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第7話 :『「醜い」肢体への賛美と、目隠しの救世主』


「さあ、教えて? 向こうの世界では、私のこの体……どう評価されるのかしら?」


サキュバスは、俺の耳元で甘く囁きながら、その豊満な胸(この世界では『贅肉の塊』)を俺の腕に押し付けた。 逃げ場はない。いや、逃げたくない。


「正直に言えってことか?」 「ええ。嘘をついたら……魂を吸い尽くすわよ?」


彼女の瞳が妖しく光る。 俺は覚悟を決めた。どうせ吸われるなら、本音をぶちまけて死のう。


「……最高だ」 俺は震える声で答えた。


「その長い手足は、芸術品のように美しい。くびれた腰から臀部へのラインは、女神の造形だ。そしてその胸は……男たちの夢そのものだ」


「……っ!」


サキュバスの動きが止まった。 彼女は、驚いたように目を見開き、頬を朱に染めた。


「べ、別にあんたのために『醜い姿』をしてるわけじゃないんだからね!」 といったツンデレ反応を期待したが、違った。 彼女は、本当に嬉しそうに、とろけるような笑顔を見せたのだ。


「……あぁ、なんて甘美な響き。この世界に生まれて数百年、誰からも『汚物』扱いされてきた私が……『女神』だなんて」


彼女は俺の首に腕を回し、抱きしめてきた。 柔らかい。いい匂いがする。至福だ。


「気に入ったわ、[主人公名]。あなたのその『美的感覚(狂気)』、もっとちょうだい。もっと私を罵って……いいえ、褒めて?」


「ああ、いくらでも。君の肌は白磁のように滑らかで……」


俺たちが、種族と価値観の壁を越えてイチャイチャ(精神的な交信)し始めた、その時だった。


ドォォォォォン!!


轟音と共に、部屋の扉(ピンク色)が粉砕された。


「――見つけたぞ! [主人公名]!」


土煙の中から現れたのは、リリアだった。 だが、様子がおかしい。 彼女は、目隠しをしていた。分厚い布で、完全に視界を塞いでいる。


「リ、リリア!?」 「安心しろ! 奴の『醜悪な姿』を見ないよう、心のマインド・アイを開眼させた! これで精神汚染は効かぬ!」


リリアは目隠しをしたまま、気配だけで正確にこちらへ向かってくる。


「離れろ、汚らわしい肉塊め! その人間に触れるな!」


ヒュンッ! リリアが放った矢が、サキュバスの頬をかすめた。目隠し状態でこの精度、さすがエルフだ。


「チッ……! 空気の読めない3頭身ね!」 サキュバスは舌打ちをして俺から飛び退いた。


「あら、いいの? 私は今、彼と『深い理解』を深めていたところよ?」 「黙れ! 貴様のような『奇形』に抱きつかれ、彼がどれほどの恐怖と吐き気に耐えていたか……想像するだけで胸が痛む!」


リリアは怒りに震えていた。 「[主人公名]! 今助けるぞ! よくぞ精神崩壊せずに耐え抜いた!」


(いや、耐えてない。むしろパラダイスだった)


「あらそう。邪魔が入って興ざめね」 サキュバスは背中の翼を広げ、天井の吹き抜けへと舞い上がった。


そして、俺にウィンク(特大のファンサービス)を投げかけた。


「[主人公名]、また会いましょう。私の『美しさ』を理解できるのは、世界であなただけよ♡」


「逃がすか!」 リリアが矢を連射するが、サキュバスは「ふふふ」と妖艶な笑い声を残し、夜空へと消えていった。


静寂が戻る。


「……はぁ、はぁ。逃げられたか」 リリアが目隠しを取り、俺に駆け寄ってきた。


「無事か!? [主人公名]!」 彼女は俺の肩を掴み、揺さぶった。その顔は、心配と悲壮感に満ちていた。


「すまなかった……私が不甲斐ないばかりに、あんな『おぞましい怪物』に密着され、辱めを受けるなんて……」 「い、いや、俺は別に……」


「無理をするな!」 リリアは俺の頭を(短い腕で)抱きしめ、胸(もちろん3頭身サイズ)に押し当てた。


「怖かっただろう。気持ち悪かっただろう。あんな『不自然な脂肪の塊』を押し付けられて、トラウマになったはずだ……」


彼女は、俺が恐怖で震えていると勘違いして、優しく頭を撫でてくれた。 実際には、俺はサキュバスの残り香と、去り際のウィンクを思い出して身悶えしていただけなのだが。


「今日はもう休め。ギルドには私から報告しておく」 「報告? なんて?」


「『サキュバスによる精神的レイプ未遂事件』として、被害届を出しておいてやる。慰謝料が出るはずだ」


(……やめてくれ。俺の性癖が社会的に死ぬ)


俺はリリアの優しさ(という名の勘違い)に包まれながら、夜空を見上げた。 額の紋章が、熱く疼いている。 サキュバス――いや、彼女とはまた会う気がする。


絶対にまた会う。 俺は固く心に誓った。これは「耐性訓練」ではない。「密会」の約束だ。


「……ありがとう、リリア。俺、頑張るよ」 「うむ。その意気だ。次はあんな『汚物』、見る前に焼き払ってやるからな!」


俺たちのすれ違いは、より深刻なレベルへと進化していた。

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