(六) 最強リーダーは総合格闘家風営業戦士
一班のリーダーの机の電話が鳴った。
僕は毎月恒例のアレだなと思った。
リーダーはすぐ電話を取った。
はいわかりましたと電話機を置く。
部長からの内線電話だ。
リーダーは、机の上に用意してあったCDプレーヤーのスイッチを入れた。
『ロッキーのテーマ』が流れる。
三十秒ほどして、部長室のドアが開き、スーパー内勤営業マン・最年少最短昇格部長がチャンプのテーマで登場だ。曲が選手入場と声援のシーンを強要する。
茶化す、いや茶化せる者など存在しない。
事務所の前に立つ。
185センチ90キロの短髪茶髪口髭金のピアス二十八才の部長が、今日は黒のアルマーニのスーツで立つ。
テレビでよく見るカリスマホストが、体を鍛え抜いて格闘家になったみたいだ。
スーツが、ぶ厚い胸板で薄皮のようだ。
「今月はお疲れさん」
「お疲れ様です」
受け答えにすきまはない。
役職が主任、係長、リーダーとあがるほど言葉や動作にほつれもない。
先月末の全体ミーティングとは大違いだ。
今月は全班、営業部トータルとも目標達成している。半年ぶりだという。
未達成の先月は、一時間も部長は荒れた。
未達成の元凶、犯人への追及、むちゃくちゃな攻撃だった。
しまいには、スーツを投げ捨て、ネクタイをほどき、文句ある奴はかかってこいと凄んだ。
誰ひとり、身じろぎひとつしなかった。
今日は無邪気で、さむいギャグを連発するありさまだ。
各班リーダーによる班結果報告の後、部長が営業部トータルの結果報告をした。
おとがめなしのはしょった報告を終えて、来月の目標発表、確認を澄ました。
「さあ、今日はもう終わるぞ。明日、あさってはゆっくりと休めや。休み明け六月は今月以上やるぞ!」
「はい!」
間髪を入れず、「はい」、「わかりました」、「ありがとうございます」、「すみませんでした」を選択し使いこなす。
誠意を献上するかのように。