(二) 新規ゼロ社員のみそぎ
入社三カ月目で、僕は初めて新規がゼロになってしまった。
手を抜いたわけではない。
営業なんてやったことはないし、手に職はない。、四十三才の僕が再就職できる会社なんてそうはない。
『中高年者、営業未経験者歓迎。高収入可能』という求人に僕にでもできるかもと、面接受けたら即日採用された。
だけど、くる日もくる日も朝から晩までじっとイスに座って電話をかけるだけの日々。
結構これがキツかった。
「おまえ、仕事中にこんな電話してくるな!」
「おれの名前をどこで調べたんや!」
「そんなサギみたいな話、誰が信じるか!」
こちらの話を聞いてくれる無防備で人のいい人間を、一日で何人みつけるかだ。
リーダーにもなると、声を聞くだけで新規になる人間がわかるという。
新規になる声探しだ。
いまだに、ウェザーマーチャンダイザーというライセンスに実用性を感じていない。
作り物のライセンスの押し売りだ。
それでも電話をかけまくるのは、新規ゼロ社員は月末にこういうみせしめにされるから、それが怖いからだけだった。
先月、先々月と何人もがこういう目にあわされるのを見ている。
二カ月連続ゼロ社員は、タスキを掛けたままビルの外のビジネス街を何時間も歩かされるそうだ。
僕はまだそれを見たことはない。
以前、外に出された者はそのまま帰ってこないでやめてしまったらしい。
新規ゼロは悪なのだ。
タダ飯喰らいなのだ。
一カ月もあって一件も新規を計上できない者は、やる気がないか、電話営業がむいていないか、どちらにしても会社に必要ない人間。
かわりの人間はいくらでもいる。求人誌に募集をかければ、すぐにあとがまが来るよと、部長は声高らかに言う。