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第四話:一つの終幕

 薄暗くなり始めた街、”ミズガルズ”

 その街の大通りの一つ。理由を知らずに、様々な目的のため殺し合いのゲームに参加している、プレイヤーである二人の人間。一方は嬉しそうな笑みを、もう一方は苦笑を浮かべ対峙する。嬉しそうな笑みを浮かべる白い髪の少年、シェラ。対峙するのは黒い髪を持ち、生き残ると決めた少年、水月大和。

 二人が対峙する理由は簡単だ。戦うこと、それがこの街で生き残るための絶対条件だから。

 大和は始まった非日常を生き残る、それが目的。シェラは戦いを、このゲームを楽しむ、それが目的。

「第二ラウンドだ」

 大和はシェラに言う。嬉しそうな笑みを浮かべながら、それに了承したかのように言葉を放つ。

「フフッ、行くよ〜、『疾駆』」

 そういった瞬間、シェラの足は白い風を纏う。それは歩行不可能な場所など存在しない力。

 本来はただの逃走用というべき道具。しかし、シェラにとっては立派な武器。

「『磁砲』、やっと来たんだ、少しは力になれよ」

 大和を包むのは、小さく紫電を纏う砂鉄。それは大和を守るかのように空中を漂う。

 それは大和の考えたとおりに動く、忠実な家臣のよう。

 右腕を大きく、横に振る。砂鉄は大和の腕と同時に動き、大和の微々たる動きにもシンクロする。

「こいつは俺の思い通りってか」

 それは、大和を裏切らない。忠実に動くもう一つの腕。

 紫電を纏う砂鉄は、空気中を漂う。

「引き寄せれるもんあるか?」

 大通りの真ん中、この街の住宅の中、何があるのか知らない。

 だから回りを見渡す。

「さて、能力も分かったことだし。………本気で行くよ!」

 瞬間、絶やすことの無かった、笑みを……消す。しかし、表情が変わった訳じゃない、ただ笑顔を消しただけ。後に残る表情は、『無』それだけだった。ただ一点を、敵と認識した大和を見つめる。その瞳は、生きているのかすら問いかけたくなるほど、本質の存在しない虚無を孕んだようなものだった。

