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第二話前編 集められし運命の子ら

 がたん!

 静かな音が王立図書館に派手な音が響いた。シャインである。

「ちょっと、静かにしなさいよ」

 フェリアナが小声で注意する。が、シャインにはそのフェリアナの顔を見下ろす。

「俺、決めた」

「何を?」

 図書館であれ、こであれ気障な態度のクーグルが問い返す。

 司書に追い出されて二とどは入れないかもしれない。フェリアナはシャインを気にしたり、司書のほうをうかがったりと忙しく首を動かしていた。

「俺ん家の村にかえる!」

「なんですってー!」

 フェリアナの馬鹿でかい声に三人はついに図書館からぽいっと放り出された。

「一体、変えるなんてどこからそんな発想が出てて来るのよ。私達は次の聖具を探すのでしょ? 兄クーグルの野望をそのままにしておくつもり?」

 追い出された図書館の前でフェリアナはまた大きな声を上げた。

「だから・・・」

 シャインはすごい勢いのフェリアナに押されながら言葉をつむぐ。

「俺の村のじぃさんに話を聞いてみるんだ。あれだけ物を知っているんだ。たたけばうわさのひとつや二つ出てくるだろう。で、クーグル様」

 きらきら目を輝かせてシャインはクーグルに合掌する姿を見てフェリアナはまたか、とその様子を見ていた。このときはたいていシャインのおねだりが始まるのである。

 いつもは食事のためにだけとってある瞳でおねだり攻撃にクーグルは意外とびっくりしたがすぐに冷静になる。もしかして、クーグルとシャインはできているのだろうか? 危ない世界を想像してフェリアナは小さく首を振った。

「つきましては、馬の調達をお願いします~~~」

 シャインはとことん、下手に出た。どうせ運命というのに気に入られているようだ。進んでも運命。退いても運命。どうせなら前にすすんでやるとシャインは半ばやけくそになっていた。いつの日だったか同じような思いを感じたことを頭の隅で思い出す。

 かくしてクーグル家の血統書つきの馬にのってシャインの村に行くことになった。一週間はかかるところをたったの二日でいくという強行軍だった。馬を乗りつぶさなかっただけよかったといえるだろう。

「ここが光の剣を守っていたところなのね・・・」

 フェリアナは感慨深く、周りを見渡す。小さな家がぽつんぽつんと建っている。と、クーグルは別になんともないといった具合である。どこへ行っても彼のそのポーカーフェイスは崩れないようだ。フェリアナはそっと苦笑いする。この間見せた青年らしい表情。あれこそが彼の心の底なのだ。何か重い出来事があったのだろう。シャインに出会ってはじめて自分が心の底から笑ったフェリアナには思い当たる気がした。

 シャインの姿を見つけた子供たちたちがシャインにむらがる。

「おかえり! シャイン兄ちゃん」

「ただいま」

 シャインは今までフェリアナが見たこともない優しい表情を見せていた。フェリアナは苛立ちを覚える。ほんの小さな感情ではあったが心穏やかではいられなかった。自分の前ではあんなに優しい顔を見たことはない。もっとも自分の方が心を閉ざしていたのだからそれを要求するのはお門違いだろう。ほんのすこし自嘲気味の笑みをフェリアナは浮かべる。一通り子供たちとのやりとりを終えるとシャインは言った。

「とりあえず、俺の家に行こう。腹が減った」

 相変わらずの言葉に今度は正真正銘の笑みをフェリアナは浮かべた。

 シャインにつれられて一軒の家の前に三人は立った。シャインは臆することなく扉を開く。

「たっだいまー」

 明るいシャインの声が家の中に通る。しばらくすると幼子が飛び出てきた。

「兄ちゃん!」

 一人の男の子がシャインに飛びつく。シャインは勢いに押されよろけながらも幼子を抱きしめる。もう一人の女の子は後ろからシャインにとびつく。

「ジャックもアリも元気だったか?」

 シャインはこれまた優しい声で兄弟に声をかける。

「その声はシャインかい?」

 ふくよかな体つきの女性が出てきた。エカテリーナ、シャインの母親である。

「ただいま。母さん。紹介するよ。フェリアナとクーグル。俺の旅の同伴者・・・いや、助けてもらった人たち」

 少々情けない声で言うとエカテリーナはにかっと笑った。シャインお得意の笑みそっくりだ。

「そんなことだろうと思ったよ。さぁ、汚いところですがどうぞ」

 エカテリーナーはそういうと中へと促した。クーグルの文句がでるかも、と思っていたが大丈夫らしいのにシャインは心の中でほっとため息をついたのであった。

 導かれるままにテーブルに向かうと、エールを飲んでいる父親ジャックがいた。

「よぉー。情けない長男が帰ってきたか」

 鷹揚にジャックは明るく言ってはははと笑い飛ばした。フェリアナは確信する。間違いなくシャインはこの家庭で育ったのだと。シャインにそのすべてが集約されている。フェリアナはまた微笑を浮かべた。その笑みをめざとくみつけたシャインが問う。

