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未来の約束  作者: 蔭翁
12/18

「税金の使い道に関する特別審議」の決着と、それを受けた市民の反応をじっくり描いていきます。 議会での議論を経て、試験導入がどのような形で進められるのか、また市民や企業の間にどんな波紋が広がるのか――

第6章 試験プログラムの始動(続き)


20 決断のとき


 議場に張り詰めた空気が漂う。悠人の言葉の余韻が残る中、真鍋市長が静かに立ち上がった。


「……今、深澤さんが述べたように、本プログラムは単なる子育て支援策ではありません。社会全体の未来を見据えた挑戦です」


 市長の言葉が響く。


「私たちの目的は、すべての人が公平に恩恵を受けられる仕組みを作ることです。そのために、企業ごとに柔軟な働き方を模索し、子育て世帯に限らず、すべての市民が暮らしやすい街づくりを進めるべきだと考えています」


 真鍋市長の視線が田村議員や桜井社長に向けられる。


「この試験導入が、市民にとって本当に必要なものかどうか。慎重に議論を重ねた結果、私は——」


 一瞬、空気が凍りついた。傍聴席の市民たちも息を呑む。


 次の言葉を待つ緊張感の中、真鍋市長ははっきりと宣言した。


「このプログラムを進めるべきだと考えます。」


 議場がどよめいた。


「もちろん、課題はまだ山積しています。しかし、それを理由に後退するのではなく、改善を重ねながら前進することこそが、私たちに求められていることではないでしょうか?」


 議員席では、田村議員が腕を組んで黙り込み、桜井社長は複雑な表情を浮かべた。


「よって、本プログラムは一部条件を調整しつつ、試験導入を継続する方向で進めたいと思います。議員の皆様には、この方針についてご賛同をいただきたい」


 議長が頷くと、採決が行われることになった。



---


21 賛否を超えて


「賛成の方は挙手をお願いします」


 議長の声が響くと、次々と手が挙がる。


「……賛成多数。よって、本プログラムの試験導入は継続と決定します」


 槌の音が議場に響く。


 一瞬の沈黙の後、傍聴席の市民たちから拍手が起こった。


「よかった……!」


 葵は安堵の表情を浮かべ、そっと胸に手を当てた。悠人も、小さく息を吐く。


 しかし、田村議員は険しい表情で席を立ち、桜井社長も何かを考え込んでいる様子だった。議会を通過したとはいえ、今後の運営にはまだ多くの壁がある。


 悠人はその光景を見つめながら、自分の胸にわき上がる感情を静かに噛みしめた。


 「これは、ゴールではなく、始まりだ」



---


22 市民の反応


 議会の決定が発表されると、市内では様々な意見が飛び交った。


 「よかった! これで安心して仕事を続けられる」

 「まだ問題は山積みだけど、前進したのは確かだ」

 「企業側の負担はどうなるんだ?」


 肯定的な意見もあれば、不安を口にする人もいる。


 一方、企業経営者たちの間では、試験導入の継続に対する戸惑いが広がっていた。


 その夜、悠人は市役所の会議室にいた。議会を終えたばかりの真鍋市長、葵、市の担当者たちと共に、今後の対応について話し合っていた。


「企業側の不安を解消しない限り、反発が大きくなる可能性があります」


 悠人は資料をめくりながら言った。


「今のままでは、一部の企業にはメリットが見えにくい。彼らにとっての具体的な利点を示す必要があります」


 葵がうなずく。


「例えば、柔軟な働き方を導入した企業に対する税制優遇や、補助金制度の導入など……そういった施策を検討するのも一つの方法かもしれません」


 真鍋市長は考え込みながら言った。


「企業側の負担を減らしつつ、メリットを実感してもらう……確かに、必要な視点ですね」


 悠人は続けた。


「もう一つ、大事なのは企業と行政が対立構造にならないことです。市と企業が連携し、共に新しい仕組みを作ることが重要です」


 真鍋市長は大きく頷いた。


「……よし、市内の主要企業と直接対話の場を設けよう」


 悠人と葵は顔を見合わせ、うなずいた。


「企業側の声を直接聞き、互いに納得できる形を模索する……それが、次のステップですね」


 こうして、試験導入の次なる展開に向け、新たな動きが始まった。



---


23 それぞれの思惑


 翌日、市内の経済団体との会議が開かれた。


 そこには、昨日議会で発言した桜井社長の姿もあった。


「……なるほど。補助金制度の導入か。それなら、うちのような企業にもメリットはあるかもしれないな」


 彼は腕を組みながら言った。


 しかし、他の経営者たちは慎重な姿勢を崩さない。


「結局、どれくらいの負担が生じるのか、まだ見えないんですよ」


「市からの支援が十分に受けられなければ、柔軟な働き方なんて現実的じゃない」


 悠人は、彼らの意見を一つ一つ聞きながら、議論を重ねた。


 一方、田村議員も独自に動き出していた。


「これで終わりだとは思わないことだ」


 議会での決定を不満に思っている保守派の議員たちと接触し、次なる対抗策を模索していたのだった——。



---


【第6章 続く】


次回は、企業との交渉が本格化し、試験導入を軌道に乗せるための新たな課題が浮上していきます。


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