 瞳はまるで、人形のように無機質。そういうべき瞳をしていた。

 大和は探すことを止める、ただ一点を見る。少年が敵と認識した自分を見ている。だから大和も敵と認識した少年しか見ない。たとえそれがどんなものであったとしても、だ。


 タンッ

 飛ぶような足音、そして影だけを残し、シェラは消える。

 音も無く、一瞬で標的に近づく暗殺者のように………

 シェラにとっての獲物は大和。


「―――Lowロウ

 声だけが聞こえる。しかし、姿は見えることは無い。見えるのは速度に負け、残る影のみ。

「速いな、単純に感嘆するぜ」

「まだ一つ目だ」

 一つ目、シェラはそう言った。しかし大和は理解できていない、一つ目、その言葉の意味を。

 しかし、考えを振り切る。そして左手を正面へと伸ばす。それと同時に、集中する。

 今、シェラは見えない。なら視界など必要ない、だから目を閉じる。そして神経を研ぎ澄ましていく。全ての音を聞く、そんなことを行う。

 ここで相手を確実に捕らえるために………

「捕らえた!」

「あっ?」 

 声と同時に、磁砲という砂鉄は、大和の手より広がり、音を発する世界を飲み込み、シェラを止める。

 高速で移動するシェラは、一瞬、人の目では確認することが不可能に近い次元にいた存在。

 視界には影しか移らない、だから視界には頼らない。全神経を音に集中した、その結果………


「マジで捕まったよ」

 偶然、大和はそう言った。しかし、本当かどうかは分からない。

「やるねぇ、君の能力は砂なのかい?」

 変わらぬ『無』の表情で聞く。

 本当に本心が分からなくなる。

「俺もまだ、よく理解できてないんでな」

「そう、でも君は強くなりそうだ。聡明だし、理解能力が高い、そして何より躊躇わない。戦いの中、目を瞑ることにも、他にもね」

 砂でシェラの足を浮き上げ、逆さ吊りになっているまま話す。

「そりゃどうも」

「ああ、だから………」

 シェラは一度言葉を区切る。 

 大和は理解している、シェラがこれから何を言うのかを。このゲームにおいて、強くなりそうなら、理解能力が高く厄介なら、そんな敵が出来上がってしまう前に………



「早めに殺そう」

 殺す、そう言ってもシェラの『無』の表情は変わらない。むしろ、少しづつ悦楽の笑みに浸っていく。 

 そんなシェラに対し、大和も変わらぬ表情で言う。

「俺は死なねぇ、テメェを殺す気もねぇ」

「甘いよ。それじゃすぐ死ぬよ、いい素質があるのに」

「そんな素質ならいらないな、俺に必要なのは、生きて、この非日常を歩むだけの力と、知識、それだけだ。願いを叶えるために人を殺すのはどこか嫌だ」

「目的を果たすため、人を殺さない? このゲームで? 無理だね」

「だろうな、これは偽善だ。本心じゃきっと、望みを叶えるためなら手段は選ぶな。そう言ってるんだろうな」

 皮肉っぽく笑いを浮かべながら、シェラに言う。

 そして続ける、自分の意思を

「でもな、俺は殺さねぇ、そして生き残る。これも本心だ、変わることは無いとは言い切れんが………」

「だったら変えてあげよう、君は人の死を知らない。だから、壊れていない」

「壊れていない?」

「そうさ、このゲームのは壊れている。プレイヤーも、もちろん僕もだ、人間っていうのは一度覚えた快楽はなかなか捨てられない生き物だ」

「快楽、ね」

 快楽、それを感じた犯罪者は、一度犯した罪を繰り返す。絶対ではない、しかし、それは元の世界という場所でのこと。この街は違う、普通ではあるはずの無い力を手に入れる。一度はそれを使いたくなる。そして、その強大な力に惹かれ続ける。例外はきわめて異例のはず。

 たとえ、大和のように、殺さない、そんな確固たる意思を持とうが、強大な力を持とうとするだろう。

 そんな瞬間、その者はゲームに呑まれる。


「さて、ブレイクタイムは終了。ここからは死の領域だ。―――――Secondセカンド

「そうかよ。だがな俺は死なねぇ、絶対生きてやる。招待者が作ったプロットも、テメェの望む結果も、全てを狂わし続けていやる」


 言い終わると同時、宙吊りになっていたシェラが消える。

 しかし、大和は驚かない。分かっていた。こんな簡単に勝てる相手じゃない、と………

 そして理解する、先ほど言っていた、一つ目、その意味を。

「加減はしない」

 シェラはそう言う。しかし、風に消されその声が届くことは無い。

「速すぎだろ……」

 呆然と風を切る音を聞く。しかし、諦めることはしていない、聞く。それだけ。

 風を切る音を、方向転換の際の小さな足音を。

 雑念を払い、限りなく集中する。



 瞬間、背中から身を裂くような激痛が走る。耐え切ることなど出来ずに、派手に吹き飛ぶ。

「……っんだよ! 『磁砲』!」

 大和は力を呼ぶ、それと同時に小さな紫電を纏う砂鉄は、大和の着地点を覆う。

 そして砂鉄はクッションのように、優しく大和を包む。

「そんな使い方も出来るんだね」

 背後からの声、休む暇などくれない。シェラの一撃が大和の頭上から降り注ぐ、それは風を纏った足での一撃。


 カズッ

 と、奇妙な音を立てる。

「残念賞だな」

 大和はそう言った。

 シェラの一撃、それは瞬間に移動した砂鉄によって阻まれる。風が頭上で吹く、しかし砂鉄は、そよ風に煽られはせず、形を崩すことなど無い。帯状になったまま、盾に成り大和を守る。

