表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

置きゲルにお越しください。

カレー臭

作者: 湧水蓮太郎

先日、職場の歓送迎会があった。



幹事兼司会はこの私。



私は、宴会にすら妥協を許さない一つ上の男(上野男※またまた下ネタすいません。頼むからググらないでください)なので、ホテルで高級中華のコース料理を頂くこととした。



と、ゆうより昨年度私が何もしなかったことにより、親睦会の会費が余りに余っていたので、大盤振る舞いをすることにしたのだった。



私は、新規採用されて以来、今の今の今まで、5年連続で歓送迎会の司会をやらされる、といった、非常にささやかなイジメを受けているため、司会は慣れっこである。



前半戦を滞りなく終了し、席に戻ると、隣には半年前からバイトで来ている、今年音大を出たばかりの月岡さん(※仮名)が座っていた。



「ワキミズさん、さすがですね〜。これだけの人数を仕切っちゃうなんてさすがです」



「いやいやそんなことないよ〜、カミカミだったしさ、なんてゆうか、何回やっても慣れないものだね。司会なんて」


僕は、ものすごくカッコつけて、グラスビーアを飲み干した。



「いやいや、さすがですよー。ワキミズさんは落ち着いてるし、憧れちゃいます。それに、私、ずっと思ってたんですよね。ワキミズって普通にイケメンだなぁ〜って」



僕は、'普通にイケメン'といった意味がイマイチ分からなかった。

それとともに、なぜ突然呼び捨てにされたのか困惑した。



「いや、月岡さんこそ、すらりとスタイルがイイし、目元も涼しげで美人さんだよね。学生時代はモテたでしょう」



と、僕がいうと、



「ぜ〜んぜん。そんなことないですよ。声楽科だったんですけど、私の代は特に女の子ばかりで、出会いなんてまったくありませんでした」



と彼女が答えた。


僕は、ふーん、そんなものなのかな、と呟きながら、これまたものすごくカッコつけて、グラスホワイティワインを飲み干した。



「そういえば、今付き合っているひととかいるの?」



僕はワインをおかわりした。(※ビールは温くてクソマズかったのである)



「あれ、ワキミズさん知らなかったんですか。今は素敵なダァがいます」



ダァ、だと。



ダァってなんだ?





猪木か。



僕は一瞬思ったが、彼氏が猪木のわけはモチロンなかった。

僕は、二十代土俵際の脳をフル回転し、なんとかそれは'ダーリン'の略だと理解した。



「あぁ、ダァ、ね。それはそれは。じゃあ今は幸せなんだね」



「えぇ、幸せです。私、ゴールデンボンバーが大好きなんですけど、ダァも大好きだって言ってくれて・・・。本当に趣味も合うし、それに優しいんです」



「でれでれだなぁ。彼氏は本当に素敵なひとなんだね」




「あの・・・、ワキミズさん、ダァのこと本当に知らないんですか??」



「知らないってなにが??」



「まぁ、あえて言うことでもないんですけど・・・」



僕はなんだかイヤな予感がした。



それとともに、先ほどから不自然なほど力強く送られてくる視線を意識せずにはいられなかった。






視線の先にはチャラメガネ(※仮名)がいた。


真正面に僕を見据えている。



僕は、チャラメガネを眺め、ゆっくりと、彼女に視線を戻した。



「いやいやいやいや・・・ウソでしょ??」



「本当ですよ。女性社員はみんな知ってます」



「いつから??」



「勤め始めて、10日後ぐらいです」







僕は絶望した。(別に僕が落ち込むポイントは皆無っちゃ皆無なのだが)




以前日記にも登場したことがあるが、チャラメガネは私の先輩であり、ものすごく女性に手の早い先輩であり、今までに何人ものバイトさんを食い散らかしてきた真性のヤリ○ンなのである。


そして、チャラメガネはゴールデンボンバーなんてちっとも好きでもなんでもなく、音楽は平成24年というこの時代に、〝鈴木あみ〟と〝MAX〟しか聞かないことも僕は知っている。



「あのさ、いったいどこがイイの?」



と僕が聞くと、



「全部です全部。カッコイイし、面白いし」



と彼女が答えた。



どうやら、はじめはチャラメガネの猛アタックと、あまりの下馬評の低さにイヤイヤだったそうだが、今は彼女のほうがチャラメガネのことを好きでしょうがないのだという。

※補足説明をしておくと、チャラメガネは血色が悪く、目が死んでおり、やや小太りで、口元がだらしなく、例えて言うと、〝ほぼ死んだナマズ〟のような容姿である。

しかし、カッコイイの定義は様々であるので、僕の口からはこれが不細工だとは決して言い切ることはできない。



〝面白い〟については全く理解できない。



「あのさ、ごめんね。いったいどこがそんなに面白いの??」



と、僕が恐る恐る聞くと、


彼女は思い出したらもう堪えがきかない、といった様子で、



「だって・・・」



「だって??」



「だって、このあいだデートのときに、ずっと〝ビートゥギャザー〟、〝ビートゥギャザー〟って連呼してるんですよ。そりゃ笑いますよ。だって面白いじゃないですか、ルー大柴。」




