第1話 「まだ距離あるし、逃げる?」
仙狐との激闘を終えて数日後。
ヒガンバナ、ひまわり、ビオラ、桜の四人は、錆びついた旧東北新幹線の線路沿いを辿りながら、ホッカイドウを目指していた。
まもなく旧宇都宮駅に到着する、というあたりで、おもむろにひまわりが口を開いた。
「あれから機獣にも昆虫騎士団のヒトにも会ってないね〜」
「なに?ひまわり、アンタそんなに闘いたいの?」
ビオラがひまわりに視線を向ける。
「いや〜、そういう訳じゃないけど、桜ちゃんの千紫万紅見たら、アタシも早く自分の花を咲かせられるようになりたいな〜、と思って……」
「だから手頃な相手がほしいって?……意外と野蛮なのね」
ビオラが信じられないといった顔で見つめる。
「違うよ〜!」
必死に手と首を振り、誤解だと弁明するひまわり。間に割って入ったのはヒガンバナだった。
「まぁまぁ、そんなに焦らなくても、すぐ使えるようになるよ」
「そうなのかな〜?あ、そうだ!桜ちゃんはどうやって使えるようになったの?」
「私も聞きたい!あの時は桜お姉ちゃんがいきなり霧に消えて、しっかり見えなかったし、野狐の相手で忙しかったから」
ひまわりが桜に顔を向け質問する。それに便乗するようにビオラも続けて口を挟んだ。
「わたくしですか?……そうですねぇ。そもそも、千紫万紅を使う条件はご存知ですよね?」
タブレットで地図を確認していた桜が、顔を上げた。そして少し考えた後、
「確か、自分のもう一つの名前と、それぞれが象徴する感情・本質を恐れず受け入れた時?……に使えるんだっけ?」
ビオラが記憶を頼りに返答する。
「それが分かんないんだよね〜。名前もそうだし、象徴する感情、本質が何かってどうやって分かったの?」
「本当に偶然ですね。わたくしの場合はおそらく、儚さ、散る覚悟が象徴するものだと思います。それを認めた瞬間、もう一つの名前、咲耶姫も自然と口から出たので……」
桜は仙狐と戦った時のことを思い出しながら語る。自分でも詳しく説明できないのか、少し自信がないといった表情だ。
「そうなんだ〜!ヒーちゃんは?」
ひまわりは次にヒガンバナへと質問をする。4人の中で最初に千紫万紅を使えるようになったのはヒガンバナだ。桜より具体的な答えを教えてくれるかもしれないと思ったからだ。
「私も同じかな。あとは使う前に、考えるより先に身体が答えを出す感じ。今なら絶対に千紫万紅を使えるって分かるんだよね」
「……?どういうこと?」
ビオラが首を傾げる。
「出来る出来ないとかを考える余地が消えて、《《失敗する可能性》》そのものが頭に浮かばなくなるの」
「わたくしも同じ感覚でしたね。出来ないという選択肢は、全くありませんでした」
ヒガンバナの意見に桜も同調する。
「……ビオラちゃん、分かった?」
2人の意見を聞いて、さっぱり分からないといった顔でビオラを見る。
「使えるようになったら勝手に分かる。参考になったような、ならなかったような……」
ビオラも言わんとしていることは理解できたが、再現性はなさそうだと、半ば諦める。
「だよね〜。ま、ホッカイドウまでまだまだ時間あるし、それまでには使えるようになりたいな〜」
ひまわりは一旦考えるのをやめ、両手を頭の後ろに組みホッカイドウに想いを馳せる。
その言葉を聞き、以前から気になっていたことをヒガンバナは聞いた。
「そういえば、ホッカイドウに何があるの?ひまわりちゃんの思い出の場所っていうのは前に聞いたけど……」
「あれ?まだ話してなかったっけ?実はーー」
ひまわりが続きを喋ろうとした瞬間、少し遠くから何者かの話し声が聞こえてきた。
「いつになったら見つかるのよ!アンタ道間違えてんじゃないの?」
「そうやって疑うことしか出来ないなんて、可哀想ですね。信じる心ってご存知ですか?」
「アンタが信用ならないだけよ!大体この前もーー」
「またその事ですか?貴方の方こそーー」
その声に聞き覚えがあるのか、ひまわりは他3人の方を向き慌てた表情を見せる。
「……この声って……!」
「まだ距離あるし、逃げる?」
「こら、ビオラさん!逃げるなんて失礼な……。ただこのまま進むより、別のいい道があるのでそっちに行きましょう……」
「ごめん、私目があっちゃった……」
ヒガンバナが申し訳なさそうに口を開く。
「あぁーー!やっっと見つけた!ちょっと、そこで待ってなさい!」
声の主の1人が急いで駆け寄ってくる。白髪で黒い修道服を身に纏い、胸元の大きな十字架のペンダントを激しく揺らしながら。
もう1人は呆れた様子で片方を見送りながら、歩くペースを変えずに近づいてくる。金髪に焦茶色の法衣を着ており、左手に持った錫杖の鈴の音が、逆に不気味だった。
「……なんかアタシ達のこと探したっぽい?」
ひまわりが半ば諦めと困惑の表情をする。
それがヒガンバナ達4人と、華乙女の中でも特に思考が歪んでいると噂され、本人たちには知られぬまま、狂園六華と呼ばれる内の二人――蘭と菊との会合の瞬間であった。




