第3話 「つい楽しくて忘れていましたね」
アイリス救出のため合流した、蘭と菊、ヒガンバナ、ひまわり、ビオラ、桜の計6人。
乾いた風が吹き抜ける線路沿いを、6人は進んでいた。
錆びついた標識と、崩れかけの線路が、彼女たちの行く先を示している。
その道のりは、とても険しいものだった。主に仲裁が。
「大体アイリス、無用心すぎるのよ!どうしたらメガネ無くせるわけ?」
「遣いの話を聞いてなかったんですか?紅鶴に遭遇して興奮して転んだと言ってましたよ」
「聞いてたわよ!それで、あたふたしてるところに昆虫騎士団がきて、攫われたってんでしょ?ろくに動けなくなるくらいなら、縛ってでも落ちないようにしときなさいよ」
「まぁ、一理ありますね。目先のものに目がくらんで、文字通り、周りが見えなくなるとは、全く愚かなことです」
「……その辺りで許してあげて下さい……」
ヒガンバナが、なぜか申し訳なさそうに間に入る。それに続き、ビオラが蘭と菊に、質問を投げかけた。
「その、ちなみに昆虫騎士団が根城にしてる場所はですか?」
「この近くにある、ウツノミヤタワーという場所です。バカと煙は高いところが好き、とはよく言ったものですね」
「ならアンタも高いところが好きでしょ?」
自信満々に菊を見ながら、蘭が言葉を返す。それに対し、菊は素の表情で蘭を見つめた。
「……?嫌いですけど?……あぁ、すみません。貴方なりの皮肉でしたか。上手でしたよ」
蘭が怒って口を開く前に、ひまわりが仲裁するかのように話題を逸らす。
「そういえば!ベゴニア様の遣いって誰ですか?アゲハさん?それともミツバチの兵隊さんとか?」
「誰というより…………そっか、アンタ達これまでトウキョウ出たことないから、知らないのね。なら教えられないわ。会った時の楽しみを奪っちゃうから」
さっきまでの怒りを忘れたように、蘭はイタズラっぽく笑う。
「えぇ〜!そう言われると気になります!」
「直に分かります。今もどこかで、見てるかも知れませんよ」
菊も蘭に便乗してニヤリと笑う。
「先程お二人の会話に出てきた、 紅鶴……というのは、機獣でしょうか?」
サクラの問いに菊が頷く。
「そうですよ。因みにアイリスのメガネは今、その紅鶴が持っているようです」
ヒガンバナが少し首を傾げる。
「機獣にも収集癖みたいなのがあるんですか?」
「そんな訳ないでしょ。アイリスの慌てようを見て、メガネが必要そうだったから、持ってれば向こうから来てくれるとか思ってるんじゃない?悪知恵の働くことだわ」
「悪知恵でも、知恵が働くだけマシですよ。誰かさんのような、無知を相手にするよりは幾分楽です」
菊は横目で蘭を見つめながら、口角を上げた。
「何こっち見てんのよ。あたしが無知だとでも言いたいわけ?」
「まぁ!自覚してたんですね。無知の知、という言葉もありますから、貴方は大丈夫ですよ」
「やっぱりバカにしてるじゃない!いい加減にしないと、その口を物理的にきけなくするわよ!」
「力で屈服させようとするなど、愚の骨頂です。まぁ、貴方にそれができれば、の話ですが」
蘭とは対照的に、菊の顔はとても楽しそうだ。
「やってやろうじゃない!」
「駄目です蘭さん!お、落ち着いてください!」
ひまわりが必死に蘭を止める。それを見て、何かを思い出したように、菊が口を開く。
「そうそう、貴方方と合流でき次第、分かれて詮索する許可をもらっていたんでした。つい楽しくて忘れていましたね」
「そうだったわ!やっっと、アンタから離れる事ができるんだから、さっさと決めましょう!」
「……何を決めるのでしょうか?」
桜が恐る恐る尋ねる。
「アイリスを救出する為、昆虫騎士団と戦う組、アイリスのメガネを取り返しに、機獣と戦う組です」
「わたしが昆虫騎士団、菊が機獣の方に行くから、アンタ達も二手に別れて、どっちに付いてくるか決めなさい」
二手に分かれる――その言葉の重みを、全員が無言のまま受け止めていた。
どちらに付いていったとしても、ろくな事にならない。それだけは、誰の目から見ても明らかだった。
「少し、話し合ってもいいですか?」
ヒガンバナ達4人は蘭と菊から少し離れた場所へ移動する。そして、今後の道のりを大きく分ける緊急会議が始まった。




