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第五話:嬉しいハプニング?

 目を覚ましたとき、そこはどこか懐かしさを感じさせるような木造の一室だった。

 大和は自分の置かれている状況を理解できない。自分は殺し合いのゲームを行う街の広い大通りで疲れ果て、意識を失ったはず。しかし、現在大和は確かに木造の一室、そこにある柔らかなベッドで寝ていた。

 そして、あたりを確認しようと、かかっていた布団をどけながら、自分に問うかのように声を発する。

「何でこんなとこにいんだ?」

 身を起こし、そして絶句する。


「むぃむぃ、まだ寝るよう」

 布団を剥ぐと、ベッドの上、つまり大和のすぐ隣、寝ている………着衣の乱れた少女がいた。

「……………」

 …………

 しばらくの無言、そして絶句。

「…………………だっぁあ! 何が起こった!? 何だこのピンクな状況は!」

 隣で喚き叫ぶ大和をよそに、少女は幸せそうに眠っている。

 すぐさま、ベッドから飛びのく大和。そして近くにあった鏡で自分の姿を確認する。

「大丈夫、服は着ている。大事は無い、はずだ」

 そして考える。自分の置かれている状況、そしてあの時何があったかを。

(考えろ、俺! 戦闘以上に頭を使え! 考え付け、何でも良いから!)

 鏡の前で頭を抱え、身を捩じらせながら、呻いている大和。傍から見るとただの異常な人でしかない。しかし、そんなことを気にしている余裕は存在していないようだ。むしろ、シェラとの戦いの時のほうが余裕があったように思えてくる。

 時々、自分が寝ていたベッドで眠っている少女を見る。挙動不審、まさにそんな言葉がお似合いな様子。

「むぃむぃ、寒いぃ。むぃ〜」

 時折聞こえる寝言に敏感に反応する大和。言葉を聞いてはいないが、音に敏感に反応する。その姿は金属音に反応する猫のようだ。

 先ほど覗き込んでいた鏡にもたれながら、床に腰を下ろす。

 そして

(俺は何をしてしまったんだろう?)

 などと、考え始め、不意に声を漏らす。

「はぁ〜、なんだよこれ」

「寒〜」

 ハッ、として少女の声をはじめて聞いた。今まで気が動転しすぎており、聞こえるものも聞こえなくなっていたようだった。

 少女は言葉通りか、少しばかり身震いしていた。そうだろう、大和は派手に布団を剥いだのだから。

 同時に不思議に感じることが出てきたのか、首を捻り訝しそうな顔をする。

(夏の朝ってこんなに寒かったけ? ここは季節も適当なのか?)

 昨日まで、夏の暑い朝で目を覚ましていた。しかし、今は苦にもならないむしろ涼しい位の朝。分からない事は色々あるようだ、といった感じで一人で納得し、頷く。

 そして、不意にもう一度聞こえた声で考えから抜け出す。

 もう一度、布団をかけようと、少女の眠るベッドに近づく。そろそろ歩きで、無音で歩く。やっぱり傍から見れば少女を襲おうとしているようにしか見えない。

「違う! やましい事は何もない………はずだ」

 首が飛んでいってしまうのではないか、と思うほど激しく振りながらベッドに近づく。

 

 ベッドを見下ろし、ゴクリッ、といった効果音が聞こえる。

「だから違う! やましくは無い、そして勝手に変なことを付け加えるな!」

 効果音は聞こえないが、ベッドを見下ろす。

 見えるのは、寒いからか大和によって、剥ぎ取られた布団をまるで抱き枕のように丸め、抱きしめている少女。日本人だろう黒の少しばかり長そうな髪が乱れ、布団の下敷きになっていた。歳は高三の大和より、だいぶ低いくらいに見える。

(中学生か?)

