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未来の約束  作者: 蔭翁
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**第5章「新しい支援のカタチ」**では、悠人と葵がより良い育児支援の仕組みを模索し、実際に動き出す展開をじっくりと描いていきます。

第5章 新しい支援のカタチ


1


 翌朝、悠人はまだ薄暗い時間に目を覚ました。


 陽乃市に来てからというもの、朝の静けさが心地よく感じるようになっていた。東京での生活では、こんな時間に起きても、すぐにスマートフォンを手に取って仕事のメールをチェックするのが習慣だった。だが、ここでは違う。


 窓を開けると、涼しい風が部屋に流れ込み、遠くから子どもたちの笑い声が聞こえてきた。


 「……さて、今日から本格的に動き出すか」


 悠人は、シャワーを浴びた後、身支度を整え、コーヒーを一杯だけ飲んで外に出た。



---


 葵と約束したのは、市役所内にある「子育て支援センター」だった。


 陽乃市には、AIによる育児支援システム「ママリー」が導入されているが、それだけでなく、地域住民が主体となって子育てを支える仕組みも整っている。


 その中心的な役割を担うのが、この支援センターだ。


 「おはようございます、深澤さん!」


 エントランスに入ると、すでに葵が待っていた。彼女は白いブラウスにカジュアルなパンツという動きやすい服装で、今日の仕事に備えているようだった。


 「おはようございます。今日はどんなことをするんですか?」


 「まずは、この支援センターの仕組みを知ってもらうところからですね。現場を見てもらうのが一番だと思います」


 葵は悠人をセンターの奥へと案内した。



---


2


 支援センターの中は、想像以上に活気があった。


 プレイルームでは、保育士とボランティアスタッフが子どもたちを見守りながら遊ばせている。その周囲には、仕事や家事の合間に立ち寄った親たちが談笑しながら様子を見守っていた。


 「このプレイルームは、登録している親なら誰でも無料で利用できるんです。仕事の合間に子どもを預けたり、ちょっとしたリフレッシュのために使ったり。もちろん、AIの監視システムも導入されているので、安全面も万全です」


 葵の説明を聞きながら、悠人は改めてこの街の仕組みに驚いた。


 「たしかに便利ですね。親も子どもも安心できる環境になっている……」


 「でも、それだけじゃダメなんです」


 葵は真剣な表情になった。


 「この街の育児支援は、あまりにも整いすぎていて、親が育児の主体であるという感覚が薄れてきているんです」


 悠人は、昨日の玲奈の言葉を思い出した。


 「ママリーが全部やってくれるから、私がいなくても問題ないんです」


 「たしかに、育児をサポートする仕組みがあるのは素晴らしい。でも、それが行き過ぎると、親子の関係が希薄になってしまう」


 悠人は、プレイルームで遊ぶ子どもたちを見つめながら呟いた。


 「だから、新しい支援のカタチを作るって言ってたんですね」


 「はい。この支援センターをただの『預かり施設』ではなく、親が主体的に関わる育児の場にしたいんです」


 葵の瞳は力強かった。


 「具体的には?」


 「例えば、親と子どもが一緒に参加するワークショップや、地域全体で子育てを支えるイベントを増やしたり……。それに、子どもたちが親ともっと深く関わる機会を作るプログラムも考えています」


 悠人は、ふむ、と顎に手を当てた。


 「でも、それを実現するには、市の予算や住民の協力も必要になりますよね」


 「ええ。だから、まずは実証実験をしてみたいんです」


 葵は、小さな企画書を取り出した。


 「試験的に、親子が一緒に参加できる新しいプログラムをいくつか始めてみようと思います。その結果を市に報告して、制度として組み込めるようにしていきたいんです」


 悠人は、企画書にざっと目を通した。


 そこには、親子共同での食育イベント、世代間交流を目的とした地域支援プログラム、そして親のための育児学習会といった内容が並んでいた。


 「なるほど……でも、このプロジェクト、あなた一人で進めるには負担が大きすぎませんか?」


 「だから、深澤さんに手伝ってほしいんです」


 葵はまっすぐに悠人を見つめた。


 「ビジネスの視点で考えれば、この仕組みをもっと洗練させることができるはず。あなたの知識と経験を活かして、一緒に新しい育児支援の形を作れませんか?」


 悠人は少し考えた。


 自分は、育児については素人だ。だが、この街の未来を支える仕組みを作ることには、確かに興味があった。


 「……分かりました」


 悠人は静かに頷いた。


 「ただし、俺はあくまで現実的な視点で関わりますよ。理想論だけじゃなく、本当に実現可能な仕組みを作らないと意味がない」


 「もちろんです」


 葵は、嬉しそうに微笑んだ。


 こうして、悠人は本格的に陽乃市の育児支援プロジェクトに関わることになった。



---


【第5章 完】


この章では、悠人と葵が育児支援の新しい形を模索し、具体的な行動を始める展開を描きました。


次の**第6章「試験プログラムの始動」**では、彼らの提案した育児支援プログラムが実際に動き出し、さまざまな課題や壁に直面する展開をじっくりと描いていきます。


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