第八話:唸る乾いた銃声
戦いには自分の理想とする距離があるという、希思にとって少なくともそれは近距離ではなかった。だから距離をとるために入り組む路地を逃げる。しかし距離をもてても視界がふさがれる様な場所では意味がない。
そして男の理想とする距離というのはおそらく、希思とは正反対だ。手に持つのは一振りの刀、それは希思を追う男の手の中で静かに時を待つ。
希思を切り刻む時を…………
「突然斬りかかってくるのは予想外だねん」
狭い路地だが、横に入る道がある度に曲がる。少しでも見つけにくく、そして距離を持つために。
男はそんな希思に対しても、まるでどこにいるかを知っているかのように正確に追ってくる。確かに希思はいつも横道に入る、だが幾つにも分かれた分岐点から正確に希思を追跡することが可能なのだろうか。
一つ、希思は予想をたてていた、それは
「あたしと同じ能力なら気配とかかな〜?」
希思と同じ、それは指輪による実武器の生成能力、希思なら銃、そして希思の考えで、だが男なら刀、といったようなものだ。
そしてその生成能力には特殊な技能も存在していた。それは生成した武器、もしくは道具の知識を得る。
使用方法、それの特殊な力、武器の特長を生かすための情報、それらの知識を簡単に手に入れる。
それゆえ、元来、狙撃など縁の無かったはずの希思が銃の反動の殺し方や、自分が一番狙撃に有効な距離の理解、それが出来たのだ。
「そろそろ隠れようかな?」
「不可能だ、逃がしはしない」
男の言葉は希思のすぐ近くで聞こえた。
その声を聞く、男を見る限りなら大和と同じ位の歳に見えたが、発せられた声は想像より遥かに低かった。
希思は勢いよくその場を飛び退く、瞬間に男の刀は希思のいた場所で空を切っていた。攻撃を予測した訳ではない、ただ一瞬、危険だと思っただけ。
それは人の本能のようなもの。
「危ないじゃないか〜!」
「全て敵だ、殲滅するのみ」
どこか機械的にも思える声とともに、刀はまた振り切られる。
刃が風を斬る、いやに鈍い音。
「まだ、だね……………まだ今じゃない」
まだ視界で認識できる刃を避けるとともに、入り組む路地を走り出す。
希思は判っている、この場で自棄になり戦おうと、たったの一分の勝機さえない。だから、判っているからこそ逃げる。
そして、飄々とした声で男に言う。
「しつこいと嫌われるよ〜」
「消える存在に嫌われようと関係ない!」
希思の言葉を切る男の言葉と同時に、刃は狭い路地をこじ開けるかのように壁を切り裂く。
「逃げれるかな? というか距離をとるにはどうしよ」
一瞬、隙の出来た男に向かい蹴りを出す、足払い。男は軽くかわそうとするが小さく飛んだ瞬間、希思の持った銃がまるで突くかのように出される。
それを刀で防ぐ、しかし希思の攻撃はとまらない。
一瞬で銃を引き、腹へと蹴りを加える。
男が一歩下がり、たじろぐ瞬間を見ると、振り返りまた一つの角を曲がる。
「ありゃ?」
曲がった瞬間、視界に入ったのは横道一つない一本の路地だった。
男はまだきていない。まだ少し遅れている。
この場で希思に迷う暇などない。
直ぐに結論を出し、行動に移る。
「にょ! こりゃ、しょ」
変な声を発しながら、希思は銃を構える。そして少しでも時間が惜しい。
男が来る前に行かなければ必死に攻撃に移った意味がない。すぐさまあたりを見渡し、一箇所を見据える。それは少し離れた壁だ。
その少し離れた場所に向かって、スコープを見ることなく弾丸を放つ。
狭い路地の中を反響する音は、耳を突く激しい爆音。
そんな爆音と共に、裸眼だけで狙っていた壁は吹き飛ぶ。
内側へと壁であった破片を撒き散らしている。
「よっし、行くよん」
そう言って走り出すが、後ろに男が見えた。
