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第三話:無力なもの

「『磁砲』!」

 大和は呼ぶ、自分がここで戦うための力を、現状を打破するための力を。



「何をしてるの?」

「さぁな?」

 声虚しく、指輪に変化は無い。それはこの場での、大和の無力さを示しているかのよう。

 能力の発動には何か条件が存在するのだろうか? 大和はそう考える。そして、自分には、目の前の白い少年にも、剣闘士を操る少年にもある何かが、足りない。

 それが何であるか考えたいが、そんな猶予をくれる訳がない。この”ミズガルズ”において、自分以外の人間は全て敵だ。だからそんな敵に対し情けなど無い。むしろ好都合だろう、能力の使えないプレイヤーなど簡単に殺せるのだから。この街において自分さえ生き残ればいいのだから……………


「さぁ行くよ、手加減は無しだよ」

「少しは手加減しろ」

「無理〜」

 少年はニッコリとした表情を変えることなく、大和へと向かっていく。

 だが、大和はその時に気づく、少年の能力は発動していない。右手にはまったままの指輪が証拠だ。

 だから、まだ逃げれる。そう思うと、大和の行動は早かった。先ほどのような加速は無いが、もともと運動神経は良いほうだった大和は全力で駆け出す。

 


「無駄無駄〜」

 しかし、少年は一瞬で大和に追いついていく。

「なっ!?」

「分からない? 君は勝てないよ、力でも使って奇跡でも起こさない限りね」

  

―――ドゴッ

 そんな音と共に大和は弾き飛ばされる。

「っく……」

 当たったのは少年の蹴りのはず、しかし、威力が半端ではない。

 だから、大和は少年は力を使用している、それを確信する。

 しょうがない。といった表情から一変、大和は少年を睨む。それは今度こそ、戦うことを覚悟した瞳。戦えるかどうかは問題ではない。このまま逃走を図ろうとしようとも、無様に死んでしまうだけ。なら、死ぬかもしれない、しかし生きるすべが在るなら、それは戦うこと。殺さなくてもいい、ただこの場を生き残るために…………

「面白いね〜、君は表情が豊かみたいだ。壊れてない人を見るのも少ないしね〜」

 大和には少年の言っている意味は理解できない。いや、理解するつもりも無い。ただ大和は、力の差が存在し続ける少年に立ち向かうだけ。

「戦うんだね〜、いいよ〜。逃げられるよりずっといいよ」

「俺の死に場所はここじゃねぇんでな。死ぬわけにはいかねぇんだよ!」

「さぁって、戦う前に名乗っておこうかな〜。見ず知らずの人に殺されるのはやでしょ?」

 そう言って少年は大和に対し、一礼を行い本当に名乗りだす。

「僕はね〜、シェラだよ〜。君は〜?」

「水月大和」

 短く、用件だけを述べる。大和には、シェラと名乗った少年のような、余裕は無い。

 今この瞬間も、どうすればいいのかを必死に考えている。しかし、思いつかない。大和が全力で走ろうが、一瞬で追いつかれる。おそらく、立ち向かおうが一瞬で先程のように蹴り飛ばされるだろう。

「止めだよ〜」

 小さくそう言う。大和は考えることを止めた、ただ戦う、それだけだ。

 シェラは違う、最初から何も考えていない。ただ戦いを楽しむだけ。


「行くよ〜」「やってやるよ!」

 同時に駆ける。今度は能力を使っていないのか、大和のほうが少しばかり速い。

 いける! そう思った瞬間。大和の背後から、風が吹く。

 それに気をとられ、後ろを振り向く。しかし、そこには何も存在しない。


 そして大和は気づく、自分の失敗に。

 戦いの最中、相手を見失った。それは敗北の一手。


「やぁ〜」

 気の抜けるような声と正反対に、大和の後頭部へ激しい衝撃が走る。

「……っ!」

 後頭部を抑えるが痛みが消えることは無い。

 しかし、不意に違和感を感じる。シェラは確かに、大和の正面にいた。それが突然、後頭部へ蹴りを繰り出せる位置に移動した。

 高速で移動し、正面からの攻撃ならわかる。しかし、一度敵を見失っていた大和の後頭部など狙う必要が無かった。確かにこの一撃は大きい、だが速さを生かしたまま、腹にでも蹴りをいれてしまえば直ぐにでもダウンしていた。

