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第一話 光と闇の遭遇


光と闇交わりし時、世界の裁きは起こる。


彼女の名前はフェリアナ。

闇の一族の末裔。世の影で世界を動かすために戦う少女。

彼女は今日も戦っていた。

世を騒がす妖魔と。

戦いながらじれったそうにフェリアナは額から前髪を払った。

汗が額に浮かぶ。

だが、踊りのようなテンポいい戦いの中でも彼女の顔は憂いに満ちていた。

戦いは戦いしか産まない。人の負の感情は永遠に続き。そのたびに妖魔が増えていく。

だけど、とフェリアナは思う。

彼らを救うことが出来たら・・・。

戦い終えたフェリアナの蒼い瞳は哀しさで潤んでいた。

 森をさまようシャインは空腹の腹をおさえて食べ物を探し回っていた。こんな森の中ではまともなものは食べられない。もともと狩猟生活も嫌いなため一層食べるものはない。むろん植物主義ではない。店では平気に食べているタイプだ。そんな風にさまよっていると木陰からフェリアナが出てきた。

 まともにぶつかりそうになりバランスを崩したシャインはへたりこむ。

「あなた大丈夫?」

 フェリアナが心配そうに尋ねる。

「ちょっと腹が・・・」

 言いかけたが男のプライドとしてはあまりいいたくない台詞である。

 フェリアナは完全に誤解した。

「痛むの? どこが?」

 フェリアナが座り込んだとき盛大な腹時計がなった。

 フェリアナがくすりと微笑う。

「おなかがすいているなら言えばいいのに」

 紫の髪がふちどるきれいな顔立ちに蒼い瞳をもったフェリアナはこの場以外でも神々しく創造神エンヤにでも見間違ってもおかしくはない。彼女は腰にぶら下げていた皮袋を取り出すと干し肉を数個与えた。差し出されると同時にものすごいスピードでシャインは食べる。恥ずかしい気もしているがそんな恥はもうとっくに捨ててしまった。ばくばくとたいらげたのを見てフェリアナはまたくすり、と微笑いをこぼす。シャインはその瞳に吸い込まれそうになった。何か気高い気持ちが備わっているようで。

「俺はシャイン。君は?」

 尋ねるとフェリアナは逡巡していたけれどもふっと答えた。

「フェリアナよ」

 通りすがりの人間に自分の身分を明かす必要はない。明かすと逆に命の危機にも達するのだ。闇の一族は死神として恐れられ、どこの街でも排他的に扱われていたのだ。

 だからフェリアナは決して人前では妖魔と戦わないし、持っている杖すら隠してしまう。杖は出したり消したりする便利な一族の持ち物だった。物思いのふけっているとシャインの声でわれに返った。

「ありがとう。君がいなかったら俺はとんでもない恥ずかしい死に方をしていたよ」

 心のそこから安堵のため息を出して礼を言う。

「ところで、君、宿はある?」

 シャインの唐突の話にフェリアナは不思議に思う。

「このまま頼みついでに宿にも行きたいんだけど・・・」

 申し訳そうに上目づかいで頼まれると流石のフェリアナも考え込んでしまう。

 それに気になることもある。彼の持っている剣。何かの封印が施されているようだ。本人はまったく知らないようだが。

 宿屋の食堂でシャインは記録的速さで料理にぱくついていた。フェリアナはもうあきらめて自分の分を食べるのを忘れている。

 何度目かのおかわりの末にシャインは満腹になった腹をなでていた。

 ちょっと、とフェリアナは眉を吊り上げた。

「この食事代誰が払うと思っているの?」

 フェリアナのこめかみがぴくぴく切れそうだ。

「そ・・・それは・・・ふぇ・・・」

 フェリアナといいそうになったところでシャインはひぇーと心中で叫びそうになった。先ほどの美しい少女は鬼の取立人のように変わっていた。

 すんません、とひたすら謝る。

 いいわよ、とため息交じりの声にシャインはうれしそうな表情をした。

 まるで尻尾をふりつづける子犬のようね。

 イメージすると同時に情けない顔の子犬の顔が浮かんで笑いころげそうになった。ぴくつく頬の筋肉を引き締める。

「その代わり、料金代は体を使って働いてもらうわ。その剣は飾りじゃないんでしょ?」

 フェリアナが指摘するとシャインはなんともいえない表情を浮かべた。

「かざりじゃないんだけど・・・死んだじっちゃんや父ちゃんがけっして抜くなと・・・」

「そんな言い訳通用しないわよ。さぁ、明日からの何の仕事してもらおうかしら?」

 フェリアナは出会ったときのあの麗しい少女というよりは図太い神経の持ち主のようにシャインには映った。きっとこの少女にもいろいろあるのだろう。

 シャインは手配してもらった、これもフェリアナが手配しているので身代金の一部である部屋のベッドに寝転んだ。

 ふかふかとしているが、上等とは言いがたいベッドにどすんと横になった。

 確かに祖父も父も言っていた。この剣は一子相伝で封印をとかず保管する役目を持っているのだと。なんのための保管かは誰も知らなかった。ただ鞘を開けてしまうとと喰われてしまうよ、といわれて育った。少年になった今はそんなことがあるとは思えないがもしかしてそうだったらいやなので開けないことにしていた。火事があれば見に行くというよりさっさと持ち物を持って逃げるタイプなのだ。

 だが、シャインとて剣をぶらさげている以上何も出来ないわけではない。小さな頃から棒切れを遊びの道具にして剣の鍛錬は欠かさなかった。祖父や父親にもそれはしごかれた。だから並みの実力は持っている。フェリアナがどんな仕事を持ってくるのかはわからないがなんとかなるだろう。シャインはあっけなく眠りに落ちていった。このあっけらかんとしたところがフェリアナの機嫌に触るのだが本人はまだ知らない。