 風は吹き荒れる。しかし、シェラの姿はそこには無い。

「次はこっちだ」

 再び背後からの声。次の一撃の来るべき方向を知らせる、余裕に満ちた声。

 反射的に大和は声がしたほうへ砂鉄を送る。砂鉄で黒の盾を作り出す。しかし少しの間を置くが、攻撃は来ない。

 それを不思議に思い、周りを見ようとし砂鉄を放す。

 それと同時に全身を少し下げる。

 シェラの蹴りが体へと直撃する。

「………っ!……」

 大和はその瞬間、自分が飛ばされながらも、シェラの体に砂鉄を這わせる。

「砂が憑いたな」

「それがどうした。何か変わるのか」

 シェラは嘲るように言い放つ。そんな言葉に対し、大和もシェラへ言う。

「変わるさ、お前はもう籠の中の鳥だ」

「くはっ! くはっははははっっっ! そうか」

 歪んだ笑い声が響く。

 聞いた大和は眉を顰める。”壊れている”シェラはそう言った。しかし、大和は”壊れている”のではなく、純粋に”狂っている”そうとしか思えなかった。

 異常な笑い声。初めて微笑から変わった笑い。

「くっくっく。面白いな、一瞬で……反撃という訳か」

 一瞬、それはシェラの一撃の瞬間。大和は瞬時に威力を軽減するためポイントをずらした。しかし、成功しなかったのか、激痛は大和を好むかのように付き纏う。

「……っ!……、反撃できても、食らったら意味ねぇ」

「やっぱテメェはまだ強くなりそうだ」

「でも殺すんだろう」

 口調の変化など気にしない。ただ、大和は問うだけ。弱者が強者に問いかけるように……

 シェラは首を傾けながら、笑う。はじめに見た笑みではなく。狂ったような歪んだ笑み。

「くはっ! はははははっっ!」

 再び笑いは、二人しか存在しない大通りに響く。

 そして続ける。

「テメェ次第だ」

 再び、シェラは消える。

 だが大和は、もう音を聞こうとも、一部を把握しようともしない。いや、する必要が無かった。

「残念だが、独走はここで終わってもらう」

 言葉と同時に、シェラが見える。顔には一瞬の戸惑い、なぜ止まったのか理解できないといった表情。

「『磁砲』行きたきゃ行け!」

 その言葉に、砂鉄は弾かれたかのように、一斉にシェラに襲い掛かる。まるで遠くにあった磁石が、一瞬ですぐ傍に来てくれたかのように、シェラに吸い込まれていく。

「………っちぃ!……」

 初めて、シェラが苦痛の声を発する。

 聞く間もなく、砂鉄はシェラを黒で染めていく。


「磁力も思い通りか。ってあれ? やりすぎだっての」

 しかし、そんな大和の不安など虚しく。黒は一瞬で吹き飛ぶ。

 黒が呑もうとした場所、そこにシェラが立つ。目を閉じ、空を見上げるような動作を起こす。

「そうか、テメェの能力は磁力か」

 理解した。あの一撃だけでシェラは大和の能力を確かに理解した。

 吹き飛んでいた砂鉄が再び大和の周囲を漂いだす。

「だが……もう関係ない。――――Thirdサード

 再び、シェラは消える。今度は影すら残さない。

「無駄。そしてもう、殺す……」

 背中に強烈な一撃、前に吹き飛ばされ、地面に砂鉄を敷き再び衝撃を消そうとする。

「もう、止めない」

 地面に近づく前、シェラの一撃が再び襲う。

「………っく!……」

 今度は前から、倒れる瞬間の重力が混じり、今までとは桁違いの衝撃が伝う。

「一瞬で……堕ちろ!」

 大和の体が後ろに仰け反る、そのまま倒れこむのを赦さないかの如く、頭に空間を裂くような蹴りが襲い掛かる。

「………くっ!………、んなろっ! やられっ放しで行くかっての!」

 砂鉄で頭を守る。

「無意味だ」

 瞬間、蹴りの異常な風圧からか砂鉄が吹き飛ぶ。磁力で集まっているものではないためか簡単に吹き飛んでしまう。


 大和は目を見開く。

(殺られる!)

