表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/7

 (七)愛妻家のため息

 【完全週休二日制】

 求人誌で謳っていたが、僕が入社して三カ月、初めての土日連休だ。

 土曜は強制出勤ではない、自主出勤だと、毎金曜終業時に言われる。

 目標達成できるなら休んでもいいという、どこから出たのか知れない伝達。

 そこには、絶対達成しろという部長の至上命令が、牙が潜む。誰一人として休まない。

 「リーダー、一分でミーティングしろや。三分で班員は皆、帰らせろや。それとリーダーと内山は残っておけや」

 内山は今月、営業部で最高の十二件の新規を出した。五月度最優秀賞受賞者だ。

 毎月末、部長はリーダー、最優秀賞受賞者を打ち上げに連れて行く。高層ホテルの高級フレンチレストランで、精鋭部隊へのごほうびだ。

 

 僕らは、あっという間に事務所から出された。

 一回で一階に降りることのできない頭数が溜まった。僕は最後尾でエレベーターを待つ。

 三往復目のエレベーターに、最後の残り三人で乗った。

 他の二人は一班、二班のメンバーで、しゃべったこともない。名前すらはっきりわからない。

 個人営業でもあり、チーム営業でもあり、他班のメンバーは自分の枠の外の外なのだ。

 要求が重すぎて、どんどんひとりぼっちになっていく。

 エレベーターを降りると、先に乗った他のメンバーはビルを出ていて姿はない。

 僕ら三人は歩くほどに、運動会の走者みたいに順位ができ、間隔があいた。

 歩む道もそれぞればらばらになり、三分もすると僕は一人で歩いていた。

 晩八時を過ぎていて、昼には見えなかった居酒屋の看板の文字が、青色発光ダイオ―ドの光で店名をお披露目している。

 普通のサラリーマンに、なりそこなったなあ。仕事帰りにちょっと一杯やっていこうかという気になれない。

 居酒屋を通り過ぎ、そのまま歩いた。

 コンビニのガラス越しに、雑誌を手に眼を伏せるスーツ姿がある。すごく明るい場所に立っているように見えた。

 通りの缶ビールの自動販売機の前に立ちどまった。500mlの缶ビールを買った。

 僕は駅までのビジネス街を、スーツ姿で缶ビールを飲みながら歩いた。

 サラリーマンもどきに乾杯!

 こんなこと、意外とやったことなかったな。

 歩きながらだと、アルコールの吸収が早いような気がする。どんどん足早になる。

 すっきり、さばさばとしてきた。

 いつの間にか、駅を通り過ぎていた。いつもの通勤路からはずれて、解き放たれたようだ。

 こんなところにも、牛丼チェーン店があったんだ。それとハンバーガー店も。

 この通りの100mほど先に、ビルや店の灯りを避けて独り立ちした空地がある。

 そこまで歩いていった。

 ベンチが一つだけある小さな公園だった。

 さっき買った缶ビールを飲み干していた。

 公園の前に、ビールの自販機があった。

 また500ml缶を買う。

 ゆっくりと薄いプラスチックのベンチに座った。

 足元の地面は、平たく横にはびこる雑草だらけだ。しおれた草はひとつもない。

 営業なんてできるのと三カ月前、宏美が言ってたよな。

 良男の学費のことや3LDKのマンションのことも。

 ごくありきたりのサラリーマン家族のプレッシャー。 

 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