 翌日、また大量の食事を胃の中に収めてシャインはフェリアナの瞳の中に鬼を見た。

 食事が終わるとフェリアナは掲示板の地図とにらめっこしていた。

 小さな声でぶつぶつ言っている。

「お穣ちゃん。街の外に出るときは気をつけるんだな。妖魔が最近よく出没しているから」

 何も知らない中年男性が忠告する。フェリアナは猫をかぶったのではないかと思うほどにこやかにうなずいて見せた。

 それからすっと指で場所をたどって確認するとフェリアナは外に行くよう言外にシャインに告げた。

 シャインにはまだなんのことかはわからない。次第に街の中を通り抜け外壁を越える。そこは妖魔がうじゃうじゃうごめく危ない世界だった。

ちょっと待て、とシャインが顔色を変えた。

「仕事って妖魔狩りか? まじで?」

 シャインは顔面蒼白である。ベテランのおっさんでも一歩間違えれば死ぬのだ。それを未成年者二人でやってのけるのは成功率からして低い。しかし、フェリアナはすでに場所がわかっているらしくすたすたと歩き始めた。おい、とあわててシャインが追いかける。

 フェリアナはふっと足を止めると丸い球からセフィロトの杖を取り出した。

 その杖を見てシャインは言う。

「フェリアナは死神一族だったのか」

 驚いた?とちゃめっけたっぷりにフェリアナが見る。だが、その瞳の奥には悲しみが詰まっているようにシャインには見えた。

 「さぁ、妖魔が来るわよ」

 フェリアナが身構えた。

 ヒュンと風が通り抜けた。かと思うと通り過ぎた背後から妖魔の一匹がシャインめがけてやってきた。シャインはひえーと叫びながら地面にはいつくばる。

 その妖魔をフェリアナが引き裂く。

 アップテンポな戦いぶりにシャインはただの観客になってしまっていた。フェリアナが振り向く。

「剣でもなんでもいいから働きなさい!」

 かなりの妖魔の数をこなしているのにその余裕はどこから出てくるのだろうとシャインは思いながら懐に入れている短刀を取り出そうとした。そしてふっと腰につけた封印を施した剣に目がいく。

 短刀では至近距離になり一度ダメージを受けたら回復も出来ない。ここはこの剣を使うべきだろうか。

 逡巡しているとフェリアナの声が飛んだ。

「父ちゃんだかじいちゃんだか知らないけれど、自分の身を守ることも考えなさい!! こっちはあなたの命の保障までできないわよ!」

 フェリアナの一言でシャインは決めた。何に食われるかわからないが妖魔に食われてひどい死に方になるのも一緒。

 進んでも後退しても結果は同じ。ならば・・・。

 シャインは封印をとき鞘から件を取り出した。

 刀身がきらりとひかる。

「なんだー。普通の剣じゃんか」

 ほっとするのもつかの間。剣が動き出した。文字通り剣に動きをとられたのだ。シャインは剣が動くままに妖魔と戦う羽目になる。なかば強制的に動きをとられているのでいいようにされているシャインの中で怒りがふつふつとわきあがってきた。

「光の剣だかなんだかしらねーが。俺はお前の言いなりになるつもりはない!!」

 うおりゃーっと気合を剣にこめた。剣が発光する。

 フェリアナはまぶしさにまぶたを閉じた。

 発光現象はすぐに収まった。

 だが、閉じたまぶたの裏にまだちかちかするような気がした。まぶたを開けてもちかちかしている。妖魔は一掃されていた。

 「これが光の剣・・・。書物にしか載っていなかった幻の剣。それがそうなのね」

 ふっと手にしようと手を伸ばしかけて止める。

 確かこの剣は・・・。

 書物の文章を思い出していると背後から風景にそぐわない笑い声が聞こえてきた。

 二人して振り返る。

「やっと見つけた1000本目の剣が光の剣とは。愉快だ」

 はははっとまた笑う。

「ばっかじゃないの? 剣を何本集めても使えなかったら意味ないだろう」

 シャインの指摘にフェリアナがうなずく。

「これは私の趣味でね。では出会った以上いただこうか。剣は美しい私に持ってもらってこそ花開くのだ」

 背後の木から飛び降りてシャインのところにまでつかつか歩いてくる。歩き方に気障な歩き方というのがあればそれがあたいするであろう。ナルシストと気障がまじるとこんなに嫌味な奴になるのかとシャインもフェリアナも思う。

「ちなみに私はクーグル伯爵だ。覚えておきたまえ。何かあったときには参上しよう」

 こんな奴に救われるようであれば妖魔狩りができるわけがない。

 クーグルが強引に剣をの柄を握った瞬間じゅっという音がしてあわてて離した。

「熱い! なぜ、熱いのだ。この私がつかめないだなんてありえない!」

 その様子を見てフェリアナはやはり、そうであったのかと納得した。

 古い一族に伝わる光の剣の項目には主人を選ぶとあった。きっと光の剣はシャインを主人とみなしたのだ。だからクーグルを拒否した。

 クーグルは今に見ておれ、と捨て台詞をはくとこけつまろびつ帰っていった。その後姿がこっけいで二人で声を上げて笑った。

 久しぶりに声を上げて笑ったフェリアナは不思議な気分だった。気持ちが軽くなったような気がした。この少年といると飽きがこない。フェリアナは心中で旅の同伴者にシャインに合格の判を押してやった。

「光の剣を目に出来る貴重な機会だから私の旅に連れて行ってあげるわ。もちろん報酬は五分五分よ」

 その言葉にシャインの瞳がきらりと輝いた気がした。貧乏とおさらばできる。シャインはこの申し出を即座に受け入れた。これから二人の旅が始まる。


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