愛の確認と、二人だけの楽園
アイコさんが完全に家から姿を消し、世間的な批判も収束したことで、私たちの生活は、ようやく本当の意味での平和を取り戻した。アイコさんの呪いのような手紙を破り捨てて以来、私はもう彼女の存在に心を乱されることはなかった。この家は、私ユリネにとって、地獄の檻から愛の楽園へと変わったのだ。
キョーヘー様は、私のことを「ユリネ」と呼ぶ時の声が、以前にも増して優しくなった。彼は、毎晩のように私に、これまでの無関心や、私を一人で苦しませたことへの謝罪の言葉を繰り返す。彼の誠実さが、私の心の傷をゆっくりと癒していった。
「ユリネ、本当に、君を傷つけてすまなかった。あの二年間、君がどれほど耐えていたのか……僕は、自分の弱さから目を背けていた」
ある夜、キョーヘーは、私を抱きしめながら、そう告白した。彼の体温が、私に確かな安心感を与えてくれる。
「もういいんですよ、キョーヘー様。あなたが私を選び、あの時、アイコさんを断罪してくれた。その強い決意こそが、私にとって何よりの愛の証明ですから」
ユリネは、彼の頬に優しく触れた。私は、彼が母親との縁を切るという、重い決断を下したことに、心から感謝していた。それは、並大抵の覚悟ではないことを知っている。
私たちは、二人でこの邸宅の雰囲気を変えていった。アイコさんの派手で重々しい趣味とは正反対の、温かみのある北欧風の家具を取り入れ、リビングには明るい色合いのクッションを置いた。庭には、私が選んだハーブや小さな花々を植え、ティータイムを過ごすためのテラス席を設けた。
「キョーヘー、この家が、本当に私たちの家になった気がします。アイコさんの影が、どこにも見えない」
「そうだね、ユリネ。ここは、僕たちの王国だ。君が女王だよ」
彼は冗談めかしてそう言ったが、その言葉には、私への深い敬意が込められていることを感じた。
この新しい生活の中で、私たちは、お互いのことをより深く理解し合えるようになった。キョーヘーは、仕事の忙しさにかまけて、私にばかり家事を任せていたことを反省し、休日は積極的に私を手伝ってくれるようになった。小さなことだが、彼の変化は、私の心を大きく満たしていく。
「ユリネ。金庫にあったあの株券なんだが」
ある日、キョーヘーは、あの秘密の財産について再び切り出した。
「あれは、君が自由に使えるように、名義を完全に君に変更しておいた。いつか君が、夢だったカフェを開くための資金にしてもいいんだ」
ユリネは、驚きと感動で、言葉を失った。あの財産が、本当に私ユリネのものになったのだ。それは、キョーヘーが私に、経済的な自由まで与えてくれたことを意味する。
「キョーヘー様……そんな。私、もうこの家を出るつもりはありませんよ」
「わかっている。だが、財産は、君の自信に繋がる。君がやりたいことを、いつでも始められるという安心感は、君の心の平穏に必要だ」
彼は、私の未来を、私の意思で選べるようにと、配慮してくれたのだ。私は、彼を抱きしめ、感謝の気持ちを伝えた。
「ありがとう、キョーヘー。私は、あなたの妻でいられて、本当に幸せです」
彼の愛が、私ユリネを強くしてくれた。もう、私は、あの頃の、怯えていた私ではない。
しかし、この平穏な生活は、長くは続かなかった。アイコさんは、まだ、最後の悪あがきを諦めていなかったのだ。彼女は、直接手を出せないと知ると、今度は、遠い場所から私たちを攻撃しようとしてきた。




