第8話 「……あぁ、美しい」
俺達はクロカタさんの指示で皇居に向かっていた。根城にしてた浅草寺からはそれほど離れてないから、何かあってもすぐにクロカタさんに報告できるしな。
俺が部隊の先頭を歩いていると、こちらに向かってくる2つの影が見えたんだ。
片方は白髪で黒の修道服を着て胸元には大きな十字架のペンダントをつけた女、もう片方は金髪で焦茶色の法衣を着て左手に錫杖を持った女だった。
その2人は何か言い争いをしながらこっちに歩いてきてた。近くにくるまで全く俺達の存在に気づいてなかったよ。
やっと気づいたと思ったら白髪の方が俺達に話しかけてきた。
「そんな大群引き連れてどこ行くつもりなの? 今なら見なかった事にしてあげるから、さっさとラフレシアの所に帰りなさい」
俺はこの時点で少しおかしいなと思ったんだ。何せこっちは何百と数がいるのに相手は2人しかいないんだぜ? 普通なら逃げ出すか、命乞いでもするのが普通だろ?
俺の横にいたアザミウマがその2人組に言ったんだ。
「この数にビビって逆に気が大きくなったか? お前らこそおとなしくベゴニアの所まで案内すれば命までは取らねえよ! ・・・ただ、ちょっと楽しませてもらうけどな!ぎゃはははははー!」
それに全く怯む事なく今度は金髪の方が口を開いたんだ。
「はぁ・・・。横の者が下品な口調で話すからといって、あなた達まで下品に返す必要なんてないんですよ? これの言う通り、今なら見逃してあげますから早く帰ってください」
金髪は横の白髪の修道女を指差しながら、全く緊張感のない声でそう返してきた。その発言に真っ先に突っかかっていったのは俺達じゃなく、横の白髪の方だった。
「誰が下品ですって⁉︎ アンタの腹黒さに比べれば、あたしなんて上品も上品よ! アンタからは口調じゃ隠しきれない性格の悪さが滲み出てるわよ!」
「まぁ!口調だけじゃなく思考まで下品でしたか・・・!わたしとした事があなたを過大評価しすぎていましたね」
「大体アンタはーー」
そっから俺達の事なんてまるで存在してないかのように言い争いを始めたんだ。
ついに痺れを切らしたアザミウマが2人に襲いかかった。
最初に反応したのは白髪の修道女だ。
そいつが胸元の十字架を握るとかすかにスライドし、両端から薄い銀刃が展開して、十字架は瞬く間に“巨大な十字型の刃”へと変貌した。
刃は微かに青白く発光し、まるで聖水に濡れたかのような透明感を帯びる。
俺は不覚にも美しいと感じてしまったね。
「な、なんだそれは――」
アザミウマの言葉が途中で途切れる。
修道女が一歩、足を滑らせるように踏み出し、十字型の刃を横に払った瞬間、アザミウマの腕が綺麗に切り落とされてたよ。
不思議な事に血が一滴も流れてなかったんだ。
それだけでもただ事じゃないと思ったが、本当に恐ろしいと感じたのはその後だよ!
修道女はあろうことか、切断された腕を持って、その切断面をまるで芸術作品を鑑賞するかのように陶酔の微笑みを浮かべながら見てたんだ!
「……あぁ、美しい」
その言葉を聞いた瞬間、完全に血の気が引いたね。あぁ、コイツは関わっちゃいけない部類の奴だと心の底から思った。
「テメェらただで済むと思うなよー!!」
俺の横にいた別の1人が勇敢にも立ち向かっていったよ。今考えれば止めるべきだったんだけどな。
そいつは金髪の尼僧の餌食になった。
尼僧は持ってた錫杖で的確に膝を突いて足を折ったんだ。関節って逆側にも曲がるんだな・・・。骨の折れる音がこっちにまで聞こえてきたよ。
これならまだ尼僧の相手をした方がいいかもな・・・と、一瞬でも考えた俺がバカだった。
「いい音が鳴りましたねー! ですが・・・あなたのその汚い呻き声は聞きたくないんですよ!!」
尼僧は倒れたそいつの頭を容赦なく何度も叩いていた。ついに呻き声すら上げなくなってようやく満足したのか、やっと叩くのをやめて満遍の笑みでこっちを見て言ったんだ。
「次はどなたの骨が、美しい音を奏でてくれますかね?」
そこから何人も襲いかかっていったが、誰もあの2人組を仕留める事は出来なかった。
俺はどさくさに紛れて、少し離れた木に擬態して様子を伺ってたんだ。
100人ほど倒れたが、まだまだこっちには人数がいるし、所詮数の力には敵わないだろうとたかを括っていた時にそれは起こった。
何か2人組が呟くと、辺りが白と黄色の光に包まれ、その光の眩しさに耐えきれず俺は目を瞑ってしまった。
再び目を開くと、あれだけいた仲間全員がいなくなって、代わりに白と黄色の花が咲いていた。