「無力な君に僕の力についてのヒントをあげよう」

 余裕を持っているシェラは、自分の能力を明かすかのように、言い出す。

 そんな声を大和は否定することも出来ない。自分が無力なのは確かだから。

「さてさて、ヒント一。僕はどこからでも君の後ろを取れる。今この場所から一瞬でね、君の隣を通る事無くね〜」

「何でそんなことをするんだ」

 大和は当然のことを聞く。大和が無力だからといって、自分の能力を明かすようなバカな真似をする理由を。

「楽しみたいんだよ〜。戦いをね」

 そんなことをシェラは余裕の笑みを浮かべながら言う。いや、表情自体は初めからまったく変わっていない。

 そしてその瞳は大和を見下す。

「後悔すんなよ! 俺にヒントを与えることに!」

 しかし、一つ目のヒントで、大和は何も理解していない。シェラの能力がなんであるかを。

 今度は目をそらさない、大和はシェラを見続ける。

 一瞬でも油断すれば、いや、油断することが無くとも攻撃がくればかわせることは無いだろう。だが欠片でも、見つけれるのかもしれない。

「見ても無駄だよ〜」

 そういった瞬間、シェラは消える。文字通り、今までいたはずの場所から何も残すことなく。


「ヒント二。蹴るのは何も地に付く場所じゃない」

 大和は声と同時に横に跳ねる。

 瞬間、空間をも切り裂いてしまうような蹴りが横を抜ける。

「っぶね!」

「よく出来ました〜、じゃあ。どこを移動すれば君の背後に立てるでしょう?」

「ああ? そんなの横しか………」

「残念無念、また来週〜♪」

 言い切る前に、背中に衝撃が走る。

 その衝撃に耐え切れずに、大和は前に吹き飛ぶ。

「………く、そッ! 何なんだよ、こいつは」

(意味がわかんねぇ、こいつの力が。後ろを取れる? 横を通る移動じゃない? 一瞬で後ろへ、どうすれば?)

 考える、 この街に来てから、最低限しか使うことの無かった知識を振り絞り。考える。

「考えてるとこ悪いけど〜、最後のヒント。足場はどこにも存在する」

(三つのヒント。…………考えろ、知識を捻り出せ! 風、それは分かっている。でも、知りたいのは能力じゃない、俺の後ろを一瞬で取ったの方法だ。重力を無視? 飛んだのか? いや、跳んだって一瞬じゃ背後は取れない。それに、跳ぶなら横を走ったほうが速い。それよりも速い、あいつの場所から、俺の場所までの最短距離。)

 大和は思考に没頭してしまう。

 だから、シェラの攻撃をかわせない。

 しかし、関係ない。痛みは無視する。シェラの能力を知ることを優先する。

 止まっていることが無いシェラの手を見て、一番簡単な方法の指輪の確認は出来ない。

「時間切れ〜、残念。君は失格だ〜」

 そう言って、シェラはまた消える。大和に自分の能力を見せつけるかのように。



 また後ろからの衝撃。

 なすすべなく、前に吹き飛ばされる。

 

 今度は止まることの無い連撃。それは全て命中する、正確無比なもの。

 しかし、大和は考えることをやめない。止めてしまえば直ぐにでも、地に伏してしまいそうだから………

 大和は諦めはしない。逃げることはする、立ち向かうこともする。相手に負けたっていい、だが自分に負けるのは大嫌いだ。自分自身と、自分そして他人の能力を理解する。そんな勝負を行っている。だから負ける訳にはいかない。

 だから、考える……………。

 ボロボロになろうと関係ない、生きてさえいればいいのだから………


「これでおっわり〜」


(そうかよ、風、そんで………)


 