しかし、それを見る必要は無い。だから迷うことなく希思は、破壊した壁の中へと入っていく。
「逃がすことなど無い」
どこか機械のような声を響かせながら男は希思の後を追う。
少し距離があるが、男が有利ということに変わりはなかった。しかし、少し不安を抱いていた。
こんな不利な状況においても、顔には笑みを浮かべる少女に対しての不安を………
希思にとって、遮蔽物のある場所は距離があろうと無かろうと得意だ。自分が嫌いであるこの身長が功をそうしている。
少しでも大きな遮蔽物に隠れ、見えぬ場所からの狙撃。それが希思の近距離での唯一の戦い方。
そして案の定というべきか、この建物の中は廃墟のようであった。所々崩れた天井のおかげで、その隙間からまぶしい陽光が部屋を照らす。
希思は、ニカッと笑う。そして一瞬だけ振り向き男の存在を確認する。
まだ、来ていない。
希思は走り出した。この場は希思にとって非常に好都合な場所だ。
崩れた瓦礫の破片や、希思が撃ち抜いた壁の破片によって荒れた部屋の中、男は希思を捜す。油断は無い男、長夜裂人は刀を手放さない。
裂人は考えていた。笑みを浮かべた少女の武器は判っている、そして自分の武器は知られていない。だから、こちらが有利であることに変わりは無い、と。
裂人の能力は刀の生成では無かった。その証拠といわんばかりに刀を握る手には銀の指輪が神々しく光っている。
「…………隠れた、か」
遮蔽物なども一通り見渡し、希思がいないことを確認する。それと同時に、ゆっくりと構えを解く。両手を下げ、訝しそうに辺りを見ている。
「いない、のか? ……いや、確かに」
一瞬目を閉じる。
何かに気づき、その瞬間、身を翻す。
聞こえたのは、どこかで聞いた爆音だった。耳を突くような銃声だ。
乾いた銃声。それはたった一秒前まで自分の右手があった空間を通過した音であった、と避けたあとで気づいた。
裂人はその攻撃で理解した、希思のいるであろう場所を。
「一撃で仕留めぬ狙撃手など、………役に立たんぞ!」
一度回避し、地面に撃ち込まれた弾丸から、発射地点を見極めると裂人は跳ぶ。
場所は理解した。後はその距離だけだった。
しかし、
―――ドンッ!
再び聞こえた、乾いた銃声。
「………な、にっ!……」
裂人は目を見開き、自分のわき腹を銃弾が掠めたことを確認する。
希思の銃弾は掠めただけ、そうなのだが、銃の威力が異常であったのか、鈍い激痛が全身へと走る。
わき腹に当てた手は赤に染まった。まだ致命傷ではない、しかし外したのか、外れたのかが分からない。
そしてそんな事より裂人にとって一番不可解であったのは、弾丸の軌道だった。
裂人は確かに一度撃ち込まれた方向へと来たはずだった。
正面からの攻撃なら、かわせる自信も叩き切る自信もあった。
しかし弾丸が跳んで来たのは、予想も無いはずの背後だった。
後ろを振り向いた瞬間か、乾いた銃声はまた響く。
「見極める」
一つ、高速で飛ぶ弾丸を回避する。全神経を集中させ、銃声によって消される弾丸が空気を切る音を聞く。
元々、ある一つの剣術の師範代として存在していた裂人だ、銃弾を切ることは難しいが、不可能ではなかった。
「はっ!」
弾丸の射出される、乾いた銃声、それと同時に裂人は言葉と共に弾丸を斬る。
半分の鉄くずと化した弾丸は、小さな音を立て、地面に落ちる。弾丸の軌道は正面だった。そこに間違いは無い。
しかし、先ほどのような失態は犯せない。もう少し、見極めるためにか、裂人は眼に頼らないため目を閉じ、神経を研ぎ澄ます。
遮蔽物が散らばる狭い部屋の中を支配しているのは静寂だった。聞こえる音は裂人の一定感覚で聞こえる呼吸音だけ。
(神経を集中、自分の周囲の環境を理解。弾丸の軌道を捕捉、………そうだ、もう一度くれば、殺れる!)