 そう思いながら。どうしようと首を傾げながら。少女を上からまじまじと観察する。

「おい、この文、撤回しろ!」

 ちらちら観察する。

「もう一回!」

 なめるように観察する。

「それこそ訂正すべきだろ!」

 生足に息を呑みながら観察する。

「ただの変態じゃねぇか! 撤回しろ!」

 布団をかけるの不可能そうなので、仕方なく、ベッドから離れる。

 …………本当に残念そうに。

「そろそろ真面目にしやがれ!」

 もう一度、鏡の前に立ち、映された自分を見る。

 見れば、着ていた制服は所々破れていた。本当にこの街で戦いがある、それを証明するかのような制服になっていた。

 髪は寝癖か、好き放題に跳ねている。それを手で少し直しながら、床に寝そべる。


「満漢全席〜」

 突然、そんなことを口にする少女。

 幸せそうな寝顔、夢の中でそれを本当に食べているのかもしれない。しかし、大和はこんな状況のなか平常心でいることが出来ていない。

「非日常すぎだよ。これは予定外だ、いや殺し合いも予定外だが、これのほうが、いや待てよ………というか何でこんな状況に………」

 思考がだんだん混乱していく。考えていることが意味の分からないものになってきていた。

 大和は頭を抱えながら、首を捩じらせる。

 そして、唐突に声が聞こえる。

「むぃ〜、よく寝たね〜」

 小さな体を起こし、大きな伸びをし、天井に向かって手を伸ばす…………大和と同じ、所々、破れたりしている制服だろう服を、乱されたかのように着ている少女。

 大和は顔を赤くし、すぐさま少女から目を離し、違う場所を見る。

(んだよこの、変な展開は! ゲームかよ………あ、いやゲームか)

 向きを変えたはいいが、見た先にあったのは、先ほど自分を映した鏡。

 つまり、向きを変えようが意味は無かった。大和が寝そべったままのせいか、鏡からは少女の姿が見えてしまう。

「にゃはは、起きたね〜。よっと」

 乱れた制服を直しながら、ベッドから飛んだ少女が大和に言う。

「君はゲームの参加者だよねん?」

 内心は今にも逃げ出したくなるような気分だったが、必死に平常心を装い。体を起こして、座り込むと、答える。

「……ああ、そうだ。昨日来たばかり」

 知られて困るかもしれない情報をすぐに言ってしまう大和。表面上は平静を装うが、本当に内心としては相当焦ってはいるようだ。

 しかし、顔には出さず、心理の中に押し込める。自分の表情に嘘をつくのは得意だった。つまらない日常の中、無駄な付き合いでも得るために自分の表情を、感情を偽っていたから。

 不意に声が聞こえ、少女がいるであろう場所へと普通に向き直る。


 

 急に目の前に現われたのは少女の顔。

「……っ近い! 急に近づけるな!」

「君が振り向いたからだよん」

 にゃはは、と笑いながら、答える少女。

 大きく深呼吸し、少女に尋ねる。初めから自分の気になっていたことを、簡潔に………

「何で俺はここにいるんだ?」

「それは君がよく知ってるんじゃないかにょ」

「語尾が…………じゃなくて、俺がこの街に来た理由じゃなくて、俺がここにいる理由だ」

「あんなところで寝てると君が死ぬから」

「このゲームは他の人間を消すんじゃないのか?」

「あたしはここに来て一週間、一人も殺したことなんてないよん」

 少女はそう言う。

 一週間、そんな時間をこの街で生きている。だが、人を殺さない、壊れていない。何か確固たる意思を持つのだろう、だがそれは大和には分からないこと。

「それで、頼みごとがあるのねん」

 頼みごと。大通りの真ん中で寝ている、昨日来たばかりと言った大和に対して。

「何で俺?」

 当然、不思議に思う。一週間、その短くも長い時間をこの街で生きてきた少女が、昨日来たばかりの大和に頼むことなどあるのだろうか。

 しかし、少女は笑いながら、言う。

「君はシェラと戦って生きてるよねぇ」

 さも、知っていて当然のように言ってくる。

 しかし、あの瞬間、大和は近くに存在する少女など知らない。

 それは大和が気付かなかっただけなのかもしれないが、あのシェラが気づかずに帰るなんて事は無かっただろう。あれほど戦いを楽しもうとする人間だ、少しの異質なものだって気づきそうだ。

