65 世論を動かせ
65 世論を動かせ
陽乃市の成功を広く発信し、世論を味方につける——。
その方針が決まった翌日、悠人たちはすぐに動き出した。
市役所の会議室には、真鍋市長をはじめ、陽乃市の広報担当、地域メディアの記者たちが集まっていた。
「まずは、陽乃市の成果を具体的なデータとしてまとめ、分かりやすく伝えることが重要です」
悠人はホワイトボードに「情報発信の要点」と書き込みながら続けた。
「政府の試験導入が始まって以来、出生率の上昇、育児負担の軽減、働き方改革の進展といった数値が出ています。このデータを活用し、市民の声とともに伝えるべきです」
「確かに、数字は説得力がありますね」
広報担当の一人が頷く。
「でも、ただ数値を並べるだけでは、一般の人々には伝わりにくい。だから、具体的なストーリーを交えて発信することが大切です」
悠人の言葉に、葵も力強く賛同した。
「実際に陽乃市で生活している家族の声を取り上げましょう。例えば、育児AI『ママリー』のおかげで仕事と育児を両立できたシングルマザー、子どもたちの成長を地域全体で支えたケースなど……」
「それなら、陽乃市の住民の協力を得て、実際の体験談を記事や動画にして発信するのが良いかもしれませんね」
記者の一人が提案する。
「動画配信は有効だな。SNSでも拡散しやすい」
真鍋市長が腕を組みながら言った。
「ならば、市公式の特設サイトを立ち上げ、そこに成功事例をまとめて掲載するのはどうでしょう?」
「良いですね。さらに、有名なジャーナリストやインフルエンサーに協力してもらい、広めてもらうのも手です」
「それなら、私に心当たりがあります」
広報担当が手を挙げた。
「以前、陽乃市の取り組みに興味を持って取材してくれたジャーナリストがいました。彼なら協力してくれるかもしれません」
「素晴らしい。すぐに連絡を取ってみてください」
悠人が頷くと、会議室の空気が引き締まる。
「次に、メディアを巻き込む方法を考えましょう」
「全国紙やテレビ局にアプローチできるコネクションは?」
「今のところ、確実に取材に来てくれるのは地方メディアのみですね……」
「……ならば、こちらから全国メディアが取り上げたくなるような動きを仕掛けるしかない」
「動きを仕掛ける?」
葵が不思議そうに首をかしげる。
「例えば、公開シンポジウムを開くのはどうでしょう? 陽乃市の成果を広く伝える場を作り、そこに有識者や子育て支援の専門家を招く」
「なるほど。そうすれば、記者たちも集まりやすいですね」
「さらに、そこで市民から直接、陽乃市の育児支援の良さを語ってもらう」
「……メディアを呼び込むだけでなく、国民に直接訴えかける場にもなるということですね」
葵が納得したように頷いた。
「よし、それでいこう。シンポジウムの開催に向けて、すぐに準備を進めよう!」
真鍋市長が力強く宣言すると、会議室の空気が一気に熱を帯びた。
——陽乃市の未来を守るための戦いが、ここから本格的に始まる。
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次回:陽乃市の取り組みを世間に伝えるためのシンポジウムが始動。果たして、全国メディアの注目を集めることができるのか?




