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後編

仕事終わるやいなや、昨日の夜に勝負した場所に行ってみると・・・いた!

アイツだ!


「おっ、とアナタは、昨日いらっしゃった方ではないですか?どうですか?」

「返せっ!オレの過去を。美しい嫁に昇進を!」

オレは今にも噛み付きそうな剣幕でくいかかる。


「ほほほ、それはできかねますな。アナタは正当でフェアプレイな勝負で負けたのです。

いいですか?あなたは過去を賭けた勝負で負けたのですよ。私はあなたの過去で輝いている部分を賭けに勝ったため、少し頂いただけです」


ぐっ、酔っ払いに勝負を吹っかける時点でどこがフェアプレイだ。


「もし、アナタが、美しい嫁に、昇進を取り返したかったら、もう一度勝負して私に勝つしかないのですよ」


満面の笑みでこの胡散臭い男が笑っている。

腹立たしいが・・・。


「いいだろう。受けて立とうじゃないか」

「ルールは昨日と同じ、カップ&ボールで」


 ××× ××× ××× ××× ××× 


くくくっ。

私は心の中で笑った。

いつもこうやってカモは熱くなるのだ。


私の目の前にいるサラリーマンはおそらくあまり人生で負けたことがないのだろう。美しい嫁に早い昇進。こういうやつほど一度、負ければぼろぼろに落ちていくのだ。こいつの勝ちにまみれた幸せな過去を、私の人生に加えさせてもらおうじゃないか。


私は4っつのカップとコインを取り出す。

コインは前回と同じ500円玉だ。

「いいですか・・・?いきますよ」

「待てっ!ちょっとコインとカップを調べさせてもらうぞ」


サラリーマンがコインとカップを調べだす。

くくく、もちろん、仕掛けなんて何もない。

このカップ&ボールというヤツはギャンブルの走りでもあるのだが、マジックのスタンダードでもある。昔はマジシャンの腕を見るなら、カップ&ボールを見ろ、ぐらいに言われていたものなのだ。

そんじょそこらの素人にわかってたまるか。


「何もないようだな」

「納得していただけましたかな?イカサマなんてしませんよ。これは真剣勝負なのですから」

「しかし、そうはいかん。こっちが仕掛けを見破れないせいかもしれん。カップまでは変えろ、とは言わん。しかしコインはこっちのを使ってもらうぞ。」


サラリーマンは財布の中から5円玉を取り出した。

別にコインが変わろうと何も影響はない。

私は、机の上にコインを置き、カップを逆さまにしてボールを被い隠すと、昨日のように手を動かし始める。


最初はそこそこ目で追えるスピードで。

徐々にスピードをあげていく。

最期の方には目でほぼ追えなくなるだろう。

そして、コインを私は袖の中に滑り込ませ、後でサラリーマンが選んだカップ以外に滑り込ませれば、私の勝ち、という寸法である。

絶対負けることのない勝負というわけ。


惑わすために昨日と同じようにDのカップにはあまり触れないようにしておき、スッと気付かれないように私は袖の中にコイン入れると、カップを止めた。

「さぁ、好きなのをお選びください。確立は2分の1ですよ。天国か地獄か?さぁ、どれにします。」


どれも地獄しかないけどなー、と心のなかでニヤリとする。


サラリーマンが少し迷った後、一つのカップを指差す。

「・・・。Cだ」

「むむっ」

迷ったふりをする。

しかし、Cのカップを開けると当然そこには何も入っていない。

サラリーマンが険しい顔する。


「さぁ、次はどうしますか?」

「・・・。」

沈黙。長い時間が流れる。

賭けているものがものだけに、迷うだろう。

しかし、ギャンブルというのは残酷なものだ。ある一瞬を境に、勝者と敗者がはっきりと別れる。

そして、必ず勝つのが胴元、つまりギャンブルを開いたものであるというのは、いつの時代もある原則だ。


「Dだっ!」

おもむろにサラリーマンはDのカップを掴み、ひっくり返す。


ふん、バカめ。どれくらい勢いをつけたところで負けは変わらな・・・。

・・・。

バ、バカな・・・。

なんだと・・・?


Dのカップを開けた先には、コインがあった。


ありえない。

ありえないはずだ。現にオレの袖の中ではまだコインが握られている。


・・・はっ!


オレが気付く数瞬間前にサラリーマンは残りのカップを全て開け、他のカップには何もないことを見せた。


や、やられた・・・。

私の負けだ・・・。

他のカップを開けられてしまってはさすがに私の袖の中のコインを戻すわけにはいかない。


 ××× ××× ××× ××× ×××


か、勝った・・・。

オレは大きくガッツポーズをした。

そして、男に詰め寄った。


勝負のネタは簡単だ。男が一旦袖の中にコインを隠し全てのカップが空になっている事はわかっていたから、

後は、隙を見て自分の選んだカップにコインを入っていたかのように見せるだけ。

コインは、もう一枚五円玉を用意しておいた。

あとは、コインが二重にならないよう、男がカップにコインを戻す前にすばやく全てのカップを開けるだけだ。

騙す側というのは騙される事は考えていないもんだ。

あるはずのないコインがあったときのコイツの顔は爆笑もんだったぜ。

ん?なんで袖の中にコインを隠しているって分かったかって?

こうみえてもオレ、高校の時にマジック研究会だったからな。

カップ&ボールも当然知っていたし、随分練習したもんだ。

まぁ、オレがマジックやっているとは露にも思わないだろうから、素人だのカモだの、心の中で随分バカにしてたんじゃないか、コイツ?

昨日の時点からブラフをかけていたとは思わないだろうな。

嫁が可愛くなくなっていたり昇進が無かった時は本気で焦ったが。



「おい、オレの勝ちだな。返してもらうぞ、オレの過去」

「くぅ、約束は約束です。返すとしましょう」

「・・・と言いたいところだが、過去はいらない。」

「はっ?」

悔しそうな顔が驚きに変わる。


「過去のかわりに、その相手の過去を頂くやり方を教えろ」


自分の過去を取り戻すのも悪くないが、むしろ、コイツのように他人の過去を頂いていろんな過去を楽しむのも悪くないだろう。


オレは薔薇色の楽しい人生を想像し、楽しくなってきた。

マジックの練習久しぶりにするかな。

まぁ、ちょっと、その辺歩いている、酔っ払いを捕まえて、イカサマ勝負してしまえば・・・。



                          ・・・・完

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