「容赦は、……無しだ」

 蹴りは大和の頭を穿つ。


 ゴドッ

 いやな音と共に大和は地面に倒れこむ。

 見開いていた目はもう閉じられていた…………。

 それを見てか、その場にシェラの歪んだ笑いが三度響く。

「くはっ! くははははっはははははっはははっっっ!!」


 戦闘終了。それを意味するかの如く、高らかに、笑い出す。







「何勝ち誇ってんだよ!」

 声が聞こえる。聞こえるはずの無い声が。

 シェラは、分からない、そう思い、振り向く。

 そこには立つはずの無い、生きているはずの無い人間が立っている。

「なぜ、生きている」

 淡々とした声で問う。しかし、歪んだ笑みは消え去り、再び『無』の表情と化している。

「簡単さ」

 そんな声を返す。頭を摩りながら話し始める。

「あの一撃はテメェの足についた砂鉄で磁気誘導を起こし、直撃のポイントをずらさせて貰ったぜ。もちろん威力という威力はほとんど殺してな。」

「あの一瞬でか」

「反射神経は良いほうだそうでな」

 ただ当たって、そのまま地面に受けたが。と付け足し言い終える。

 そしてもう一度、シェラを見据え、言い放つ。

「俺は死なねぇ」

 憮然としていたシェラは歪んだ笑みから『無』の表情へ、『無』から、初めの笑みを取り戻す。

「フフッ、面白いね〜。君ならいいかも」

 口調が元に戻る。

 そして、シェラは消える。

「これが最後だよ〜」

 側面からの強襲、しかし、焦ることなく対処する。

 紫電を纏う砂鉄は大和を守る。



「あ〜あ、楽しかった」

「まったく楽しくねぇ」

 それは正反対の意見。

「君は僕を殺さないんだよね、ううん殺せないか」

「正直イライラ、するが、殺せねぇ」

「だね〜、なら僕も君を生かしてあげよう」

 予想をしていなかった答え。大和は純粋に驚く。

 戦いを楽しむシェラ、それが今自分を逃がすといった。

「帰るよ〜、でもね」

 一度区切り、笑みを消してから、言い放つ。


「強く。俺以外に殺されるな。次にあったとき、テメェはただ俺の飢えを満たせばいい」

 そういってシェラは消えた。今度は本当に、遠くへ去った。

 大和は独りになった後、大通りに倒れ込み、呟く。

「飢え、ね。ま、正直、逃がしてくれてありがてぇ………無理あった、実際、もろ食らった、し…………」

 大和は目を閉じる、闇に堕ちるかのように静かに。

(正直、一瞬であんなこと出来るか! もろ食らったぞ。理論だけならいけるんだが。ああ、能力を完璧に把握しねぇと、死ぬなこりゃ) 

 考えているうちに、睡魔が襲う。激痛を走った全身に心地の良い感覚。目を閉じているとすぐに眠れる。

 この場がどんなものか、もうある程度は把握しているはずなのに、大和は無防備のまま寝付く。

 プレイヤーは五萬といる。その中で大和が戦ったのは三人。初めてゲーム参加したこの日。大和は吸い込まれていくかのように意識を落としていく。

 『磁砲』は消えない、大和を分かっているのか、周りを漂う。そして、まるで大和の存在を隠すかのように黒く、深く染めていく。

 後に残るのは中に大和が眠る、微かな紫電を纏う黒い砂鉄の塊だけ………



「ふ〜ん、生きてるんだ。あいつと戦って、ね〜」

 砂鉄の塊を見据える目が二つ。 

「…………使えるかもねん」

 ニッ、と笑いながら塊に手を伸ばす。

 











 大和が眠る場所より遥か遠く、全く変わらない大通りの一場所。そんな場所で爆ぜる焔が存在する。爆ぜた焔は赤い粉塵を残し空気に舞う。

 粉塵の中心、焔が生み出る場所で狂ったような声が一つ。

「やット九人メ、アト百人近く殺せバ、我の優勝ダ。アア、楽しみダ! こンナにモそそルことハ無い」

 ”壊れている”とも”狂っている”とも当てはまらないような不気味な嘲笑。それはただ、”闘いに飢えている”もうすでに人ではない、そんな気を起こさせる。戦いを楽しむのではない、惨殺を快楽にする。

「サァ、十人メはどンナ奴ダろウ。快楽ヲ覚えル、飢えガ満たさレル、死ヲ恐怖シタ瞬間、そンナ極上の叫びヲ聞こウ」

 ジュルリ、そんな音を放ちながら、赤髪をした、充血しきったような紅い瞳を持つ男は歩いていく。

「ソソる。早く喰ラいタイ」

 ”飢え”そして、”狂喜”を孕む男は歩く。ただ自分の快楽を求めて、ただ自分の飢えを癒すために。

 男は大和とは違う道を行った……………

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