「何で知ってんだ?」

 大和自身でもわからないほど、声は少し低くなった。

 それでも、少女はお惚けたような表情から変えない。

「見てたからだよん、あたしの能力でね」

「能力?」

「そうっさ、『銃士』」

 少女は能力の名前であろう単語を声に発する。

 指輪がどこにあるか、それは分からないかったが、少女の手には一メートル以上はあろう銃。

「『ヘカートII』全長1380mm、最大射程距離1600mくらい、アンチ・マテリアル スナイパーライフルらしいよん」

「な、何でそんなこと?」

「さぁね、もってたら判っちゃうんだな〜。指輪の気遣いってやつだね。あたしは接近戦が苦手だから、このスコープで見てた訳さ」

 もう一度笑いながら、持っていた、『ヘカートII』を指輪に戻す。

 重さも十キロ近くあるらしく、片手で持っているには辛いらしい。

「何で能力を俺に教えるんだよ」

 この殺し合いのゲームで自分の能力を知られることは、自分の行動を一つを教えているようなもののはず。しかし少女は迷うことなく大和に能力である銃を見せてきた。それどころか、自分が近距離での戦いを好まないことも。

 自分を不利に追い込んでいる。それでも少女は笑っていた。

 まるで、大和は自分と戦わない、そう分かっているかのよう。

「頼みごとって言うのは相談、君はあたしと手を組まないかい? 一時だけでも良いよん」

 手を組む。確かに少女はそう言った。

「それはシェラと戦った俺が使えるから、か?」

「嘘つくのはめんどくさいから、正直に言うよん。そう、君が使えそうだからだよん」

「何になんだ?」

「気にしてくれるの?」

 言葉と同時に近づけていた少女の顔を押し戻しながら、スッと横を向く。

「用件次第だ」

「にゃはは、気になるんだ〜」

「早く言えよ」

「にゃはは、あたしの目的はねぇ〜、ある人間を戦闘不能にすること」

 戦闘不能、その言葉を聞いたと同時に、大和はきっぱり、躊躇いもなく。

「断る」

 言った。そして、木造の扉がある場所へと歩いていこうとする。

 このゲームで生き残る、だけど、人を殺すことはしない。シェラとの戦いの際、大和が自身の中で決めたこと。

 だから、戦うことはする、でも殺すことはない。

「早いよ〜、ちょっとは聞こうよ〜」

「無理だ、人を殺すことなら御免でな。俺は誰も殺したくない」

 言って、不意に少女の言葉を思い出した。

 少女は、『ここに来て、殺したことなんてない』、確かにそう言っていた。その少女が人を殺すために自分を誘うのだろうか? しかし、この街は無法地帯、殺し合いでしか生きることが出来ない。そんな考えが頭の中で交じり合う。

 もう少し、もう少しだけ聞こう。頭で感じ取り、大和は踏みとどまり、振り返る。

「理由は? あんたは殺したことなんて無い。と言っていた。なのに何でそいつを殺そうとするんだ?」

「少しは聞いてくれるみたいだねん」

「ああ」

 長話にでもなるのか、少女は近くの椅子を引いて大和に座るように促す。

 大和が座ったのを確認すると、自分も同じく椅子を探すが、無かったのか、少し辺りを見回してからベッドに腰掛ける。

 それを見ると、ここで少女が住んでいるのではないという事は判った。

 大和はあたりを見渡し、この部屋にあるものを見る。

 ベッド、一つの椅子、小さな机、等身大の鏡、窓にかかるカーテン。

 大和は、この場所がゲームの主催者が最低限の物を用意でもしていた家であることを悟る。

 大和が少女の方へと視点を戻すと、待っていたかのように少女は話し出す。

「あたしの目標はね、二日前、つまり君が来た前の日。その日に来たはずの男を戦闘不能にすること」

「その理由だ、何で戦闘不能にする必要がある? 確かにこの街の人間は全て敵だが、あんたは殺さない、そう言っただろう」

「言ったねぇ、でもさ。あたしのやることは例外だよ、実際のゲームで言うなら、製作者の見落としを見つけた。とでも言うよん。それでそいつを放っておけば死者が異常に増える一方だね。だから、そんな人を増やす前にやろうってわけっさ」

