第2話 「どうりで話が噛み合わないと思ったわ」
正面に立った蘭から、間髪入れずに捲し立てられ、ヒガンバナたち四人は思わず足を止めた。
「ようやく追いついたわ!さっ、いくわよ」
錆びた線路沿いの風が、土埃を巻き上げる。
突然現れたその勢いに、ヒガンバナは一瞬だけ言葉を失った。
「えぇ?いくってどこにですか?」
困惑したヒガンバナが首を傾ける。
「それはアンタ達の方が詳しいでしょ?――攫われた件よ、攫われた件!」
「……?すみません、全然話が見えてこないのですが……」
桜が静かに口を挟むと、蘭は露骨に顔を歪めた。
「はぁ〜?ちょっと菊!どうなってんのよ!」
蘭が勢いよく振り返る。その背後で菊は、呆れたように息を吐いた。
「まったく……挨拶もなしにいきなり連れ出そうとすれば、こうなることぐらい分かりそうですのに」
「アンタは毎回、人を煽らないと生きていけないの?てか、そっちにも話はいってるんでしょ?」
「なんのことですか?アタシ達は、ホッカイドウを目指して進んでいるだけなんですけど……」
ひまわりの言葉に、菊はわずかに眉を上げる。
「直近で、ベゴニア様からの遣いの者は来なかったですか?わたしとそこのは、その指示で貴方達4人を探していたのですよ」
「ベゴニア様の遣い……?私達は数日前に機獣と戦って以降、誰とも会っていません」
淡々と答えたビオラの言葉に、蘭はようやく事情を理解したように目を細めた。
「どうりで話が噛み合わないと思ったわ。この辺りを根城にしてる昆虫騎士団に、アイリスが攫われたのよ!」
その名が出た瞬間、場の空気がわずかに張り詰める。
「だから助けに行くのに、アンタ達と一緒に行動しろって言われたの!」
「アイリスさんが……?あのヒトが攫われるって、よっぽど強い敵なんですか?」
ひまわりの純粋な疑問に、菊が肩をすくめる。
「それも多少はありますが、……どうやらあの子、メガネを無くしてたみたいで。ほら、メガネがないとポンコツですし」
「そこまで言わなくても……」
小さく苦笑しながら、ヒガンバナが続ける。
「でも、どうして私達も一緒に行くことになったんですか?」
「そんなの知ったことじゃないわ。とにかく!ベゴニア様の命令は絶対だし、どうせアンタ達も暇でしょ?」
「まぁ、そこまで急いでいるわけではないですが……」
曖昧に濁した桜に、菊がわざとらしく頭を下げる。
「連れが下品で申し訳ありません。なにぶん、こういった口調でしか喋れない病気でして」
「また下品って言ったわね!この子達の前では隠せてるつもりだろうけど、アンタの方がよっぽど下品で性格悪いから!」
「自らの言動を省みることすらできないとは……。貴方の主も泣いていますよ」
「アンタみたいなのに信仰されてる方が、よっぽど不敬よ!いつもいつもーー」
「あら、貴方こそーー」
一触即発の空気に、ビオラが慌てて二人の間に割って入った。
「わ、分かりました!行きます、行きますから!どうかその辺りで……」
「ふんっ!いい後輩を持ったことに感謝しなさい!」
「自らに言い聞かせるとは、よい心がけですね」
「アンタに言ってんのよ!」
これ以上続けば本当に収拾がつかなくなる。
そう判断したヒガンバナは、軽く咳払いをして場を仕切った。
「まぁまぁ!2人ともその辺りで……!とにかく、その昆虫騎士団の根城に行きましょう」
「詳細は、歩きながら教えていただけますでしょうか?」
桜の言葉を合図に、目的地も事情も曖昧なまま、二組は同じ方向へと歩き出した。




