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第4話 :「醜悪」な証拠と「美しい」お目付け役

俺とリリア(3頭身エルフ)は、夜が明け始めた森を抜け、街に戻ってきた。


ギルドへ向かう道中、リリアは「なぜ魔族があのような『醜悪(8.5頭身)』な姿をしているのか」について、滔々(とうとう)と解説してくれた。 要約すると、「神々(もちろん3頭身)が『美しく』お造りになった我々への嫉妬」であり、「あの不自然に長い手足は、我々の精神を不快にさせるための呪具」なのだそうだ。


俺は、前世で読んだファッション雑誌のモデルたちを思い浮かべながら、乾いた相槌(あいづち)を打つしかなかった。


「……で、お前。あの魔族の『呪い(8.R.S.=エイト・レイシオ・ショック)』に当てられていないだろうな?」 「え? ああ、大丈夫だ。あんたのおかげで『醜悪』なものを見すぎずに済んだ」


俺がそう言うと、リリアは「フン」と満足げに(短い)鼻を鳴らした。


その間も、俺の懐の奥深くでは、あの「証拠(=絶世の美女の黒髪)」がシルクの手触りを主張し続けている。 バレたら「呪いに当てられた」と判断され、即座に浄化(=処分)されかねない。 俺は、この世界で最も「美しい」エルフの隣で、最も「醜悪」な遺品フェティッシュを隠し持つという、最高のスリルを味わっていた。


(冒険者ギルド)


早朝だというのに、ギルドはすでに活気づいていた。 もちろん、集う冒険者たちは皆、見事なまでに「美しい」3頭身だ。岩のようなドワーフも、しなやかな(?)獣人も、皆、等しくずんぐりしている。


俺とリリアがカウンターに向かうと、周囲がわずかにどよめいた。 「おい、見ろよ……リリア様だ」 「隣の奴、新人か? なかなか『美しい』ツラしてるじゃねえか」


どうやら俺の3頭身は、この世界では「イケメン」の部類に入るらしい。複雑すぎる。


カウンターの受付嬢(もちろん3頭身)が、リリアに気づき、完璧な笑顔を向ける。 「リリア様! お早いお戻りで。……そちらは?」


「討伐の報告だ。こいつが『アスモデウス』を仕留めた」 リリアがそう言うと、受付嬢は(一瞬だけ)目を丸くし、すぐに業務用の笑顔に戻った。


「まぁ! 新人さんなのに、すごい! で、証拠の……『首』は?」


来た。 俺は、懐の「証拠」を握りしめ、覚悟を決めた。


「ああ、それが……」 俺が口を開くより先に、リリアが割って入った。 「あの魔族の『呪い』は強力だった。死体からの『醜悪』な瘴気(しょうき)があまりに酷く、森の汚染を防ぐため、私がその場で焼却した」


受付嬢は「さすがリリア様!」と感心している。


「で、こいつが『証拠』として、魔力の源だった『髪』を切り取った。これでいいだろう」 リリアがそう言うと、俺は恐る恐る、懐からあの「黒髪」の束を取り出した。


その瞬間。


「ッッ!! ひっ!」


受付嬢が、この世の終わりのような顔をして椅子から転げ落ちそうになった。 さっきまでの笑顔は消え、顔面蒼白だ。


「な……! な、なんて『醜悪』な……!」 彼女は震える指で、俺が持つ黒髪を指差した。


「見てください、この『不自然な』艶! この『気持ち悪い』真っ直ぐさ! これぞ魔族の『醜さ』の象徴……!」


(いや、これ、前世ならサロンモデルの最高級ヘアだぞ……)


俺が内心ツッコミを入れていると、受付嬢は涙目で「トング! 誰かトング持ってきて!」と叫んだ。 奥から別の職員が持ってきた鉄製のトングで、彼女は「醜悪」な証拠(美しい黒髪)を、汚物でも掴むかのように挟み上げた。


「た、確かに……『醜悪』な魔力を感じます……。リリア様の証言もありますし、討伐、承認オーソライズします!」


ガチャン、と黒髪は箱に叩き込まれ、厳重に封印された。 (……俺の「証拠」、扱いがひどすぎないか?)


「新人さん! よくぞこんな『醜悪』なものに触れましたね! 感服です! はい、報酬です!」


ドン、とカウンターに置かれたのは、ずっしりと重い金貨の袋だった。 魔族幹部、かなりの高額報酬だ。


「(……まあ、金は金だ。生きるため、生きるため……)」


俺が金貨の重みを噛み締めていると、横からリリアが俺の肩を(短い腕で)強く叩いた。


「おい、人間。名前は?」 「あ、えっと……(前世の適当な名前を言う)」


「フン。お前、腕は立つようだが、精神が『美し』すぎる(=ピュアすぎる)。あの『醜悪』な魔族の『呪い』に対し、耐性がなさすぎだ」


「え? そうか?」 (俺が「美しい」と感じてしまうこと、バレてる!?)


「ああ。私が横にいなければ、危うく『醜さ』に魂を引きずり込まれるところだった」 リリアは、有無を言わせぬ(美しい)3頭身の顔で、俺を見据えた。


「――というわけで、貴様の『魂の美しさ』が、『醜悪』なものへの耐性を得るまで……」 「私が、貴様のお目付け役になってやる」


「……は?」


「パーティ結成だ。異論は認めん。まずは、その『醜悪』なものへの耐性を鍛えるぞ。ついてこい」


リリアはそう言うと、金貨の袋を掴んで呆然とする俺の(短い)腕を掴み、ギルドの酒場(もちろん3頭身だらけ)へと引きずっていった。


(……待ってくれ。「醜悪なものへの耐性を鍛える」? まさか俺は、この世界最強クラスの「美エルフ」の監視下で、これから出会う「醜悪な魔族(=絶世の美女や可愛い少女)」を、躊躇なくいたぶり、殺す訓練をさせられるのか……?)


(躊躇すれば「呪われた」と浄化され、実行すれば俺の心が死ぬ。どっちにしろ地獄じゃないか……!)


俺の異世界ライフ、本当の「詰み」が始まるのが早すぎないか?

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