「異常に?」

「あたしの知る限り、この人はこの二日だけで九人を殺したのさ。記録更新の困ったさんなんだね」

「どうして判る、って見てたのか。でも、結局戦うと殺すんだろ?」

「普通はそうだけどあたしは違うよ、さっきも言ったけど、見落としを見つけた、だから殺さない。だけど殺さず消す」

 大和は、少女の言ったことを理解できない、そういった困惑した表情で考え込む。

「簡単さ、人を殺さず、指輪を破壊すればいい。そうすれば能力によっての死者は減る。それでその人を捕獲して、プレイヤー全員でこの街からの脱出を図るのだ」

 単純に大和は興味を引かれた。

 どう脱出するかは判らないが、殺し合いのゲームの中、殺さず、力だけを奪い、全員での脱出を図る。人が死なない、生き残る、それが一番望んでいた結果になるかもしれない方法。

 しかし、大和の中で喜びと同時に悲しみが混じった。

 手に入れることが出来た非日常が終わること、それが嫌だった

「ちなみにまだ二人しか保護してないわけだけど、あたしの能力なら出来なくはないから、がんばろうかなって思うわけだよ」

 そんなことを一人で行う少女。当然ながら、普通のプレイヤーは手伝わないだろう、自分の夢を、目的を叶えるために殺しあっているのだから。その目的が無くなるのは許せないのだから。

 だが大和は違う。大和の目的は非日常を歩むこと。考えると同時に思う、目の前の少女はどうなのだろう、と。

「何でだ、ここにいるってことは、あんたには自分の夢があるんじゃないのか」

「にぇ? あたしの夢? …………ここじゃどうやっても叶わないよ、あたしの夢はこの街には無いもん。だから戻らなきゃいけない、あたしが生きるべき世界に………」

 突然、影を帯びたように暗く雰囲気が変わった少女。

 それ見ると、本当はこんな場所には来たくなかった、そう絶望しているようにも見える。悲しげな表情。

「でも、それは不可能に近い理想だな」

「………そう、だけど………」

 真剣な表情で、その少女の考えた方法を否定するかのような言葉を吹きかける。

 言葉から、少女の表情はだんだん、沈んでいく。


「…………だけど、やってやる。その理想の手伝いくらいはしてやる、俺もこの非日常を出るのは嫌だが、殺しあうのはもっと嫌だしな」

「え?」

「詳しく説明しろ、どうすればいい」

 少女の表情は明るくなる。まるで欲しかったおもちゃを買ってもらった子供のように。

「うん! 手伝いたまえ〜」

「偉そうにすんな」

「名前、なんていうの? これから一時とはいえ、一緒に行動するんだ、教えたまえ〜」

「大和だ、水月大和」

「いい名前だ〜、………ん? そうでもないかな? まぁ言いや、あたしは遠坂とおさか希思ねことだよん」 

 その名前を聞いた瞬間、大和は思いついたことをそのまま言う。

「変な名前」

「にゃにお〜、人の名前を侮辱するにゃ〜! 大和だって戦艦みたいじゃにゃいか」

「全国の大和さんを否定したな! ていうか、その語尾が本来のものか」

 大和がそういった瞬間、ねこ子は大和に飛びつく。しかし、大和はすぐにそれを避け、部屋の中を逃げ回る。

 必死に大和の言葉を否定しながら、部屋の中を逃げ回る大和を追いかけている。

 殺し合いのゲームが続く街のある一軒家の下、そんな殺し合いとは無関係のことが起こっている。

 一つの穏やかな非日常………

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