 ―――ズンッ

 それはまるで背中を貫くような一撃。

「……っく! 痛てぇな。……………でもな、捕まえたぜ!」

 その瞬間、大和は痛みを感じる。それと同時に言葉を理解した。

 大和はシェラの足を掴む。

 攻撃が来る場所を理解することが、出来たかのように正確に。

 ただ、止めることが出来なかったのは、速すぎたから。

「!?」

「ヒント、ありがとよ。おかげで理解できたぜ。テメェの能力が風の支配で、さっきから俺の背後を取っていたのは空気蹴り、とでも言うのか? その場の風を、空気を蹴り、瞬間的に方向転換する。つまり、俺に向かい飛び込んだ後、俺の真上に存在する風を方向転換のために蹴る、そして斜め上へ向かっていたベクトルを俺の背後、その場から斜め下へと変更する。そうすれば横を通ることなく、簡単に背後を取れるんだろ? 見えねぇのはただ速すぎるだけってか。それに背後でもう一回蹴りさえすれば、横に回るより速く一撃を入れ、離脱できるしな」

 初めて、シェラは表情を変える。といっても、ただ笑顔をやめただけ。

 その状態のまま、大和に話しかける。

「正解〜、でも風じゃないよ〜。正確には『疾駆』それが僕の能力。普段は高速移動するためのただの風を纏う力だけど、ただ応用しただけだよ〜」

「そうか」

「でも分かっても、どうすることも出来ないよね〜」

「いや、そうでもないぜ。テメェが時間をくれたんでな、いろいろ考えたんだよ」

「何を〜?」

 ニッ、っと笑いながら、シェラに向かい言う。

「この指輪の本質。何で俺が力を使えなかったか、それは簡単だったんだよ。」

「少し聞いてあげよ〜う」

「この指輪は”ミズガルズ”において、俺たちの武器だ。それは心底思う、目的や夢、それを持ったものが使うことが出来る。だからテメェらは使えんだよ、このゲームに勝ち残り、自分の望みを叶えるっていう心底思う夢が。ああ、テメェは戦いを楽しむ、か? でも俺は違った、俺には別に願いなんて無かった。むしろこの街に来たことで俺の夢は、目的は消化された。非日常、それが俺の目的だった」

 シェラは黙って聞いている。自分たちが使う、指輪の能力、そんなものについて考えたことなど無かったから。

 自分たちはいつ、どんな時でも、この能力で戦う。使えないはずなんて無い、そう思っていた。だが違った、シェラや、ほかのプレイヤーは目的を持っていた、だから簡単に使えた。

 大和は一息つき、悪態づく。

「それ以外にテメェらの目的は何なのかは知らねぇ、聞きたくもねぇ」

「それで、目的を持たない君がどうやって、能力を使うの〜?」

 シェラは変わらぬ様子で聞く。

 しかし、どうしてそんなことを理解できるのか、シェラには理解できていなかった。でも簡単だ、シェラの目的はただ、楽しみたい。それだけだから。

「目的ならさっき手に入れたさ。そう、このゲームで、俺自身にも、テメェ等にも、殺される訳にはいかないんだよ。俺は…………非日常を歩むんだ!」

「そう、きっと楽しいよ〜、殺し合いなんて異常なゲームは」

 そう言って微笑んだシェラは、壊れている。そうにしか見えなかった。

「お前にとってはな。俺は違う、俺の歩むべき非日常はこんなんじゃねぇ。だから、俺はこのゲームに生き残る。それが俺の目的だ! だから………」

「だから?」

 大和は目を瞑る、戦いの中、目を瞑る行為は自殺も同義かもしれない。

 だが関係ない、大和は、生き抜く、戦い抜く、そう決めた。

 だから

「そのために、最低限でもいい、だが、戦う為の力を寄越せ! 『磁砲』!」

 瞬間、大和の手にあったはずの指輪は消える。

 しかし、大和は何ももっていない。だけど、大和の周り、そこに変化が起こる。

 

 小さい紫電を纏う砂のような物、それが大和の周囲を漂う。

 磁気を起こし、小さく反発しあう帯状になった砂鉄。

「砂? まぁいい…………今度は、第二ラウンドと行こうぜ!」

「楽しめそうだ〜♪」

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