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千紫万紅〜終末世界に咲く華乙女〜  作者: 東雲大雅
第二章 咲耶姫

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第16話 「参ります」

 皆に指示を出した桜は、正面からくる野狐(やこ)に対して刀を構える。


「尻尾を切ればいいわけですが・・・」


 2体の野狐が互いに呼応するように爪で引っ掻くような飛びこんできた。


 一瞬、刀で受け押し返そうとするが、2体の力が強く押されそうになる。それを悟った桜はあえて刀を握る手を緩め、すれ違い様に野狐の胴体を斬り伏せる。毛皮表面部分を感触はあっても、内部まで到達してない事は明白だった。


「胴体を一刀両断とはいきませんか・・・」


 野狐との間合いを図る。2、3歩踏み込めば刀が届く距離。先に仕掛けたのは桜だった。


 野狐の首元を目掛けて刀を横に振り切る。今度は野狐が後ろに飛び、刃が空を切った。

 続け様に踏み込み、頭部を狙い縦に刀を振り下ろす。しかし、硬い金属音と共に刀が弾かれる。刀を見ると刃こぼれはなかった。


「あの時もそう。問題なのは刀ではなく(わたくし)自身。まだこの刀を使いこなせてない証拠」


 桜の脳裏にクロカタゾウムシとの対戦がよぎる。


「今はまだあの衣を斬る実力はない。でしたら、切れる部分を探すのみです!」


 桜は静かに息を吸い、野狐との間合いを一度リセットするように足を滑らせた。


 風がひと筋、頬を撫でる。野狐の金属の軋みが、わずかに空気を震わせる。


 2体の野狐が再び突進してくる。爪ではなく噛みつきで桜の首を左右から狙ってきた。


 桜が強く踏み込む。それは斬るための踏み込みではない。円を描くように流れ、野狐の死角へ回り込むための、舞の一歩。


 標的を見失った野狐の爪は空へ外れ、体制がわずかに崩れる。


(先ほどもそう、やはり・・・重心の移し方が単調ですね)


  動き方、踏み込みの癖、攻撃に入る直前の重心の配分。

 それは剣士の目からすれば、丸見えの隙に等しい。


「重心を支える足を……いただきます」


 桜は一歩で間を詰めた。


 刃は低く、静かに走る。


 桜花が舞うような軌跡を描き、野狐の右前足――関節の“外側”を正確に薙ぐ。

 金属を完全には断てずとも、重心を狂わせるには十分だった。

 野狐の身体が前のめりに沈む。

 その瞬間、桜はすでに次の構えへ移っていた。


霞神楽(かすみかぐら)ーー艶武(えんぶ)!」


  倒れ込む勢いを利用して、桜は野狐の尻尾へ逆袈裟に刀を滑り込ませた。

 上から下へ、無駄のない最短距離。

 付け根部分を一刀両断し、野狐はそのまま地面へ倒れ込んだ。


「制御アンテナノ損傷ヲ検知シマシタ。活動ヲ停止シマス。制御アンテナノ交換、マタハ修理ガ完了スルマデ再起動出来マセン」


 抑揚のない機械音と共に一体の野狐が動かなくなる。


 桜はすぐにもう一体の野狐から距離を取る。

 呼吸は乱れていない。むしろ、研ぎ澄まされていた


「こちらの動きに合わせて攻撃してくるのであれば・・・」


 桜は刀を鞘に納めた。姿勢を低くし、居合の構えを取る。


 野狐は変わらず正面から飛び込んでくる。


「参ります」


 一閃。

 

 刀は美しく弧を描き、正確無比に野狐の尻尾を切り飛ばした。


 糸が切れたように倒れ込む野狐。短い吐息と共にすっと刀を払う。


「他のみなさんは・・・?」


 辺りを見渡すと、すでにビオラ、ひまわりの足元に野狐が転がっている。そして2人とも同じ方向を向いていた。


「・・・・・ヒガンバナさん?」


 ビオラとひまわりの視線の先、ヒガンバナが同じく野狐との戦闘を繰り広げている。


「何か意図があるのでしょうか?・・・いや、しかし・・・・・・」


 そこには野狐からの攻撃をひたすら避けるヒガンバナの姿。いつもと変わらない戦闘スタイル。しかし妙な違和感を覚える。

 相手の力を利用して攻撃するはずのヒガンバナが、避ける事だけに徹していて技を出していない。


「・・・っ、いけません!」


 初めて見るヒガンバナの焦った表情を見て、桜は急いでヒガンバナの元へ駆け寄った。

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