そう思った瞬間だった、再度乾いた銃声が響く。今度は異常な数の爆音と共に……
裂人は瞬間に確認するが、また理解できなくなる。
裂人はなぜこうなるのかが理解できなかった、弾丸がまるで生き物のように自分を取り囲んだことに……
「………ちぃ! 『増閃』」
指輪、自分の能力の名を呼ぶと同時に、水平に刃を振るう。両手で光る刀を水平に保ったまま、回転する。
裂人の能力、それにはもう狙いをつける意味が無い。
「一つが……三十二ッ!!」
言葉と共に、周囲を囲むように跳んだ弾丸は斬られ、小さく音を立てて地面に落ちる。それと同時に、見つける。自分を狙う少女を、まるで獲物を狙うような狩人である少女を……
希思は能力で生成した愛銃、『ヘカートII』を構え、スコープを覗いていた。位置は簡単だ、遮蔽物の広がる一階から階段を登りきった場所、そこから一番近くに存在している下を覗き込むが可能な壊れた部屋。
しかし、希思は裂人が動こうと、この場から動いてなどいない。ねこ子の能力は『へカートII』の生成だけではない。
それについての知識、そして、もう一つだ。
「ポイントBから撃ち抜くよん」
裂人が近づくことなど気にしない様子でスコープに片目を除かせ、もう一方の目は確かに男を見据える。
しかし、銃口が狙うのは目標であるはずの裂人ではない、銃口の先に見えるのは小さな鏡のようなもの。
希思はそこに、弾丸を放つ。躊躇い無く一気にトリガーを引く。同時に自分の小さな体で反動を受け流すかのように殺す。
聞きなれた爆音が鏡に向かい飛び、当たると同時に鏡に吸い込まれていく。
「次は………いったん、逃げよ〜」
吸い込まれた弾丸は裂人を背後に存在していたもう一つの鏡から背後を襲った。しかし、刀をたった一振りするだけで銃弾を斬る。
そのまま、逃げようとする希思を睨み、その場に跳ぶ。
二階へと一気に跳躍する。それはまるで人間の跳躍力ではないかのようなジャンプ力。
「えっ!? やばいよん」
「断罪だ!」
刀は振り下ろされる。先ほどと同じく、銃を掲げ、希思は我武者羅に自分の身を守ろうとする。
耳を突くいやな音が響き、後に裂人の声が続く。
「笑止! その程度ではもう止められん!」
言葉通り、銃は徐々に切られていく。それは一箇所ではない、銃のボディに数箇所で切り傷が生まれる。
銃が斬られようと問題は無いが、銃を斬って刀の斬撃というの攻撃が止まるとも思えなかった。
「やっば〜」
キィィイィッッ!
銃が刀を止めるより嫌な金属の擦れ合う音が二人の耳に響く。
いや、三人の耳に響く。
「ふぃ〜、間に合って、るよ、な?」
希思の顔の直ぐ間近に大和の呑気そうに笑う顔があった。
笑う顔は一変、苦痛の表情に変わった。原因は希思だ。
「遅いのだ! すぐに来るのだよん。といったじゃにゃいか」
希思はいきなり現われ、自分を助けてくれたはずの大和の急所をいわれる部分へとに蹴りを入れた。
「…………ッッ!!……」
一瞬、裂人の行動は止まった。
今の状況を理解できていない、突然どこからともなく青年が現われた。そして自分の切ろうとしたものを簡単に寸前で止め、少女と言い争っている。
そして刀を見ると、いつの間にか黒い鉄のようなもので、綺麗だった刀身が隠れていた。
しかし裂人の考えは簡単だ。この場において自分にとっては全て敵。誰であろうと殺すだけ。そう思い再び黒ずんだままの刀を振りかぶる。
「大和っ!」
言い争っている最中での、希思の声。
危ない、そう続けようとするが大和と裂人の声で聞こえなくなる。
「んぁ? 何だ?」
「まとめて死ぬが良い!」
裂人は全力で刀を振り切ったはずだった。
しかし、刀が二人を切ることは、刀が二人に触れることは無かった。
「一度聞いた言葉を借りるとだな、………残念無念、また来週〜。だぜこの野郎!」
刀は裂人の手を離れ、黒い壁に刺さっていた。否、普通の壁ではない、それは大和の能力出生成された砂鉄の壁。
「希思っ! 距離、取れ!」
「あんがとねん!」
敬礼するかのような仕草の後、希思は部屋を飛び出る。
カンカン、と階段を下りる音が聞こえる。
