運命
締め切りは今日ではないが、レポートがあるのは事実なので、少しは手を付けておくことにする。また徹夜で死ぬ思いをするのはご免だった……と思いつつも、また徹夜してしまうのだろう。もはや運命だ。
俺は理系に、秋山は文系に見える、とよく言われるが、実際のところは真逆だ。秋山はなにやら小難しい分野の小難しい研究を志しているようで、説明してもらってもいまいち理解が及ばない。逆に俺が自分の専攻を説明しようとすると、秋山は途中で寝てしまう。
見た目も逆だ。俺は垢抜けないメガネで、秋山はファッション雑誌のモデルも張れそうなセンスの持ち主だ。悔しいことこの上ない。
俺と秋山は、全然似ていない。むしろ、正反対だ。なんで惹かれるのか分からないが、だからこそ惹かれるのかもしれない。どちらも本当のことだと思う。
秋山と柚木さんは、どうなのだろう。彼女とは、当たり障りのない会話しかしなかった。意識したわけではないが、たぶん無意識に避けていた。
彼女はどんな人間だっただろうか。秋山に似ているようだったし、まったく似ていないようでもあった。思い出そうとすると、顔立ちもぼやけてきた。顔すら見ないようにしていたのだろうか。
まったく、女々しい。
例えば、あの二人がまさに『運命の恋人たち』のように見えたとしよう。入り込む余地もないほどの絆を見せつけられたとしよう。
そんなこと、俺にはなんの関係もないのだ。最初から、そんなステージには立っていないのだから。
俺が打ちのめされるとしたら、その理由は一つだ。
もうあいつの隣にいるのは俺ではない、ということ。