違う。



それはルーのほうではない。




ルー大柴ではない。




アミーゴ鈴木のほうである。




僕は、ジェネレーションギャップが一周して、クリティカルヒットになってしまって例を目の当たりにして絶望した。




「それと、前に、〝ギミギミシェイク〟っていうオリジナルのギャグも披露してくれたんです。もう超面白くて面白くて」




違う。




だから違う。




ギミギミシェイクはギャグではない。

(ファンの方、大変申し訳ありません)





僕は加齢という現実に、ものすごく落ち込んだ。そしてしばらく沈黙した。




次々とコースの料理が運ばれては消えていく。



香ばしい匂いがして、白身魚にカレーソースがかけられている一品が運ばれてきた。(〝ルー大柴〟とも、〝加齢〟とも引っ掛けてはないのだが、本当にたまたまこのような状況になったのである)



チャラ岡さんが(もはや私の中では月岡など存在しない)、



「あれ?なんだか、もの凄くカレイ臭がしませんか??」



とまわりをぐるりと見渡して呟いた。



僕はドキリとした。



〝カレイ(加齢)〟という言葉にもの凄く敏感になっていたのである。



彼女はカレーソースに気づいていないのだろうか。



僕は控えめに彼女の皿を指した。




「あの、それ、それカレーソースだよ。中華のコースじゃ珍しいけど」



「あ、なんだぁ、ビックリしちゃいました。すごく臭いがキツイので」



僕は、目の前の皿以外に臭いを発するものはないだろう、これだから最近のなんちゃらは・・・と思いつつ、



「はは、ま、確かに臭いが広がるよね。しばらくはカレーの臭いが充満しそうだね」


と、ちょっぴり安心しつつ、優しく彼女に言った。



すると、彼女が全く予想もしなかったことを発言したのである。




「臭いといえば・・・、ワキミズさんってすごくイイ香りがしますよね。何か決まったフレグランスとかつけてるんですか??」





・・・。




イイ匂い??




この俺からイイ匂いだと??




全くの意外心外である。






僕は生まれてこの方、香水など買ったこともつけたこともない。

※ちなみにチャラメガネはシャネルの4番バッターと呼ばれる香水を使用している。らしい。




「いやいや、ウソでしょう。フレグランスなんてそんな恥ずかしくて・・・」




「えー、そうなんですか。受付の女性もみんな言ってますよ、すれ違うとイイ匂いがするって。やっぱり普通にイケメンはイイ匂いがするんだなぁって」




普通にイケメンといった語彙がまた鼻についたが、今大問題なのは、実際になにが〝鼻に付いている〟のかといったことである。




僕は、洗剤はアリエール(抗菌プラス)だし、歯磨き粉はクリアクリーンだし、ヒゲ剃りはシックハイドロだし、整髪料はナカノワックス(5番)だし、鼻をかむのはスコッティ(徳用)だし、スーツはアオヤマだったりだまにビームスだったり、バッグはオロビアンコだったり、ネクタイはたまにポールスミスだが普段はノーブランドだったり、時計はポールスミスだったり、名刺入れはイルビゾンデだったり、ボールペンはコクヨだったり、血液型はAB型で、好きな食べ物はミートソースパスタで、お酒ならハイボールで、最近好きな女優はトリンドル玲奈で、好きなサッカーチームは浦和レッズで・・・と、ほぼいらないくだりも織り交ぜはしたが、いたって普通のメンズである。




絶対にイイ匂いなんてするハズがないのだ。






しかし、しかし、だ。




思い当たるとしたらやはり加齢による、アレしかない。





「あの、本当にごめん。彼氏さんからはイイ匂いがする??」




「えー、ワキミズさんのような匂いではないけど、一緒に寝るときは、なんだか安心できるようなほんのりと古臭い・・・でもイイ匂いがします」










な・ん・て・こ・と・だ。








確かに最近仕事で疲れているとは思ったが、僕からもすでにフジモン臭が出ていただなんて・・・。




僕は絶望した。



もはや、やけくそであり、グラスブラッディ酒(赤ワイン)を浴びるように飲み、そして、一番の主賓である、新入社員(男性1名)の挨拶と紹介のくだりをすっかりすっ飛ばした。

※言い訳をさせて貰うと、転出者が遅刻に遅刻をしたせいで、送迎者の後にくる、転入者の紹介が最後までずれ込んでしまっていたのである。




そして、なぜだが、新入社員は、これまたやけくそで一発芸を繰り出し、すべりにすべった。



宴会後に、部長から「お疲れ様だったね。最後以外は」と、ものすごい笑顔でイヤミを言われ、僕は泣きたい気持ちになった。




そして、すべりにすべった新人に大変申し訳ない気持ちになったのであった。







家に帰り、僕は今日の出来事を思い出し、枕を濡らした。






そして、枕からは、はんなりと古びたタンスのような臭いがしたのだった。






おしまい。









評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] こんばんは。 再びお邪魔させていただいております。 ……「ギミギミシェイク」がオリジナルのギャグですか。何だか泣きたくなりました。僕は84年生まれなので、まさしくその「世代」です。中学校…
[良い点] この話に限らず思うのですが、 フィクションなのかノンフィクションなのか とにかく絶妙です。 [一言] ギミギミシェイクw 朝から吹き出してしまった。 楽しいお話をありがとうございました。…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