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千紫万紅〜終末世界に咲く華乙女〜  作者: 東雲大雅
第一章 曼珠沙華
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第3話 「皆様の無事を心から願っております!」 

「ふぅ………」


 4人が松の間から退出するのを見届けたベゴニアは座っていた椅子にさらに深く腰掛けため息を漏らす。


「あら?いつからいたのアゲハ?いるなら声をかけなさいよ」


 視線も向けずに椅子の後ろに佇む人物に声をかける。



「初めからずっといましたよ。気配を消していたので4人には気づかれていないと思いましたが・・・」


 黒の燕尾服に白いワイシャツ、首には薄い黄色の蝶ネクタイ、黒の髪をオールバックで整えた背の高い人物がそう答える。


「3人はともかくヒガンバナは気づいていたわよ。あの子は誰よりも《《目》》がいいから」


「流石はヒガンバナ殿。彼女とは絶対に敵対したくないものです」


「それが賢明よ。あの中で唯一《《千紫万紅》》が使える子だし……何より怒らせるとワタシでも手に負えなくなっちゃうくらいだから」


 左手で頬杖をつき上目遣いでアゲハを見る。その言葉にアゲハが苦笑しながら返す。


「ご冗談を……。あなた様ほどのお方が手に負えないとなると誰も彼女を止められないことになりますよ」


「実際にはそれだけ大きな力を秘めているってだけの話よ。その力を無闇に使わない子だっていうのはワタシがよく知ってるわ」


「あなた様がそこまで仰るのは珍しいですね。何か彼女に思い入れでも?」


 にこりと笑い興味津々にアゲハが問いかける。その問いかけにベゴニアは呆れたように答える。



「あの子だけに思い入れがあるってわけじゃないわ。ワタシは華乙女の全員を平等に愛してる。誰か1人だけ特別扱いなんて事するわけないじゃないの」


 呆れた表情とは裏腹にその言葉には一切の澱みない真剣な声色だった。


「その言葉が聞けて大変嬉しく思います。やはり私目が仕えるお方はあなた様しかおりません」


 ベゴニアの答えに感銘を受けたのか、誰に言われたでもなく深々と腰を曲げ頭を下げるアゲハ。それを見たベゴニアは少し鬱陶しそうに顔を歪ませた。



「よしなさいよ、いきなり……。全員とは言ってもラフレシアだけは例外よ。……あのクソババアには、必ずこれまでの悪行の代償を支払わせる!」


 これまでにない怒りのこもった声で話す。いつのまにか右手の拳を固く握りしめていた。


「その意見には私目も賛同しております。あの者のこれまでの所業はあまりにも《《凄惨》》すぎる」


 頭を上げベゴニアに視線を向ける。過去にラフレシアが行った所業を思い出し、眉をひそめ怒りの表情をあらわにする。



「それがかつての同志と戦うことになってもかしら?」


 アゲハの顔をチラリと見ながらベゴニアが問いかける。目が合ったアゲハは先ほどの表情から一転し、すました表情で淡々と話す。



「ラフレシアではなくあなた様に忠誠を誓ったあの日から覚悟は出来ております」


 ベゴニアの顔を真っ直ぐに見つめるアゲハの真剣な眼差しに、思わずベゴニアは視線をそらし誤魔化すように言葉を紡ぐ。



「ミツバチといいアンタといい…….ワタシについた元昆虫騎士団の連中は変なのばっかりね」


 そう呟くベゴニアの表情はどこか嬉しげであった。




 宮殿からの帰り道、皇居を出るため再び坂下門まで歩くヒガンバナ等。

「ほらね~!アタシが言った通り、トウキョウから出ていいって話しだったじゃん!」

 両手を頭の後ろで組みながら歩くひまわりが自信満々に話す。

 ベゴニアの約束がよほど嬉しかったのか宮殿を出てからずっと笑顔だ。


「そのかわり、クロカタゾウムシってヤツを倒さないといけないんでしょ?あの時は嬉しかったけど今考えると上手く利用されてる気が・・・・・・」


 ベゴニアの言葉に嘘はないと信じている。ただ、上手く言いくるめられた気がしたと今になって思うビオラがそう口にすた。右手で顎を触りながら上目遣いで考える。しかし、考えてもしょうがないと思ったビオラは左右に首をブンブンと振り、自身の不安を払うかのように話し始める。 


