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未来の約束  作者: 蔭翁


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企業側の決断、田村議員の妨害の動き、悠人と葵の対話をじっくり描いていきます。

第6章 試験プログラムの始動(続き)


27 企業の決断


 陽乃市の会議室では、企業代表者たちが再び集まっていた。


 先日の会合を受け、彼らはそれぞれの立場で社内の意見をまとめ、今日の場に持ち寄っている。


 悠人は、少し緊張しながら桜井社長の発言を待っていた。


「……結論から言います。我が社は、市の提案する柔軟な働き方の試験導入に協力します」


 静まり返る会議室。


「ただし、いくつかの条件があります」


 桜井社長は資料をめくりながら続けた。


「企業の負担軽減策として提示された税制優遇措置や補助金の具体的な枠組みを、正式に文書化していただきたい。これが不透明なままでは、他の企業にも説明がつかない」


 悠人は頷く。


「承知しました。市としても、これは必須の課題と考えています。すでに財務課と協議しながら、具体案を作成中です」


「もう一点。市の方針が今後、政権や市長の交代で変わる可能性は?」


 悠人は一瞬、言葉を詰まらせた。


「……確かに、その可能性はゼロではありません。しかし、だからこそこの試験導入の成果を明確なデータとして示すことが重要です。数字として成功が証明されれば、政策の変更は難しくなるでしょう」


 桜井社長は腕を組んで考え込む。


「確かに……。では、現時点では一定のリスクを許容しつつ、まずは段階的に進めるということで良いでしょう」


 その言葉に、他の企業の代表者たちも次々に賛同を示す。


「うちの会社も同様の方向で進めます」

「条件付きなら、試験導入には協力できる」


 こうして、ついに企業側の同意がまとまった。


 悠人はほっと胸をなでおろした。


 だが、それは同時に——


 本格的な戦いが始まることを意味していた。



---


28 田村議員の動き


 同じ頃、田村議員は支持者たちと密かに集まっていた。


「彼らが企業の同意を取り付けたようです」


 秘書の報告に、田村は静かに微笑んだ。


「まあ、予想通りですね。ですが、まだ終わりではない。市民感情という最大の武器が、こちらにはあります」


「市民感情……ですか?」


 田村は頷いた。


「企業の負担が増えるということは、いずれ税金の負担が増す可能性もある。これは、一般市民にとって極めてセンシティブな問題です」


 彼は資料を取り出し、机の上に広げた。


「この新しい制度が本当に必要なのか、疑問を持つ市民も少なくない。そこを突けば、市側は簡単には進められなくなるでしょう」


 集まった支持者たちは、静かに聞き入っていた。


「次のステップとして、市民向けの説明会を開催させ、その場で疑問をぶつけさせる。さらに、SNSやメディアを活用して『無駄な税金を使うな』という声を拡大させるのです」


 田村は薄く笑った。


「改革というものは、必ずどこかで反発が起こる。そこを利用すれば、こちらが主導権を握ることもできるのです」


 この動きが、後に陽乃市を大きく揺るがすことになる——。



---


29 悠人と葵の対話


 その夜。


 悠人は葵とカフェで向かい合っていた。


「こうしてちゃんと話すの、久しぶりですね」


 葵が笑う。


 悠人は少しコーヒーをすすってから、静かに口を開いた。


「試験導入が決まり、企業側の同意も得られた。だけど……ここからが本当の勝負だ」


 葵も真剣な表情に変わる。


「田村議員が何か仕掛けてくるんですね?」


「間違いない。おそらく、市民感情を利用してくるだろう。特に、税金の使い方について疑問を投げかけてくるはずだ」


 葵はしばらく考え込んだ後、口を開いた。


「……悠人さんは、どう思います?」


「え?」


「この街の未来のこと。制度が成功するかどうかじゃなくて、悠人さん自身が、どうしたいのかを聞きたいんです」


 悠人は、一瞬言葉に詰まった。


 今まで、彼は仕事としてこのプロジェクトを進めてきた。


 しかし——


 「どうしたいのか?」


 それは、これまで考えたことのない問いだった。


「……正直、最初はただの仕事だと思ってた。でも、陽乃市で暮らして、葵さんや子どもたちと関わるうちに、少しずつ考えが変わったんだ」


 葵は静かに耳を傾けている。


「最初は、育児なんて大変なだけだと思ってた。でも実際に関わってみると……子どもが成長していく姿を見るのは、想像以上に嬉しいことなんだなって」


 悠人は、窓の外の夜景を見つめながら続けた。


「だから……この街を、本当に子育てしやすい場所にしたいと思うようになったんだ」


 葵は、その言葉に驚いたように目を見開いた。


「悠人さん……」


「でも、そのためには、乗り越えなきゃいけない壁が多すぎる。俺一人の力じゃ、どうにもならない」


 悠人は、少し自嘲するように笑った。


 しかし——


 「私も、力になります」


 葵の言葉に、悠人は驚いて顔を上げた。


「……え?」


「私だって、未来のためにできることをやりたい。この街が本当に変わるなら、そのために一緒に頑張りたいです」


 悠人は、葵の真っ直ぐな瞳を見つめる。


 そして、静かに頷いた。


「……ありがとう」


 二人は、その夜、未来のことをじっくりと語り合った。


 そして、この対話が、彼らの関係を大きく変えていくことになる——。



---


【第6章 続く】


次回は、

✅ 市民向けの説明会での対立

✅ 田村議員の本格的な妨害工作

✅ 悠人と葵が市民の理解を得るために動き出す


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