85 国への提言——全国規模の働き方改革へ
85 国への提言——全国規模の働き方改革へ
陽乃市での「新しい働き方」プロジェクトが、徐々に成果を上げ始めていた。柔軟な勤務制度の導入、評価基準の見直し、専門職コースの強化——これらの取り組みは、市内企業の間で一定の理解を得ることができた。
しかし、悠人は次の課題を見据えていた。
(この動きを、一部の企業の成功事例で終わらせるわけにはいかない)
(全国に広げるためには、国レベルの支援が必要だ)
市単位の取り組みには限界がある。悠人は、国の政策に働きかけることを決意した。
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◆ 政府との対話の場へ
陽乃市の取り組みが話題になるにつれ、国会でも少子化対策の一環として「働き方改革」が議論されるようになっていた。
そんな中、悠人に政府関係者との意見交換会への招待が届いた。
「地方自治体の取り組みを、ぜひ国の政策に反映させたい」
そう話したのは、厚生労働省の働き方改革推進担当の課長・吉村敦だった。
「陽乃市の事例は、全国的にも注目されています。企業との連携による柔軟な働き方の導入は、他の自治体の参考になるでしょう」
「ただ、地方単位では財政面や制度面での限界もあります。国として、どのような支援ができるのかを議論したいのです」
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◆ 政策提言——3つの支援策
悠人は、これまでの経験をもとに、国に対する3つの提言をまとめた。
✅ ① 柔軟な働き方を支援する企業への補助金制度
✅ ② 全国規模での「成果ベース評価」の導入支援
✅ ③ 育児・介護と両立できる専門職コースの推進
「多くの企業が、柔軟な働き方を取り入れたくても、コストや評価基準の問題で踏み出せていません。国として、導入支援を強化するべきです」
「また、従来の『長時間労働=評価される』という文化を変えるために、成果ベース評価のガイドラインを全国規模で整備する必要があります」
「さらに、育児や介護をしながらでも昇進できる専門職コースを拡充し、企業が安心して導入できるようにするべきです」
悠人の提案は、吉村課長をはじめ、政府関係者の関心を引いた。
「なるほど……。確かに、これらの課題は全国的なものですね」
「ただ、企業側の理解をどう得るかが大きな壁になります。政府からの補助や税制優遇だけでなく、企業の意識改革も必要でしょう」
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◆ 経済界との対話——企業のトップはどう考えるか?
政府との議論を進める一方で、悠人はもう一つの重要な動きを始めていた。
(企業側が納得しなければ、制度が整っても実際には動かない)
そこで、悠人は経済界のキーマンとの対話を試みることにした。
招かれたのは、大手自動車メーカー「神崎モーターズ」の代表取締役・神崎智之。
「柔軟な働き方を進めることは、企業にとってもリスクがあります」
「成果ベースの評価は理想的ですが、実際には勤務時間や管理職経験が評価の基準になっている企業が多い。この意識を変えるのは簡単ではないですよ」
神崎は、慎重な姿勢を崩さなかった。しかし、悠人はこう続けた。
「企業が今後生き残るためには、優秀な人材を確保し続けることが必要です」
「特に、育児や介護と両立できる働き方を求める優秀な人材は増えています。それを受け入れられない企業は、長期的に競争力を失うことになります」
「確かに……。人材確保は今後の大きな課題ですね」
「しかし、成果ベースの評価を取り入れるには、管理職の意識改革も必要になります」
企業トップとしての立場から、神崎はリアルな課題を提示した。
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◆ 働き方改革、次のステージへ
国と企業の両方を動かすには、まだ多くの課題があった。
しかし、陽乃市での成功事例が、少しずつ波紋を広げ始めている。
(ここからが本当の勝負だ)
悠人は、国・企業・自治体が連携して全国的な働き方改革を進めるための枠組み作りに挑む決意を固めた。
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次回:「新たなステージへ——全国規模の働き方改革の実現」




