第7話 「あっ、気づかれた・・・」
風雷神門を抜け本堂までの表参道である仲見世を歩く4人。
人類が栄えていた頃は多くの人で賑わい、両端にある朱塗りの店舗で買物をする姿が見られていたが、今やその面影はなく、朽ちかけた建物が寂しく並んでいるだけであった。
「クロカタゾウムシってヤツと、そいつの部下もいるって話だったけど、全く気配を感じないわね」
アサルトライフルを構え、周囲を警戒しながら進むビオラがそう口にする。
「多分、奥の方にいるんじゃないかな?あの大きな建物の中にいるとか・・・」
ヒガンバナが宝蔵門を指差しながら答える。それに対し、今度は桜が口を開いた。
「あれも一応、門の役割を担っている建物で、宝蔵門と呼ばれていたんですよ。あの門のさらに奥に本堂があるので、そこにいるのかもしれません」
「へー、そうなんだ!桜ちゃんは物知りだね!」
これまでの会話を聞いていたひまわりが割って入ってくる。少し緊張しているのか、いつもより大げさなリアクションをとる。それに気づいたビオラが、冷やかすようにひまわりに話しかける。
「あれ〜?もしかしてひまわり緊張してるの?大丈夫よ、このビオラお姉さんが守ってあげるから!」
「あははー。じゃあ危なくなったら助けてもらおうかな!」
苦笑いをしながら答えるひまわり。その様子に違和感を覚えたヒガンバナがひまわりに問いかける。
「どうしたのひまわりちゃん?さっきから様子が変だけど・・・?」
「うーんちょっとね・・・・・・さっきから嫌な気配をあの建物の奥から感じてて・・・」
不安そうに宝蔵門を見つめながら答えるひまわりに対してビオラが口を開く。
「気のせいじゃない?私は何も感じないけど」
「だといいんだけどね〜」
どうしても不安を拭いきれないのか、その表情はどこか自信なさげだった。
そうして宝蔵門の前までたどり着き、門を抜け少し歩いた先で全員の足が止まる。
本堂にある[志ん橋]と書かれた大提灯の下にいる人物を発見したからだ。
その人物の発するただならぬ雰囲気に全員が進むのをやめ、誰も口を開こうとはしなかった。
全身が黒色で髪の毛はなくスキンヘッド、身長はビオラの2倍はあろう巨漢で筋骨隆々、なぜか服を着ておらずブーメランパンツのみを着用していた。
「こうか・・・?いや、もっとこう全身に力を入れて・・・・・・これだ!」
その人物は1人で何か唱えながら、様々なポーズをとっており、己の肉体美を見せつけるかのように全身に力を入れていた。
「ひまわりが感じてた嫌な気配って、アレのことだったのね・・・」
ビオラが怪訝な表情を浮かべながら呟いた。
「多分そうかも・・・。なんだろう、出来ればあんまり、ああいうのは見たくなかったなー」
ひまわりもビオラと同じように顔をしかめ、あまり直視しないように視線を逸らしながら答える。
「まさかビオラちゃんの言うとおり、全身黒くてゴツい人がいるなんて・・・・・・。多分あのヒトがクロカタゾウムシだよね?」
ヒガンバナは2人ほど顔には出さなかったが、少なからず嫌悪感を抱いているようで、話しかけるその声はいつもより低く聞こえた。
「お話が通じるか分かりませんが・・・。とりあえず私が声を掛けてきましょうか?」
桜もその人物の姿に、若干戸惑っているようで表情こそ変えないものの、目線は下を向き、声は少し震えていた。
「絶対やめた方がいいよ!あんなのに近づいたら桜お姉ちゃんが危ないって‼︎・・・行かせるならひまわりにしようよ!」
前に出ようとする桜の腕を掴み止めようとするビオラ。
「あっアタシ〜⁉︎ホントああいうのは苦手でちょっと行けないかも・・・」
普段は積極的なひまわりだったが、その人物を見る前から感じていた嫌な気配も相まってかなり消極的になっている。
「あっ、気づかれた・・・」
唯一その人物から目線を外さなかったヒガンバナがそう口にする。
「おっ⁉︎どうした嬢ちゃん達!そんなとこにいないでもっと近くに来てオレの肉体美を見てもいいんだぜ!」
4人の存在に気づいたその人物が声を掛けてくる。
「今のところ敵意は感じられないし・・・、ちょっと行ってみようか?」
ヒガンバナの発言に、それぞれ顔を見合わせ、渋々首を縦に振る3人。
そうして全員が止めていた足を進ませ、その人物に近づいていった。