記念日
「記念日のご飯どうしよっか」
付き合って一年が近づいていた。
「あー、なんでもいいよ」
スマホを見たまま答えてしまってから、顔を上げた。
彼女の表情が少しだけ曇っている。
「あ、いや……なんか美味しいもん食べたいよな」
言い直した言葉は、自分でも軽すぎると分かった。
「やっぱお肉かなあ」
予想通りの返事に安心しながらも、どこか責任を渡された気がした。
彼女は用意していたらしいTikTokの動画を見せてくる。
梅田の夜景を背に、串に刺さった大きな肉が目の前で切り分けられていた。
「ここ、よくない?」
「めっちゃええやん。ここにしよ」
彼女は嬉しそうに笑って見せた。
胸の奥で引っかかるような感覚をあえて無視をした。
そのあとも彼女は何日も店を探していた。
空いた時間に送られてくるリンクを、私は流し見することが多かった。
値段を見て、ようやく少し焦る。
私もいくつか店を探して送ったが、選んだ基準が違うことには触れなかった。
結局、最初に見せてもらった店に決まった。
「予約しとくね」
それくらいは、ちゃんとやろうと思った。
予約を進めるとプレートの有無の欄があり、少し驚いた。そこには何を書くか記入する欄もあったので彼女に相談した。
“Anniversary”
「これにしよ!」
「わかった、ええんちゃう?」
と言い残し予約を済ませた。
実際そのお店には様々な聞きなれない部位などもあり、どんな所かどこの部位がいちばん美味しかったかなどの会話で盛り上がった。
その後にチョコレートで“Anniversary”の文字が大きく書かれたプレートの上に小さいケーキが4つほど乗っており、線香花火のようなロウソクがプレートを照らしていた。
写真を撮り、ケーキを分け合い、笑い合う。
「これ、文字も食べた方がいいんかな」
「残すのも申し訳ないよな」
少し迷ってから、私たちは文字の端を崩した。
綺麗なまま残すことも、全部食べきることもできなかった。