「何、にやついてるんだ?」

「何も?」

 フェリアナはとぼける。シャインはそれ以上、追求しなかった。フェリアナがうれしそうに笑みを浮かべているのが大好きだったからだ。

「それにしても夕食時に帰ってくるとは相変わらずだな」

「別にねらっていたわけじゃないって」

 情けなそうにシャインが言うが、体は素直だった。ぐぅっと腹時計が鳴る。その音を聞いてその場に居合わせたものたちは笑い声を上げた。

「まぁ、今から少し夕食を増やしてくるからそこで待っておいで」

 エカテリーナはそういうと台所に消えていった。

「兄ちゃん、兄ちゃん。遊んで」

 また違う幼子の出現にフェリアナは目を丸くする。

「あなた、何人兄弟なの?」

「五人。たいしたことないあって。この辺では平気で八人や十人はいるよ」

 フェリアナの驚いた顔を面白そうに見てシャインは言う。クーグルといえばすでに席に座って父親相手にカードを始めていた。

「クーグル! 親父に変なことをおしえるなーっ」

 学校の先生よろしく、シャインはクーグルからカードを没収する。

「いや、何。家族の信頼を得ることが一番だろう」

 別にクーグルが家族の一員になるわけでもないのに妙な発言にフェリアナもシャインもまた顔を見合す。

「ひか・・・」

 ふがふがとクーグルはくぐもった声を出す。シャインが口をふさいだからである。そしてそっと耳打ちする。

「親父には何も言わないでくれよ。一子相伝なんだから。手に入らなくなるぞ」

 その言葉が功を奏したのかクーグルは大人しく夕食を待つことにしたのだった。

「シャインが帰ってきたの?」

 派手な扉が開く音がしてきたかというと少女が飛び込んできた。金色の波立つ髪が印象的な少女だった。

「エミリア。ひさしぶり。こっちは俺の同伴者。フェリアナとクーグル。ちょっと調べたいことがあって戻ってきたんだ」

 エミリアはふーんとばかりにフェリアナとクーグルを見た。まるでシャインについた悪い虫だといわんばかりに。

「怪我しなかった? ちゃんとご飯食べてた?」

次々と心配する声を聞いてシャインは笑う。

「そんなことないって。俺だって多少は成長したんだぞ。背だって伸びたし」

「ほんとね」

 エミリアと呼ばれた少女はつまさき立ってシャインの頭の上をぽんとたたく。

「それにしても会いたかったわー」

 エミリアがシャインに抱きつく。そのエミリアをシャインは受け止めた。肩越しにエミリアがフェリアナに向かってべーっと舌を出す。

 ほんの少しのことでエミリアはフェリアナが恋敵と分かったらしい。宣戦布告ということね。フェリアナは冷静な様子を見せつつ、嫉妬の炎が燃え始めていた。フェリアナも心の中で舌をだした。だが、シャインは自分を選んだのだ。幼馴染だろうがなんだろうが度重なる戦いで築き上げた絆は深い。フェリアナはそう信じていた。

 夕食はいきなり大人数になってしまった。ただでさえ、家族がおおいのに、エミリアや子供たちから聞いた村の人たちが料理を持ってきて大宴会になったのである。狭いシャインの家はあっというまに飽和状態になってしまった。

 だが、シャインはものともせずただひたすら食事を胃に収めていた。そういうところは大物といえよう。そのシャインのそばにはエミリアがぴったりとくっついている。そこは私がいるところなのよっ。叫んではぎとりたい気持ちを隠しつつフェリアナはつくり笑いをしていた。こんな表情ではせっかくのシャインの帰宅がだいなしだが、そうでなくては冷静でいられなかったからだ。フェリアはいつしか外にでて夜空を見上げていた。

「どうしたんだ? 何か気に食わないことあったのか?」

 いつのまに抜け出したのかシャインが外で空気を吸っているフェリアナに問いかけた。予想もしなかった行動にフェリアナは驚く。あの料理を大量に消費していたのをやめてここまで来たのだ。シャインの行動がうれしかった。と同時に怒りがこみ上げてきた。

「あのエミリアって誰? シャインは誰とでもあんなふうに抱き合うの?」

 とがった声でフェリアナはシャインに問い詰める。

「なんのことだよ?」

 シャインは軽く受け流す。それが余計にフェリアナには腹が立った。八つ当たりなのは分かっている。だが、言わずにはいれなかった。

「エミリアとあんな風にくっついているなんていやらしいわ。最低よ。ここの人たちは」

 言ってからフェリアナはぎくりとした。シャインは黙りこんでいる。湧き上がった怒りを抑えているかのようだ。

「いやらしくてわるうございました。こちとら上流階級の奴じゃないんでね」

 そう言ってシャインはまた家に入っていった。

「ごめんなさい」

 小さな声でフェリアナは謝る。その頬に後悔の涙が一筋流れた。


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