72 見えない壁
72 見えない壁
シンポジウムが終わった翌日。陽乃市役所の会議室には、プロジェクトチームの主要メンバーが集まっていた。
「昨夜の反応は上々でしたね」
葵がホワイトボードの前に立ち、微笑んだ。
「市民からのアンケート結果では、約70%の人がプロジェクトに『期待する』と回答しています」
「上出来じゃないか」
真鍋市長が満足げに頷いた。しかし、その隣で悠人は少し浮かない顔をしていた。
「……だが、30%は依然として懐疑的だ。特に、高齢層の支持が低いのが気になる」
「まぁな。『昔ながらの家族観を崩すな』って意見も根強い」
真鍋は腕を組み、苦笑した。
「それに、政府からの圧力も強まっている」
その言葉に、会議室の空気が少し緊張した。
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政府は、陽乃市の取り組みを全面的に支援しているわけではない。
確かに「未来創生特区」という名目で一部の特例措置を認めているが、国全体の政策に影響を及ぼすような急進的な改革には慎重だった。
特に、「家族の在り方を根本から見直す」というコンセプトは、政治的に敏感な問題であり、一部の議員から強い反発を受けていた。
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「政府から、何か具体的な圧力が?」
悠人が尋ねると、真鍋はため息をついた。
「内閣府の担当者から、プロジェクトの進行を“見直すべきだ”って話があった」
「見直す?」
「あぁ、特に企業との連携の部分を問題視しているらしい」
悠人の眉がピクリと動いた。
「企業との連携は、このプロジェクトの肝ですよ。それを崩されたら——」
「分かってる。でも、政府側は『民間企業の支援に公的資金を投入すること』に慎重なんだ」
真鍋の言葉に、葵も顔をしかめた。
「育児支援を企業と連携して進めることが問題視されるなんて……。少子化対策のためには、官民一体で取り組むしかないのに」
「まったくだ」
悠人は、こめかみを押さえながら考え込んだ。
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● 現状の問題点
✅ 市民の理解は進んできたが、依然として高齢層の反発が強い
✅ 政府からの圧力により、企業連携の進行が危ぶまれている
✅ プロジェクトの持続可能性を示すためには、早期の成功事例が必要
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「このままだと、プロジェクトが形だけのものになってしまう……」
悠人の言葉に、会議室は沈黙に包まれた。
すると、葵がふと顔を上げた。
「……悠人さん、今、一番の課題は**“企業側のメリットをどう見せるか”**じゃないですか?」
「それは……そうだな」
「だったら、それを明確に示せばいいんです」
葵の瞳が、まっすぐ悠人を見つめていた。
「企業がこの育児支援プロジェクトに参加することで、具体的にどんな利益があるのか。もっと分かりやすく、政府にも、市民にも示せる形を作りましょう」
「例えば?」
「例えば——」
葵はホワイトボードにペンを走らせた。
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● 企業向けの新たな提案
✅ 育児支援を導入した企業の生産性向上データを提示(事例収集)
✅ 企業にとっての具体的な税制優遇策を提案(政府との交渉)
✅ 育児支援を導入した企業のブランド価値向上をPR
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「なるほど……企業側にとっての**“利益”を、より具体的に見せる**わけか」
悠人は、葵の案を見つめながら呟いた。
「確かに、政府も単なる理想論では納得しない。実際の経済効果を示せば、反論しづらくなる」
「それに、もしこの施策が成功すれば、陽乃市のモデルを全国に広げるきっかけにもなると思うんです」
葵の言葉に、真鍋もゆっくりと頷いた。
「よし。企業側の協力を取り付けるために、すぐに動こう」
会議室の空気が、一気に引き締まる。
彼らの戦いは、まだ終わっていない。
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次回:企業を説得せよ——新たな交渉の幕開け




