55 企業の理解を得るために
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55 企業の理解を得るために
木村産業での視察を終えた悠人は、市役所へ向かった。
市の政策担当者である**佐藤圭介**と、企業支援の具体策について話し合うためだ。
「企業の理解を得るには、成功事例を示すことが大事だと感じました」
悠人は佐藤にそう切り出した。
「なるほど」
佐藤は頷き、資料をめくる。
「実際、陽乃市ではいくつかの企業が柔軟な働き方を導入していますが、成功例といえるものはまだ少ないのが現状です。企業が導入をためらう理由の一つは、**“効果が見えないこと”**でしょうね」
「そうですね……」
悠人は少し考えてから言った。
「実際に育児支援を取り入れた企業が、どのような成果を上げたのかをデータで示せれば、他の企業も前向きになるはずです。たとえば、社員の定着率の向上、育休取得率の変化、生産性の維持など……」
「確かに、それは説得力がありますね」
佐藤はメモを取りながら頷いた。
「では、すでに柔軟な働き方を導入している企業を対象に、アンケートやヒアリングを行い、効果をデータ化しましょう。そして、そのデータを基に、経営者向けの説明会を開くのはどうでしょう?」
「いいですね。それなら企業も実際の数値を見て判断できる」
悠人は手応えを感じた。
しかし、それだけでは十分ではない。企業が納得するには、もう一つ、重要な要素が必要だった。
「ただし、データだけではなく、経営者自身が“やってよかった”と思える体験を作ることも大切です」
「……体験?」
「たとえば、経営者向けに短期間の“育児体験プログラム”を実施するとか。実際に子育て中の社員の生活を知ることで、どれだけ支援が重要かを体感してもらうんです」
「面白いアイデアですね」
佐藤は目を輝かせた。
「企業のトップが、育児支援の意義を実感できれば、導入へのハードルも下がるでしょう」
「そう思います」
悠人は力強く頷いた。
企業の理解を得ること——それは、政策の成功に欠かせない鍵となる。
「では、この方針で進めましょう」
「はい」
悠人と佐藤は固く握手を交わした。
次のステップは、データ収集と企業への働きかけだ。
少子化対策の新たな挑戦が、今、動き出そうとしていた——。
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