第6章の続きをじっくりと執筆していきます。次の場面では、ワークショップの具体的な様子や、参加者のリアクション、そこから生まれる新たな課題を丁寧に描いていきます。
第6章 試験プログラムの始動(続き)
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ワークショップが始まると、会場には和やかな空気が広がった。
子どもたちは小さな手でおにぎりを握り、親たちはそれを見守りながら手助けしている。
「こうやって、お米を優しく包むように握るといいよ」
「わあ、ママのおにぎり、大きい!」
「パパ、三角にできないよー!」
そんな微笑ましいやり取りが、あちこちで聞こえてきた。
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一方、悠人は会場の隅で腕を組みながらその様子を観察していた。
「……こういうイベント、意外と効果がありそうですね」
横でメモを取っていた葵が顔を上げる。
「ええ。親子の時間が増えるだけじゃなくて、普段あまり料理をしない親御さんにも食の大切さを感じてもらえる機会になります」
「確かに、今の時代、共働きが多くて食事もコンビニや外食に頼りがちですからね……」
悠人はワークショップに参加している親たちの表情を見ながら、ふと考え込んだ。
皆、忙しい日常の中で、こうして子どもとじっくり向き合う時間を持つ機会が少なかったのではないか。
「それに……こういうのって、親にとっても学びになりますよね」
悠人の言葉に、葵は静かに頷いた。
「ええ。子育てって、親も一緒に成長することなんです」
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その時、ワークショップの一角で、小さなトラブルが起こった。
「もうやだ!できない!」
突然、大きな声を上げたのは、5歳の男の子だった。
彼は小さなおにぎりを手に持ったまま、半べそをかいていた。
「どうしたの?」
葵が優しく声をかけると、その子の母親が困ったように説明する。
「うちの子、手が汚れるのが嫌みたいで……最初は楽しそうにしてたんですけど、だんだん不機嫌になっちゃって」
「そうだったんですね」
葵はしゃがみ込んで、男の子と目線を合わせた。
「おにぎりの感触、ちょっと気持ち悪かった?」
男の子は黙って頷く。
「そっか。でもね、お米ってとても大切な食べ物なの。触るのが苦手なら、ラップを使ってみる?」
そう言って、葵は小さくカットしたラップを取り出し、お米を包んでみせた。
「こうすると手が汚れないし、形も作りやすいよ」
男の子は恐る恐るラップ越しにお米を握り始めた。
最初はおそるおそるだったが、少しずつ形になっていくのを見て、次第に顔が明るくなっていった。
「できた!」
小さな三角形のおにぎりを見つめて、彼は満足そうに笑った。
「やったね!」
母親もほっとしたように笑い、彼の頭を優しく撫でた。
その様子を見ていた悠人は、葵の対応に感心していた。
「すごいですね……ただのワークショップじゃなくて、こういう細かい気配りが大事なんだな」
葵は微笑んで答えた。
「子育てには正解はないんです。一人ひとり、違う方法がある。でも、親が子どもの気持ちを理解して、一緒に考えることが大事なんです」
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4
ワークショップが終わると、参加者たちがアンケートを記入していた。
「すごく楽しかった!」
「子どもと一緒に料理するのって、こんなにいい時間になるんですね」
「普段、忙しくてつい簡単な食事になりがちだけど、これを機に少し意識を変えてみようと思いました」
ポジティブな意見が多く寄せられた一方で、こんな声もあった。
「共働きだと、やっぱり時間を作るのが難しい」
「こういうワークショップがもっと定期的にあればいいのに」
「食育だけじゃなく、普段の家事や育児の負担も軽減できる仕組みがあれば……」
悠人はアンケートの内容を確認しながら、考え込んだ。
「やっぱり、仕事と育児の両立っていう根本的な問題が大きいですね」
葵も同じくアンケートを見つめながら、静かに頷いた。
「ええ。親が子どもと向き合う時間を増やすには、育児支援だけじゃなく、働き方そのものを見直す必要があるんです」
「となると、次のステップは……企業との連携による柔軟な働き方の試験導入か」
「そうですね。市役所や企業に掛け合って、具体的な枠組みを作りましょう」
二人は、新たな試験プログラムの準備に向けて、次の一歩を踏み出した。
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【第6章 続く】
今回は、ワークショップの様子とその効果、そして新たな課題が見えてくる展開を描きました。
次回は、企業と連携した柔軟な働き方の試験導入に焦点を当て、悠人と葵が市役所や企業に働きかけるシーンをじっくりと描いていきます。