかもその原因の七割はアンタでしょうが。まあ残り三割は体質のせいだけどね。
「それに、俺だけ選んでお前が選ばないってのは……不公平だろ?」
ぐっ、正論を吐いてくれる。
確かに逆の立場なら私はアンタに選ばせるけどさ。
もう不公平もへったくれもないないから。色々危ないから。
「………夏姫?」
「…………わかった。分かったよ、選ぶよ」
選びたくはなかった。
けど、選ぶまでここから出さんぞ。と表情で訴えかけてくるんだもん。
ゆっくりと周囲を見渡す。
高名な人物や名匠が作った武器はなんかいそうだから危険。ならばなるべく小奇麗かつ派手な装飾の物は避けて、普通に近い武器を選ぶべし。
「お」
目に止まったのは、一本の剣。
薄く細い、反のある片刃の刀身。円形の鍔。故郷で見慣れた模様の柄。
そう、それは日本刀。その歴史は長く古墳時代より生まれた刀剣。
古墳時代に生まれた鉄剣は、その独特の鍛冶製法によって平安時代にこの形状となった。
有名どころは国宝宝刀『大包平』妖刀と名高い『村正』『雷切』秀吉公の愛刀『一期一振』さらには天下5剣と称される国宝『童子切』『三日月宗近』『大典太』重要文化財でもある『数珠丸恒次』『鬼丸国綱』等々。
形が似ているどころの話じゃない。
他にもあることはあるが、どれも刀身が大きかったり厚かったりと、俗に言う曲刀の部類に入るだろう。
「レナさん。これは?」
「はい。昔、無名の冒険者が盗賊のいる洞窟で発見したものらしく……その珍しい形状を見て思わず持ち帰り、先代国王に献上したそうです。その曲刀がどうかしましたか?」
「これ、私達の国では刀って言うん……っ!」
話ながらついその柄を持ってしまった。その瞬間、私の意識は暗転した。
冬樹が人間やめました。
夏姫はまだ人間です。