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千紫万紅〜終末世界に咲く華乙女〜  作者: 東雲大雅
第二章 咲耶姫

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第19話 「よくあれと会話してみようと思ったわね。」

 ヒガンバナの治療を終えた桜は、ひまわりの前に立ち、そっと手をかざした。

 淡い光が指先から零れ、戦闘で負った傷が少しずつ塞がっていく。


 ひまわりに手を向けたまま、桜は今後の動きについて口を開いた。


「まずは各々野狐(やこ)と戦った感想を言っていきましょうか」


 桜がソファに座る3人の顔を見渡す。最初に声を上げたのはビオラだった。


「毛皮が硬くて弾丸が通らなかった。でも、目と関節部分はそんなに硬くなかったわ」


 ビオラの言葉に、桜は小さく頷く。


(わたくし)も胴体を断つ事は出来ませんでしたが、尻尾の付け根は細かったので斬れました」


「確かに硬かったな〜。あと、全く話が通じなかったよ! そもそも聞いてないのか、全然会話にならなかったね」


 ひまわりは天井を見上げ、思い出すように語る。戦闘中の光景が、まだ頭から離れていない様子だった。


「よくあれと会話してみようと思ったわね。最初に出てきた時から、こっちの話完全に無視してたじゃん」


 横に座るひまわりの方を向き呆れた顔を見せるビオラ。その指摘を受け、少し俯きながらビオラに視線を合わせる。


「うぅ〜。でももしかしたらと思って〜」

 

 言葉尻は弱いが、その奥には、戦わずに済む可能性を探そうとした必死さが滲んでいた。


「まぁまぁ、でもそのおかげで完全に会話が出来ないって分かったわけだし」


 そう言ってから、ヒガンバナは少し考えるように視線を落とす。


「……あっ。攻撃の仕方が一定というか、割と決まった動きが多かったかな」


 話題が自然と野狐の行動に移る。


「確かに動きは単調でしたね。ただ、あの爪と牙には警戒しないといけませんが・・・」


「そもそも、どこかに連れて行こうとしてたけど、どうするつもりだったんだろう?」


 ふと浮かんだ疑問を、ひまわりが口にする。


「そういえば桜お姉ちゃんのタブレットには尻尾が弱点の他に何て書いてあったの?」


 ひまわりの言葉を受け、ビオラも続けて視線を向ける。

 桜は一瞬だけ思考を巡らせ、記憶の中から野狐の情報を引き出した。


「常に複数個体で行動して、仙狐(せんこ)と言う機獣が統率してると書いてありました」


「じゃあ、その仙狐がいる場所に連れて行こうとしてたのかな?」


「あの逃げた2体は、仙狐って機獣の所に報告しにいったんじゃない?」


 ひまわりとビオラが、それぞれの推測を話す。部屋には、わずかな沈黙が落ちた。


「だとしたら、次は仙狐が攻めて来る可能性もあるね」


 ヒガンバナは顎に手を添え、静かに言った。


「今後警戒する必要がありますね・・・。はい、ひまわりさん。終わりましたよ」


 桜は治療を終え、かざしていた手をゆっくりと下ろす。


「桜ちゃんありがとう! これでいつでも戦えるよ〜!」


 ひまわりは軽く肩を回し、屈託のない笑顔を見せた。その様子を微笑ましく見つめる桜。


「機獣についてある程度把握できましたが、どう対策していきましょうか?」


「至近距離なら私のライフルで尻尾を撃ち抜けたけど、胴体は怪しいかも・・・」


 ビオラは指先でライフルの感触を確かめるように、静かに言った。


「でも関節に当てれれば動きを止められるんだよね? なら、遠くからビオラちゃんに援護してもらって、アタシと桜ちゃんで尻尾を壊していくのはどう?」


 ひまわりは身を乗り出し、言葉に合わせて手振りを交える。


「私も闘いたいけど、また皆に迷惑かけちゃうかも・・・」


 ヒガンバナの声は小さく、視線もわずかに伏せられていた。


「弱気なんてらしくないよヒーちゃん! 迷惑だなんて思うわけないじゃん!!」


 ひまわりは即座に返し、ヒガンバナの方をまっすぐ見つめる。


「ヒガンバナさんはビオラさんの近くにいてもらって、周囲の警戒をしてもらうのはどうでしょう? 」


 桜は全員の位置関係を思い浮かべるように、穏やかに提案した。


「それすっごい助かる! ライフル使ってるとどうしても視野が狭くなっちゃうから、別方向からの攻めも対応できるし!」


 ビオラがはっきりと頷く。


「うん! 私もみんなの役に立てるよう頑張るね!」


 ヒガンバナの表情に、喜びと決意が宿る。その空気を感じ取ったひまわりも、同じように笑みを浮かべた。


 話し合いを終えた一行は、それぞれ明日に備えて身体を休めることにした。部屋には静けさが戻り、寝息だけが、かすかに聞こえる。


――だが、夜が明ける前。

 ひまわりの腕時計から、来訪者を告げる短い電子音が鳴り響いた。


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