裂人の行動は速かった。裂人には大和の能力は分からない、これは今はまだ大和にとっても言えること。それなら、有無言わせぬ力で押し込めれば良いだけだ。黒い壁に刺さったままの刀を力ずくで引き抜く。
大和はゆっくり立ち上がり、裂人に向き直る。
「さて、戦いたくない。ってもいってらんねぇし、仕切りなおしだ」
「誰であろうと殺すのみ」
「それなんだが、話し合いっての―――!?」
いい終わるより早く、裂人は斬りかかる。まるで話し合いなど不可能でしかない。そう言うかのように……
しかし刀は届かない、寸前で止めてもいないはずなのに、自分の思考とは逆に勝手に止まってしまう。
自分の手が自分のものではないかのような、そんな操られているような感覚が裂人の脳裏を襲う。
「……貴様ッ! 何をした」
激情する裂人の問いに大和は飄々として答える。
「右手、見てみろよ」
訝しげに自分の右腕を見ると、黒い。先ほどの刀の刺さった壁と同じ色だった。
人間の手がここまで黒くなることはない。では何故? そう考えていると、答え直ぐに返ってくる。
「それは砂鉄で、俺の能力は磁力だ」
大和は何も迷うことなどなく、自分の能力をさらけ出した。
そして、裂人に対し言い続ける。
「だから、今のお前は俺の操り人形だ、四肢に砂鉄をくっ付けたからな。という訳で、話し合いをしないか?」
「不可能なり」
「そう言うなって、共闘しないか?」
「それこそ不可能だな、この戦いは全員を殺すまで続くのだから」
「………んじゃ、最後だ。………脱出しねぇ?」
そう言って、そのまま首をかしげ、動かぬ裂人に聞く。
「お前って、何か夢があるのか?」
このゲームに参加するのならば誰しも何かの目的を持つ、それを聞こうとしている。
もしそれが、希思のものや、自分のものであるのならば、まだ何か手はあるかもしれない。そう思っての判断だった。
そして、間髪いれずにその問いに対する答えが返ってくる。
「当然だ、貴様には到底理解できないようなものだ!」
「…………そっか。それじゃぁ無理だな。………じゃあ、指輪を………破壊する!」
言葉と共に、にこやかな顔であった大和の表情が一変する。
手を伸ばし、甲を地面に向けたまま五指を開く。
「刀がお前の能力か?」
「さあ?」
裂人の返事と同時に、五指を包むように手を握る。
それと同時に砂鉄は刀を完全に飲み込んだ。
金属が悲鳴をあげ砕ける。砂鉄の中から落ちるのは、もともとの形を成さない鉄の物体。
同時に裂人は砂鉄の拘束が緩んだのを見計らって跳ぶ。
「あっ! ミスった」
着地と同時に懐から短い刀を取り出す。
「何持ってんだよ! 銃刀法違反だぞ!」
刃長約50cmといったところか、錆など一つない綺麗な刀身を持った小太刀。
裂人は大和の言葉は無視し、一気に突撃する。
刃を突き出したまま、大和の首筋を狙う。
「こっちだ!」
声で、砂鉄を動かし、盾を創り出す。
「視界を遮るとは無能が!」
言葉は大和の右隣より聞こえる。盾の生成で見えなくなった正面から移動したのだろう。
そして今度は突きではなく、全力での振り下ろし。
瞬間に、裂人の声は大和には理解できない意味を持った言葉が届く。
「一つが、二つ」
小太刀はその声と同時に振り下ろされた。
「二つが、四つ」
大和は一瞬の判断で砂鉄を手に纏わせ、右腕を掲げる。黒の手甲で攻撃をやり過ごそうとする。
「四つが、八つ。八つが、十六」
黒の砂鉄は反発の磁場を帯び、小太刀を返そうとする。
その瞬間に、刀は言葉と同時に振り切られる。
「十六が……三十二ッッ!!!」
刃はその瞬間に大和の腕へと直撃する。
しかし、思っていたとおり砂鉄の手甲に守られた右腕は無事だ。
しかし………
「……んだよ、これ」
腕は斬られていた。砂鉄で纏う右手ではない。だらん、と下げたままの左腕が。
今はまだカッターで少し斬られたようなそんな小さな傷だったが、確かに刃が届くことのなかった左手が斬られた。
「我が能力だ。貴様の能力を聞いたことだ、情けで教えてやろう」
「ッヘ、ムカつく言い方」
悪態づく大和の言葉を聞かないまま、裂人は言った。
「『増閃』斬撃の数を倍加し、偽りの斬撃を通す能力だ」
そう言うと、小太刀を水平に振るう。
「一つが、……十六ッ!!」
(数の倍加? なるほどな!)