「ダメダメ!弱気になっちゃ!ベゴニア様の言葉を信じて私達が出来ることを頑張らなくちゃ!」


 気合十分といった様子でガッツポーズをするビオラを微笑ましそうに見る桜は、どこか上の空で考え事をするヒガンバナに視線を変え話しかける。


「どうかしましましたか?ヒガンバナさん。何か気になることでもありました?」


 急に話しかけられたヒガンバナは身体をビクッとさせ桜の方を向き少し驚いた表情を見せる。


「あっ!桜ちゃんか~。ごめんね、ちょっとびっくりしちゃって。・・・気になるってほどじゃないんだけど、何でアゲハさんはベゴニア様の後ろに隠れてたんだろうと思ってさ」


 ヒガンバナの言葉に、今度は3人が驚いた表情をする。ベゴニアの言う通り、ヒガンバナ以外の3人はアゲハがいたことに気がついていなかったようだ。


「えっ?アゲハさんいたの⁉︎何で出てこなかったの⁉︎ていうかヒーちゃん何で気づいたの⁉︎」


「何でって言われても、見えてたからとしか・・・・・・」


 矢継ぎ早に話すひまわりに圧倒され、言葉に詰まっていると、ちょうど坂下門まで到着し、門を警備しているミツバチと目が合った。


「おや、皆様お疲れ様でした。ベゴニア様のお話はいかがだったでしょうか?」


 入門した時と同様に右手をこめかみ辺りにあて敬礼をするミツバチに、ひまわりが上機嫌に話しかける。


「ミツバチの兵隊さんお疲れ様です!じ・つ・は!ベゴニア様からの依頼で、浅草寺に最近きたクロカタゾウムシって奴を追い払えたら、トウキョウから出て旅をしていいって言われたんですよ!」


 それまで優しい笑みを浮かべていたミツバチだったが、クロカタゾウムシという名前が出た瞬間、眉をひそめ、これまで4人が見たこともないような険しい顔つきをした。

 その顔つきを見たひまわりが「あっ!」と口元を右手で隠し、目線を下げ申し訳なさそうに口を開いた。

 


「ごめんなさい。アタシったらミツバチの兵隊さんの気持ち何も考えてなくて・・・」


 ひまわりの言葉と今にも泣きそうな表情を見たミツバチは、すぐにいつもの優しい表情に戻り、話し始める。


「いえいえ、お気になさらずに。こちらこそ無様な表情を見せてしまい申し訳ありません。元同僚といえども今は敵です。ひまわり殿が謝る必要などないですよ。必ずや彼奴を追い払ってきてください。」


 宥めるように落ち着いた口調で話すミツバチの曇りのない瞳を見たひまわりは、次第に元気を取り戻し、にこりと笑うと、ミツバチが行うように右手をこめかみ辺りまで持っていき、敬礼の姿勢をとりながら答える。


「お任せください!必ず依頼を達成してきます!」


「その意気ですひまわり殿。お三方にも重ねてお願い申し上げます。ただ、無理はせず無事に戻ってきてください。それだけが本官の願いです。」


 4人全員に目線を向けたあと、帽子をとり深々と頭をさげる。それを見た3人もひまわりと同様に敬礼の姿勢をとる。


「私が必ず皆んなを守りますので安心してください!」


「ヒガンバナちゃんずるい!私もそういうカッコいい言葉言ってみたかったよ~」


(わたくし)も皆さんのお力になれるよう頑張ってきますわ。」


 それぞれの意気込みを聞き、嬉しそうに顔を上げたミツバチは再び帽子を被り、姿勢を正して最後の挨拶をする。


「それでは皆様お気をつけて!皆様の無事を心から願っております!」 

 

 4人は一斉に歩き出し、クロカタゾウムシがいる浅草寺へ向かうのであった。


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