水面
雨音が聞こえる。冷たい雨だ。雨は雪へと変わるだろうか? それは無理だろうなと思い直した。雨はざあざあと降り続いている。
明日までに仕上げなくてはならないレポートは、面倒な代物だった。A4用紙をみっちり五枚埋めなくてはならない。内容をしっかり確認してくる先生なので、迂闊に手を抜けない。
猶予期間は二週間もあったのに先延ばしにしていたせいで、今になって慌てて取り組む羽目になっている。日曜日の自分に期待、とか抜かしていた土曜日の自分を殴りたい。秋山も今頃、溜まったレポートに頭を抱えているのだろうか。
秋山のことを考えた瞬間、集中力の糸がぷつんと切れた。一時休憩ということにして、ヘッドホンに手を伸ばす。パソコンの画面を眺めて、音楽ファイルの中から気に入ったアルバムを一つ選ぶ。
再生ボタンを押し、俺は座イスを倒して寝転がった。痺れかけていた脚を伸ばす。両腕も伸ばして、部屋の真ん中で大の字になる。
アイツほどではないが、俺の部屋も一般人とはちょっと違うかもしれない。
本棚の大部分は、時刻表やら鉄道写真集やら、自分で取った鉄道写真のアルバムなどで占められている。居住空間の確保を重視しているのでスペースはあまり取れていないが、鉄道模型専用の棚もある。
秋山は俺の趣味をいまいち理解しきれていないようだが、鉄道仲間の中にはアニメと兼業している奴もいるので、けっして敷居は高くないはずだ、と信じている。
この部屋は小さな世界だ。俺の好きなものだけでできている。凪いだ水面のような世界。部屋から出れば否応なしに濁流に飲み込まれ、手を伸ばしても空を掴む。
自分が普通じゃないのは重々承知だ。最初から無理だと分かっていて、それでも選んだ。だからこの苦しさは、自分で望んだのだ。
そして、この痛みを決して離したくないと願ってしまう。抱えていれば、いつか溺れ死ぬことは分かっているのに。