水平に薙がれる刃は砂鉄の壁に嫌われる。
小太刀が壁に触れた瞬間、反発を起こし、返される。
「笑止! 刃は返せても、斬撃は反発させることなど出来ないだろう! そしてこんな薄い壁など……」
言った瞬間、壁が崩壊する。
「……ッ!」
届いたのは一つの刃、腕を軽く斬る程度の痛みだが、このまま続けば完全に砂鉄を破られるだろう。そう理解し、距離をとるために後ろへと下がる。
裂人は何故か、下がった大和を無視し、背後を向き刃を振るう。
地面に落ちたのは真っ二つに切られた銃弾だったもの。
(うへぇ、何でそんなもの斬れんだよ)
考えると同時に、携帯が鳴る。
男が振り向く前に携帯を取り出すと、ディスプレイには希思の番号が表示されている。
「今のって?」
『指輪を空中にほってくれると打ち抜けるからよろしく!』
ガチャ、と有無言わせずに切られる。
「はぁ? 手伝いは?」
「死ね!」
大和が無駄なことをしている間に、裂人は距離を完全に埋めていた。
「のうっ!」
水平に振り切られた小太刀を、立ち姿からブリッジをするかのように器用に避ける。
途中でいやな音が聞こえた気がするが、気のせいということにしておこう。
ブリッジの勢いが止まらずに、背中から地面へと激突する。
「いてて」
「貰ったぞ」
裂人は地面に転がる大和の腹を踏み、小太刀の刃を向ける。
大和の目の前に少し光る刃が運ばれた。
そんな危機的状況の中、大和は………笑った。
裂人は気づかないようで、大和より、どこから飛んでくるか分からないもう一人の、希思の攻撃を気にしている。
(狙撃はもう、最後の一回だけだぜ、っと)
大和は裂人の気が削がれているうちに、能力の本体を探す。
腕、足、手、顔、髪、そして小太刀。全てを見、確信する。
(手袋?……その手で持った物の数を増やす、ってわけだな。分かれば簡単だ)
「『磁砲』! 出ろっ!」
そういった瞬間に、砂鉄は裂人の足を引き、転ばせる。そしてそのまま、大和自身の手を持ち上げ、大和を包む。
転ばせたはずだったが、器用にも直ぐに跳び、完全に転ぶことは無かった。
「まだやるか!」
「まだまだ、やるねぇ、って言ってもお前が終わるがな」
砂鉄は宙を自在に舞い、かわそうとする裂人の右手、つまりグローブへと踊りかかる。
「そろそろ貴様は邪魔だ」
裂人は大和にそういいながら、無駄の無い行動で避ける。だが避けきれない。
砂鉄の量は言ってしまえばこの場すらも飲み込むことが出来るのかもしれない。そんな量だ。
だから、避けきるのは不可能に近い。
「ちぃ!」
バックステップを取りながら、小太刀を払う。
「失敗だぜ、その考え」
「黙れぇ!」
斬撃は倍化した、砂鉄を襲うが、先ほどとは違う。限りがないほどの量だ、全てを斬れるわけがなかった。
そして小太刀に砂鉄がまとわり付く。
まとわり付いた瞬間、小太刀は形を無くし、ただの鉄くずと化す。
小太刀の柄に纏わりつく砂鉄はそのまま、右手に侵食する。
「俺の」
手を開きもう一度、力強く握る。
「勝ちだ!」
砂鉄は右手を圧迫する。骨すらも簡単に折ってしまうほどの圧力を加える。しかし、大和の意思でか裂人の右手の骨が砕けることはなかった。
砂鉄は裂人の右手から落ちる。見えたのは素のままである手。グローブは破壊されていた。
それと同時に大和は走り、裂人へと向かう。
「くそ! 邪魔だっ!! 俺は夢を」
半狂乱の裂人の言葉を無視し、大和はこぶしを振りかぶる。
「黙って………寝てろっ!!」
渾身の一撃はかわすことを忘れ、狂った裂人の顔面を殴打する。
斜め上からの衝撃で裂人は地面に叩きつけられ、そのままひれ伏す。
倒れた裂人のの右手の指に指輪が戻っていることを見、大和はゆっくりとそれを取り外す。
「これで、死なずにゲームオーバーだ」
言葉と同時に、握った銀の指輪を空中へと放り投げる。
それは綺麗に真上に飛び、弧を描いて戻ってくる瞬間。
ドゴンッ!
と、雷鳴にも似た咆哮が耳を振るわせる。
「マジで当てたよ………」
目の前に落ちてきたのは粉々になった、指輪だったもの。
撃ったであろう方向を向いて。
手を出す。
そして、親指だけを天に突き上げて笑う。
「ミッションコンプリート。ってか?」