表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
未来の約束  作者: 蔭翁
9/47

引き続き試験導入の進行や社会的な反発、企業内の葛藤をじっくりと描いていきます。

第6章 試験プログラムの始動(続き)


8


 陽乃市が発表した「企業と連携した柔軟な働き方の試験導入」は、市内の企業だけでなく、市民や全国のメディアからも注目を集めていた。


 市役所の広報部が発表したプレスリリースは、各種ニュースサイトに取り上げられ、SNSでも話題になった。


 しかし、賛否の声は大きく分かれた。


 「育児と仕事を両立しやすくする素晴らしい試み!」

 「こういう制度が全国に広がれば、子育てしやすくなるはず!」


 という肯定的な意見がある一方で、


 「一部の社員だけ優遇されるのは不公平では?」

 「企業にとって負担が大きすぎるのでは?」

 「労働生産性の低下につながらないのか?」


 といった懸念の声も少なくなかった。


 特に、保守的な経済紙や財界関係者の中には、


 「企業の競争力を損なう恐れがある」

 「日本社会の労働観にそぐわない」


 と批判的な論調を強める者もいた。



---


9


「……思った以上に反発が強いわね」


 市役所の会議室で、悠人は葵と市の担当者たちと共に、試験導入後の動向を分析していた。


 机の上には新聞やネットニュースのプリントアウトが散らばっている。


「これは想定内ですよ」


 悠人は冷静に言った。


「新しい制度を導入する時は、必ず反対意見が出るものです。それをどう乗り越えるかが重要なんです」


「確かに……。でも、これだけ反対の声が大きくなると、協力企業の経営陣もプレッシャーを感じるでしょうね」


 葵の言葉に、市の産業振興課の担当者が頷いた。


「実際に、ネクサス・ソリューションズの佐伯社長から相談がありました。社内でも、**『一部の社員だけ特別待遇になるのはおかしい』**という声が上がっているそうです」


「なるほど……」


 悠人は腕を組んだ。


「企業側の負担を減らしつつ、社員全体にメリットがある形にしなければ、社内での理解は進まないですね」


 その時、葵が資料をめくりながら口を開いた。


「例えば、育児中の社員だけでなく、全社員が利用できる柔軟な働き方を導入するというのはどうでしょう?」


「全社員?」


「ええ。例えば、介護をしている社員や、副業や学び直しをしたい社員にも、ある程度の柔軟な働き方を認めることで、『育児中の人だけが優遇される』という不満を減らせると思います」


「……それはいいアイデアですね」


 悠人は考え込んだ。


「育児支援だけではなく、働くすべての人のワークライフバランスを改善するという方向性にすれば、企業側の理解も得やすくなるかもしれません」


 市の担当者も頷いた。


「試験導入の内容を少し見直す形で、市としても提案してみましょう」


 こうして、制度のブラッシュアップが進められることになった。



---


10


 その数日後、悠人と葵は再びネクサス・ソリューションズを訪れた。


 佐伯社長が迎えてくれ、会議室で話を聞いてくれた。


「なるほど……。育児支援だけでなく、全社員を対象にした柔軟な働き方に拡張する、ですか」


「はい。例えば、週に一度は誰でもリモートワークが可能にする、時差出勤の選択肢を増やす、特定の理由がある場合は短時間勤務が可能になるなどの選択肢を増やすことで、不公平感を減らすことができると考えています」


「確かに、それなら社内の不満の声も抑えられるかもしれませんね」


 佐伯社長は腕を組み、しばらく考えた後、微笑んだ。


「いいでしょう。うちの会社は、引き続き試験導入に協力します」


「ありがとうございます!」


 葵が嬉しそうに頭を下げる。


 悠人も静かに頷いた。


「この試みが成功すれば、陽乃市が全国のモデルケースになる可能性もあります。それは、企業にとっても大きなメリットになるはずです」


「そうですね。会社としても、働きやすい環境を整えることで、優秀な人材の確保や定着率の向上につながるのは間違いありません」


 こうして、制度の改良を経て、企業との協力関係はより強固なものとなった。



---


11


 しかし、この改革を快く思わない勢力もいた。


 陽乃市内のある伝統的な製造業の企業が、強く反発を示していたのだ。


 その会社の社長は、ある経済誌のインタビューでこう語っていた。


「日本の労働文化には、日本の良さがある。働き方を変えることは、かえって生産性を落とすだけではないか」


「育児支援は大事だが、企業に負担を強いるやり方には反対だ」


 さらに、陽乃市議会の一部の議員も、


「市の財政負担が増えるのでは?」

「一部の企業だけが得をするのでは?」


 と懸念を示し始めた。


 試験導入は順調に進んでいるように見えたが、社会的な反発や行政の壁は、今後さらに大きな問題となっていく気配があった。


 果たして、悠人と葵はこの制度を成功に導くことができるのか——。



---


【第6章 続く】


今回は、試験導入の進行と、それに対する社会的な反発や企業内の葛藤を描きました。


次回は、反対派の動きがより本格化し、市議会での議論や、悠人と葵のさらなる挑戦をじっくり描いていきます。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