53 企業と行政の架け橋
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53 企業と行政の架け橋
陽乃市の市庁舎、政策会議室。
この日、悠人と葵は市長の真鍋啓介を交え、企業と行政の連携について具体的な議論を行うことになっていた。
「さて、企業との連携ですが、やはり最大の課題は“柔軟な働き方”の実現ですね」
開口一番、真鍋はそう切り出した。
陽乃市では、子育て世帯が働きやすい環境を整えるために、市と地元企業が協力して新しい労働モデルを試験的に導入していた。だが、すべての企業が積極的に協力しているわけではない。
「企業側の不安も理解できます」
悠人がメモを取りながら言う。
「たとえば、リモートワークや時短勤務を積極的に取り入れることで、生産性が落ちるのではないか、業務の管理が難しくなるのではないか……と」
「そうですね」
葵が頷いた。
「でも、実際には陽乃市でリモートワークを導入した企業の多くが、むしろ従業員の満足度が上がり、業績も安定しているんですよね?」
「ええ、データを見る限りではそうです」
悠人は資料を開く。
「試験導入をした企業の75%が、従業員の定着率が向上したと回答しています。また、育児と仕事を両立しやすい環境を整えることで、採用競争力が高まった企業もあります」
「つまり、企業にとってもメリットはある、ということですね」
真鍋が腕を組んだ。
「そうなんです。ただ……」
葵が少し表情を曇らせる。
「問題は、企業が“すぐに変われる”わけではないことなんです」
「……?」
悠人は葵の言葉を聞き返した。
「どういうことだ?」
「リモートワークやフレックスタイムを導入するにしても、企業側には相応の準備期間が必要です。特に、中小企業はリソースが限られているため、新しいシステムの導入が負担になることもあります」
「ああ……確かに」
悠人は納得した。
大企業であれば、新たな労働モデルの導入にも柔軟に対応できるかもしれない。しかし、従業員数が少なく、一人一人の役割が大きい中小企業にとっては、簡単な話ではない。
「ならば、行政として企業をサポートする制度が必要かもしれませんね」
真鍋が言う。
「例えば、リモートワーク導入のための助成金や、企業向けの相談窓口の設置など」
「なるほど、それなら企業側の負担も軽減されるかもしれません」
悠人はメモを取りながら、考えを整理した。
1. 企業側の不安を軽減するためのデータ提供(成功事例の共有)
2. 行政のサポート制度の充実(助成金やコンサルティングの強化)
3. 企業同士のネットワーク強化(先行導入企業と連携し、情報交換を促進)
「これなら、企業がより積極的に協力できるかもしれませんね」
葵が笑顔を見せる。
「やるべきことは多いですが、方向性は間違っていないと思います」
「ああ……」
悠人は深く頷いた。
企業と行政の連携がうまくいけば、陽乃市の成功モデルを全国へと広げる道筋が見えてくるかもしれない。
「まずは、試験導入企業からさらに詳細な意見を聞いてみよう」
「はい、私も企業側の担当者にアポイントを取ってみます」
悠人と葵は、新たな課題に向けて動き出した。
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