(四) ピンクのスカルプチュアの躍進
こうして見ていると、吉田桂子さんはこの顔ぶれにふさわしくないな。
たしか二十三才だと言ってた。
彼女は僕と同じ二月入社だけれど、一言もしゃべったことはない。
入社した最初の日の朝礼で、他のおやじ三人と自己紹介させられた。
その時彼女が言っていた。大阪キタの繁華街で、エステのキャッチを三年やっていたって。
テレビの報道番組で、エステのキャッチセールスのウラのあれこれが放送されてからキャッチがやりにくくなって、やめたんだと。
そうなるまでは、人気キャバ嬢より収入はあったとも言ってたな。
キャバ嬢であっても、そのくらいは稼げるだろう。彼女はCANCAMなんかの人気モデル並みだもんな。
電話では、彼女のスリムボディもマネキンみたいな美脚も見えない。彼女の声はありきたりの女性だ。
そうか、わかった。見映えの悪いおやじにとってはうってつけなんだ。この電話営業は。
やっぱり吉田桂子さんには、もったいない仕事だ。
机には二つの席があり、一人で座っている。
未使用の白い裸の電話機と、彼女がアポがけしている電話機は全く異なる機種に見える。
キラキラ光る粒々のシールやキレイというよりけばいデザインのステッカーが貼りまくられている。
ピンクのスカルプチュアが指を細く長く拵えている。
受話器を撫でるような指使いとアポトークを語る唇のすぼまるのに見入ってしまう。
背筋を伸ばした彼女の上半身に、張り合いのあるのをかんじる。
彼女はすごい。よく頑張ってるよ。
先々月、先月の新規はたしか三件、六件だったはずだ。今月は八件も出してるもんな。
僕の二件、三件、ゼロと比べれば、彼女は三倍以上の数字をあげているしな。
あと一件で主任昇格の三カ月十八件だったわけだからすごいよ。
きっと来月からの三カ月、十八件以上の新規を出して九月には主任になってるよ。
二十三歳の小娘が、だよ。
資材管理課長として改善提案を出して社内マニュアル化されたことも、息子を有名私立中学に入学させたことも、社会人経験も、人生経験も、ここにいるとこっぱみじんさ。
夜更かししたみたいに、のうみそも神経もへとへとだ。
雑念ばかりで、成績の上がらない他のおやじと同じはやり病に感染したようだ。
最高の特効薬は新規をあげることだと、成績のあがらないおやじたちはますます青息吐息さ。